北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記兼国務委員長が「核動力(原子力)戦略誘導弾潜水艦の建造実態」を現地で視察したと、北朝鮮官営「労働新聞」が8日付で報じた。北朝鮮官営「朝鮮中央通信」が報道した水上艦(新型駆逐艦と推定される)と潜水艦建造現場の写真では、水上艦は全体の姿が見えるものの、潜水艦は真っ黒な底の部分だけが写っていた。なぜ北朝鮮は潜水艦の全体の姿を見せなかったのか。2年半前、戦術核攻撃潜水艦を野心的に公開したが、世界の嘲弄の対象になったトラウマのためとみられる。
「朝鮮中央通信」は2023年9月8日、水中で核攻撃が可能な戦術核攻撃潜水艦「金君玉(キム・グノク)英雄艦」を建造し、進水式を行ったと報道した。北朝鮮は戦術核攻撃潜水艦の建造を「主体的な海軍兵力強化の新時代、転換期の到来を知らせる一大事変」だとし、潜水艦全体の姿を撮った写真と共に大々的に報じた。
しかし、北朝鮮が公開した金君玉英雄艦について、当時の米軍事メディア「ウォーゾーン」は「フランケンサブ」(フランケンシュタイン潜水艦)と貶めた。同メディアは「骨董品であるロミオ級ディーゼル潜水艦を奇怪に改造」したと評した。金君玉英雄艦は船体上部の構造物にミサイル発射管を追加するなど、原型が分からなくなるほど大幅に手を加えたものだが、これを小説「フランケンシュタイン」に登場する怪物に例えて皮肉ったのだ。
金君玉英雄艦は、旧ソ連が1957年に設計したロミオ級潜水艦(1800トン)の船体にミサイル垂直発射管をつなぎ合わせて3000トンに規模を拡大した。3000トン潜水艦のミサイル垂直発射管は6個だが、金君玉英雄艦には10個の垂直発射管が装着された。当時、韓国軍合同参謀本部は「金君玉英雄艦は正常に運用できる姿ではないと判断される」と述べた。韓国と米国の専門家たちは、この潜水艦が奇形的な拡張で発射管を無理に増やしており、実際の作戦環境でミサイルを発射できるかどうかは不明だと評価した。
金君玉英雄艦が「継ぎはぎの潜水艦」という酷評を受けたのは、北朝鮮には原子力潜水艦の胴体である船体を建造する技術がないためだ。3000トン級以上の潜水艦の建造は、規模の拡大だけで終わるわけではない。敵の追跡を避けてさらに深く潜る能力(最大作戦深度)を備えるためには、水の圧力に耐える特殊合金でつくられた圧力船体(Pressure hull、耐圧殻)の製作技術が欠かせない。ディーゼル潜水艦は200〜300メートルの深さで活動し、原子力潜水艦は最大600メートルの深さまで下がる。潜水艦が100メートルの深さに下がれば、1平方メートル当たり100トンの圧力を受けるため、通常の軍艦を作る鉄で潜水艦船体を作った場合、海の中に入ると、船体が缶のようにつぶれてしまう。
潜水艦は水圧だけでなく相手の魚雷・爆雷攻撃の水中爆発の圧力にも耐えなければならない。潜水艦船体は水圧と爆発の衝撃に耐える特殊合金で作らなければならないが、このような機械産業と鉄鋼産業の基盤を兼ね備えた国は少ない。韓国では国防科学研究所(ADD)とポスコが共同で圧力船体を作った。独自の技術力で3000トン級以上の潜水艦を独自開発した国は、韓国、米国、英国、フランス、日本、インド、ロシア、中国の8カ国に過ぎない。
原子力潜水艦の建造においては原子炉もカギとなる。北朝鮮は潜水艦や水上艦の原子炉を作った経験がない。原子力発電所の原子炉は地上に固定されているが、原子力潜水艦の原子炉は上下左右の起動にも耐えなければならない。ひっくり返った状態でも作動しなければならず、相手の攻撃を受けて放射能が潜水艦の船体に漏れる危険に備えた安全施設も必要だ。
今月8日に北朝鮮が公開した核動力戦略誘導弾潜水艦は、金君玉英雄艦(3000トン級)より排水量が倍増した6000トン前後と推定される。この潜水艦について、米ランド研究所のブルース・ベネット上席研究員は13日、米海軍の次世代の戦略ミサイル原子力潜水艦(SSBN)「コロンビア」号を例に挙げ、「米国はすでに原子力潜水艦を建造した経験があり、原子炉を潜水艦に合わせる方法も知っているが、コロンビア号の建造は計画通りに進めば8~9年かかるだろう」とし、「北朝鮮にはそのような経験と技術がない」と、「ボイス・オブ・アメリカ」(VOA)のインタビューで語った。英国とフランスも原子力潜水艦を建造するのに7〜8年かかったという。
北朝鮮は、原子力潜水艦を作る資金も技術も足りず、国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁によって外国の支援を受けるのも困難だ。北朝鮮が8日に核動力戦略誘導弾潜水艦を公開すると、北朝鮮が大規模な兵力と兵器を提供する見返りにロシアから小型原子炉などの重要技術を手に入れたという主張が出た。これは、北朝鮮の戦略核潜水艦に対抗し、韓国も原子力潜水艦を作り、核の潜在力を確保しなければならないという主張につながった。
韓国の保守側では、北朝鮮が派兵した兵士の命と引き換えに原子力潜水艦の技術を手に入れた可能性を事実のように考えているが、ロシアが国家戦略機密である原子力潜水艦の技術を北朝鮮に渡したかどうかは確かではない。米太平洋司令官を務めたハリー・ハリス元駐韓米国大使は「北朝鮮には外部の支援なしに原子力潜水艦を建造する力はないと思われる」とし、「北朝鮮がウクライナでロシアを支援した見返りとしてロシアから支援を受けたかもしれないが、これはあくまで推測に過ぎない」とVOAのインタビューで語った。
北朝鮮は2021年から原子力潜水艦の建造を「戦略兵器5大課業」の一つとして進めている。北朝鮮の原子力潜水艦に対する対策を立てる際は、推測と事実を区分してアプローチしなければならない。北朝鮮の原子力潜水艦が「派兵した兵士の命の値段」という感情的な断定より、北朝鮮潜水艦の真っ黒な底の部分の材質分析に集中した方が、韓国の安全保障に役立つだろう。