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ハン・ガン氏著書のフランス語訳者「やっと彼らも理解した」

登録:2024-10-14 09:16 修正:2024-10-14 10:29
フランスで活動する翻訳家のチェ・ギョンナン氏/聯合ニュース

 「最初に受賞の一報を聞いたときには、すぐには実感がわきませんでした。何か非現実的な空間にふわりと浮かんでいるような感じでした。その後、少ししてから、『やっと彼らも理解したのだな』という思いとともに、形容しがたい喜びに包まれました。別の見方をすれば、ノーベル文学賞受賞は当然の帰結だといえます」

 フランスで活動する翻訳家のチェ・ギョンナン氏(61)は、ハンギョレにこのように語った。今年のノーベル文学賞の受賞作家、ハン・ガン氏(韓江、53)の最新長編『別れを告げない』(2021年)を昨年フランス語圏に紹介した人物だ。チェ氏と共訳したピエール・ビショー氏は受賞の知らせに「大泣きした」という。2023年11月にこの作品がメディシス賞外国小説部門賞を受賞したときにも想像できなかった光景だ。

 英国のブッカー賞とフランスのメディシス賞外国小説部門賞(翻訳作品)を両方受賞した非英語圏の作家は、ハン・ガン氏だけだ。英訳の『菜食主義者』(2015)で翌年にブッカー賞を受賞することに貢献した人物が英国の翻訳家のデボラ・スミス氏(37)だとすれば、フランス語訳『別れを告げない』のメディシス賞受賞に貢献した人物がチェ・ギョンナン氏だ。「現地化・創造性の翻訳」がテボラ・スミス氏の手法だとすれば、「原文に近い翻訳」がチェ・ギョンナン氏の手法だ。

 11~12日の2日間にわたり、チェ氏と電子メールでインタビューを行った。ノーベル文学賞の発表を受け、チェ氏も「四方から津波のように連絡が集まる」渦中にあった。

 フランスは国外文学に冷淡な方だ。好みの問題でもあるが、根底にあるのはプライドだ。韓国の大学卒業後にフランスで博士課程を修了し、30年以上翻訳に従事してきたチェ氏は、変化は最近起こったものだとみる。チェ氏は、韓流とともに最近では「韓国文学に対する心理的な距離感もかなり減った」として、メディシス賞外国小説部門賞の受賞を「同じ流れで理解できる」と述べた。2017年にフランス語翻訳されたハン・ガン氏の小説『ギリシャ語の時間』は同賞の候補で終わった。「デカダンスに陥った既存の文学賞」を批判し、1958年に新設されたメディシス賞は、ゴンクール賞、フェミナ賞、ルノードー賞と並ぶフランス4大文学賞のなかでは最も新しい。『別れを告げない』のフランス語版は昨年8月に出版(グラセ刊)後、ノーベル文学賞の発表直前までに1万3000部ほどが販売されたという。現在は各書店で本が品切れ状態だ。

 以下は一問一答。

――作品を翻訳する際には何が難しかったか。

 「文学作品の場合、翻訳の難易度や苦労は作品が持つ魅力に左右されると思います。良い作品の場合、翻訳の没入感とその楽しさが大きいため、作業ペースも速まり、苦労も特に感じられません。この作品を翻訳していた時間は祝福のような時間でした」

 苦労がないわけではない。タイトルからして直訳はできず、文中の韓国の方言は「忘れなければならない」。『別れを告げない』は作中の済州4・3事件の被害者の済州ことばが、耐え忍ぶ悲感として吹き荒れる。フランスのマルセイユの方言で訳せばいいのだろうか。言葉の歴史や言葉の情動が違う。変えられた言語の意味と脈絡によって、元の言語が救われることを祈るしかなかった。

――タイトルはどうだったか。

 「フランス語の文法上、主語を必ず明記しなければなりません。そのため、『私は』『私たちは』『誰か』が『別れを告げない』ことになり、不自然になります。フランス語で最も自然かつ韓国語の原文に最も近い表現を探し、『未完成の別れ』『不可能な別れ』などを提示しましたが、最終的には『不可能な別れ』(Impossibles Adieux)で意見がまとまりました」

ハン・ガン氏の最新長編『別れを告げない』の2023年フランス語訳本の表紙//ハンギョレ新聞社

昨年11月、フランスのメディシス賞外国文学賞を受賞したハン・ガン氏(54)が同月14日、ソウル市木洞の放送会館で開かれた記者懇談会で感想を述べている=文学トンネ提供//ハンギョレ新聞社
 韓国の「局地的」な悲劇は伝わったのだろうか。メディシス賞受賞直後の昨年11月、ハン・ガン氏は記者団に「フランスの読者に済州の歴史的な事件を追って説明する必要はなかった」と述べたことがある。チェ氏はこう語る。

 「小説の背景と文脈は韓国的だとしても、『人間の暴力性』は普遍的に強行されてきました。考えてみると、産業革命後の西欧の歴史こそ『人間の暴力性』の集大成だと言えるのではないでしょうか。背景と脈絡は違いますが、西欧人にも十分に共感を得られる作品です」

 当然のことだ。『別れを告げない』と対になる光州5・18(光州民主化運動)が舞台の長編『少年が来る』について、スウェーデン・アカデミーは「残酷な現実を直視し、これを通じて『証言文学』というジャンルにアプローチする」と評した。今年3月に『別れを告げない』はエミール・ギメ・アジア文学賞を受賞し、「友情と想像力に対する賛歌であり、何より忘却に対する強い告発」だという評価を得た。

 ハン・ガン氏の作品は、世界の28の言語圏で80冊を超える単行本によって読者に出会っている。フランスだけでも、2011年の『韓国女性文学短編集』と2014年の単独小説『風が吹く、行け』(原題)以降、様々な作品が紹介されてきた。来年3月には詩集『引き出しに夕方をしまっておいた』(Soirs ranges dans mon tiroir)もフランス語で出版される(チェ・ミギョン、ジャン‐ノエル・ジュテ共訳)。これに関わる訳者については、この記事ではすべてを書きつくすことはできない。

――フランス文学賞の受賞歴がノーベル文学賞の受賞に大きく貢献したようだが。

 「私は『別れを告げない』の訳者にすぎません。様々な作品が別の翻訳者の仕事によってフランスで出版されました。そして、2016年には英国で『菜食主義者』がブッカー賞を受賞し、各国の多くの翻訳者の努力によって、作家が世界中に知られました。時期的にみれば、メディシス賞の受賞後に今年のノーベル賞受賞に至り、ある程度の重みを与えたかもしれませんが、長い間の多くの言語圏の翻訳者の努力が実を結んだのだと思います」

イム・インテク記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/1162263.html韓国語原文入力:2024-10-13 20:53
訳M.S

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