ロシアがウクライナを全面侵攻した2022年2月24日、米国のジョー・バイデン大統領(当時)は「(ウラジーミル・)プーチン(ロシア大統領)は侵略者」だと批判し、「米国は脅迫に対抗することで、自由を擁護する」と強調した。しかし、ウクライナ戦争勃発から3年後、米国のドナルド・トランプ大統領は、支援の対価としてウクライナの鉱物の収益の半分を米国に渡すよう求める残酷な契約書を押し付けている。価値観に基づいていたバイデン政権時代の米国の対外政策が、トランプ時代には商業的な取引関係に変わったことを象徴的に示している。
トランプ大統領は22日(現地時間)、メリーランド州オックスヒルで開かれた2025年保守政治行動会議(CPAC)での演説で、「ウクライナとの鉱物協定(の署名)にかなり近づいた」と述べた。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領も21日夜の動画演説で、米国とウクライナの交渉チームが合意草案を準備するために作業中だとして、「公正な結果になるよう希望する」と述べた。しかし、終盤の調整がうまくいっていないという情報も多く、実際の妥結までには時間がさらにかかる可能性もある。
鉱物協定には、ウクライナが苦慮を重ねざるをえない内容が含まれるものとみられる。ニューヨーク・タイムズがこの日入手して報じた「2月21日付の協定修正案」によると、ウクライナは石油・ガス・鉱物などの天然資源の収益だけでなく、港湾とインフラ施設から発生する収益の半分を、米国が全面的に統制する基金に投じなければならない。米国の要求事項は、ウクライナの昨年の天然資源の収益11億ドルの450倍を超える5000億ドル(約75兆円)に達することがわかった。ウクライナは、拠出額が5000億ドルに達するまでは、収益の半分を基金に投じなければならない。これまで米国が提供してきた支援金額の4倍を超える規模だ。ニューヨーク・タイムズは「トランプ政権が、これをこれまでの軍事および財政支援に対する補償として要求するものなのか、今後の支援を条件して挙げているのか不明」だとし、「ウクライナがあまりにも過酷だという理由で拒否した草案に近く、一部の条項は逆にさらに強化された」と報じた。
米国の支援をウクライナの天然資源と交換しようというアイデアは、ウクライナが先に提案した案だった。しかし、米国がウクライナの鉱物とエネルギー資源の収益の50%を要求しているうえに、明確な安全の保証の約束が含まれていないため、現時点では最終合意に至っていない。
トランプ政権は今回の協定を通じて、両国が経済的パートナーの関係になれば、ウクライナに対する事実上の安全の保証になるという立場だ。ホワイトハウスのマイケル・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)は前日、「米国と経済的パートナーシップを結ぶことよりも良い安全の保証がどこにあるのか」と述べた。
ウクライナには、欧州最大規模のチタン(航空・海軍での合金製造に必須)、リチウム(バッテリーの重要素材)が埋蔵されており、レアメタルも一部存在する。
米国は先週、スコット・ベッセント財務長官をキーウに送り、鉱物協定の草案を提示したが、ゼレンスキー大統領はこれをその場で拒否し、両国間で緊張が高まった。しかし、米国のウクライナ・ロシア担当特使のキース・ケロッグ氏がキーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談を進め、交渉が進展したという。
米国は、ウクライナが戦争勃発から3年を迎えロシアを糾弾するために国連に提出した決議案を無力化することにも全方向に動いている。
22日付のウォール・ストリート・ジャーナルによると、ウクライナが提出した決議案には、ロシアの侵攻責任を明確に規定し、即時の軍撤収と戦争犯罪に対する責任を要求する内容が含まれている。ウクライナは、ロシアのウクライナ全面侵攻が始まってから3年目となる今月24日に総会での決議案が採択されることを目標としている。
一方、米国が提出した決議案には、「侵攻」の代わりに「紛争」という表現で「紛争の迅速な終結」などの内容が加えられた。ロシアの責任は明記されていない。米国は欧州諸国にウクライナ決議案を支持しないよう要請したと、ウォール・ストリート・ジャーナルは報じた。
ウクライナを排除し、18日に長官級会談で始まった米国とロシアのウクライナ戦争終戦交渉も速度が増している。ロシアのセルゲイ・リャブコフ外交次官が国営通信社のRIAノーボスチとのインタビューで、米ロ首脳会談の準備は「すでに始まっている」とし、「カギは米ロ両国が関係正常化に向かって進むことだ。また、最も深刻で、潜在的には最も危険になる可能性のある状況を解決する方法を探らなければならない。このうちの相当部分は、ウクライナに関係している」と述べた。リャブコフ次官は、ロシアは米国とビジネスについて対話する準備はできているとも明らかにした。