その後、米国の巨大IT企業は、相次いでインテルに対する投資と協力計画を打ち出した。NVIDIA(エヌビディア)は昨年9月、インテルに50億ドルを投資し、インテルの中央処理装置(CPU)を自社製品に使用すると表明した。今年に入り、スペースXの創業者のイーロン・マスク氏は、次世代半導体工場「テラファブ」にインテルの技術を用いるという内容の契約をむすんだ。6月には、トランプ大統領自らアップルとインテルが協力する事実を公表した。トランプ大統領はSNSに「ついにアップルがインテルと協力し、米国でチップを設計して生産することにした」と投稿した。このような流れには、トランプ政権の水面下での調整が作用したという分析が出ている。ニューヨーク・タイムズは匿名の関係者の話を引用し、「ラトニック商務長官が、エヌビディアのジェンスン・フアン氏、スペースXのイーロン・マスク氏、アップルのティム・クック氏らIT業界のCEOにインテルとの協力を迫った」と報じた。事実上、政権中枢が企業の意思決定に深く介入したことになる。
■企業を動かす「見えざる手」
これは、バイデン政権下の産業政策とも趣が異なっている。当時は「半導体および科学法」(CHIPS法)を通じて、補助金や税控除、金融支援を提供することで政府の役割を果たしていたとするなら、トランプ政権下では、援助する企業に顧客をあっせんする段階にまで進んだと言える。これまでの米国式資本主義では想像できなかったことだ。市場に任せるべき資源配分の過程に政府が直接介入することで、非効率や歪みを招きかねないという懸念が提起されている。過去の米国にも政府介入はあったが、戦争やコロナ禍、世界金融危機などの非常事態に限定されるケースがほとんどだった。
トランプ大統領は最近、現時点では10%の水準である半導体自給率を、任期中に50%に引き上げるという目標まで提示した。米国の半導体需要の半分を米国内で生産させるという野心に満ちた抱負だ。あたかも、中国が2015年の「中国製造2025」で、10年以内に半導体自給率70%を目標として提示したことを想起させる。米国は1980年代にも、半導体産業に対する介入政策を展開したが、そのころとは介入の手法が異なっている。米国は、日本の半導体企業が猛烈な勢いで世界市場を席巻していくと、1986年に日本と半導体協定を結んだ。日本国内における外国製半導体の市場シェアを20%にまで高め、日本製半導体の輸出時の低価格販売を制限する内容だった。米国は1987年には、日本がこれを守っていないとして通商法301条を適用し、報復関税を課して圧力をかけた。当時は主に通商面での圧力を活用したとすれば、今回は最初から政府が企業経営にまで介入し、米国内の半導体製造施設を短期間に拡大すると表明したのだ。
このためにトランプ政権は米国現地の企業を「ナショナル・チャンピオン」に育てる一方、世界最大のファウンドリ企業である台湾のTSMCの米国工場を大幅に拡大する案を推進している。米国は今年1月、台湾に圧力をかけ、関税を15%に引き下げるかわりに、大規模投資を約束させた。TSMCが米国に2500億ドルを投資して半導体工場を建設し、台湾政府は半導体部品企業を米国に移転して半導体エコシステムを構築するために2500億ドルを支援するとうのが主な内容だ。ラトニック商務長官は当時、メディアのインタビューで「数百の台湾企業が米国に来るだろう。われわれは米国に巨大な半導体産業団地を建設することになる」とし、「目標は、台湾の全サプライチェーンと生産量の40%を米国に持ってくること」だと強調した。
このような政策は、米国の危機意識がはるかに強まっていることを示している。1980年代の日本の追撃に対しても当時、「第2の真珠湾攻撃」だとして警戒したが、あくまで経済的な次元での問題だった。一方、現在の中国は経済的・軍事的な面で、米国がこれまで経験したことのない強力なライバルとして浮上している。特に半導体は、未来産業のコメと呼ばれるほど、人工知能(AI)時代の最先端産業と最先端兵器の優劣を分けるチョークポイント(戦略上の要所)とみなされている。米国が半導体製造の90%をTSMCに依存していることに加え、台湾の地政学的リスクが、このような危機意識をさらに強めている。このような流れで米国の半導体政策は、産業政策を超えて国家安全保障戦略の性格を帯びている。
■1930年代に似ていく産業政策
トランプ政権は半導体以外にも、重要鉱物や原子力発電などの分野の企業の株式を確保し、戦略産業に対する統制を強化している。国防総省まで直接乗り出している。国防総省は昨年7月、米国内にある唯一のレアアース生産企業のMPマテリアルズに4億ドルを投資し、全株式の7.5%と、株式7.5%分の追加購入オプションを確保した。その後、中国のレアアース輸出規制が強化されると、昨年末にはバルカン・エレメンツなどの鉱物企業に対する投資を拡大した。さらに、商務省は昨年10月、原子力発電所企業のウェスティングハウスの全株式の8%を購入可能なオプションを確保した。
米国コーネル大学のニコラス・モルダー教授は、米国を含む主要国が50年ぶりに猛スピードで民間企業や資源を国有化していると評した。モルダー教授は先月、国際通貨基金(IMF)への寄稿で「地政学的な不安定性、商品市場の混乱、再生可能エネルギーの開発が国有化の波を煽っている」とし、「多くの政府が介入主義的な経済政策を採用しており、国有化の波はとどまる気配がない」と主張した。モルダー教授は、過去100年間において世界は大きく分けて4回の国有化の波を経験したと分類した。大恐慌時代の1930年代、第2次世界大戦後の混合経済体制の拡大、1970年代のエネルギー・ショック、そして、2020年代だ。
過去の事例と比較すると、現在は1930年代との類似点が多い。フランクリン・ルーズベルト大統領のニューディール政策は、産業復興を通じた経済回復や社会的安定だけでなく、防衛産業の強化を目標とした。大恐慌や保護貿易主義、戦争直前の不安のもとで、自国の生産基盤の復活や戦略物資の自給力拡大に集中した。米国のヘッジファンド「ブリッジウォーター」の創業者であり、『国家はいかにして破綻するのか:ビッグサイクル』(How Countries Go Broke: The Big Cycle、未邦訳)の著者であるレイ・ダリオ氏は昨年9月、フィナンシャル・タイムズのインタビューで、「国家間の対立や戦争が差し迫ったときには、政府が企業と経済をより直接的に統制することになる。技術と経済の戦争で勝利する国が、地政学と軍拡競争でも優位を占めるからだ。現在のわれわれが経験しているビッグサイクルの局面は、1928~1938年のころに非常に似ている」と語った。
■半導体の自立に成功するか
これまでのところ、AI投資ブームがインテルの回復に寄与している。インテルの株価はこの1年で5倍以上値上がりした。これには、リップ・ブー・タンCEOの経営能力や、巨大IT企業との協力関係もあるが、何より、半導体供給不足による影響が大きい。TSMCなどの他の企業が需要に追い付けないため、製品力で一段劣るインテルの製品にまで注文が殺到している。また、AIモデルが学習から推論の段階にまで進化し、CPUの需要が増加していることも、インテルにとっては好材料だ。
しかし、2000年代半ばから、スマートフォンやAIなどの決定的な技術転換期に競争から脱落した企業が、短期間のうちに競争力を回復できるかについては疑問だ。1.8ナノ級の最先端プロセスである「18A」の歩留まりを安定的に確保し、顧客から製品の競争力を認められるまでには、かなりの時間が必要だとみられる。巨大IT企業各社も、いまはトランプ大統領の恨みを買うことを恐れ、インテルとの協力方針を表明しているが、最先端の製品にまでインテルのチップを搭載することは難しい。アップルもスマートフォンではなく、比較的旧型が用いられるノートパソコンのチップの一部にインテルのチップを採用する予定だとされる。
政策の持続可能性も変数となる。中国は強力なリーダーシップのもと、長期的に発展戦略を一貫して推進するが、米国は政権交替によって産業政策の方向が変わる傾向が強い。特に、トランプ大統領の政策は予測性が低いという問題がある。米通商代表部(USTR)のグリア代表は5月、マイクロンの半導体工場増設の式典に参加し、「当面は関税が課されることはない」としながらも、通商拡大法232条にともなう調査が終われば、米国内の半導体生産を促進するために適切な時点で関税を活用するという趣旨の発言をした。今後、米国内における半導体生産の拡大が期待に及ばない場合、韓国のような同盟国に対し、再び関税を武器として振りかざすということだ。