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日本の原子力専門家「汚染水放出を止め、独立的な監査機構作るべき」

登録:2024-02-21 13:00 修正:2024-02-21 19:19
長崎大学核兵器廃絶研究センターの鈴木達治郎教授=長崎/キム・ソヨン特派員//ハンギョレ新聞社

 「日本政府はひとまず放出を中断し、利害関係者が信頼できる『独立的な監査機構』を作らなければならない」

 日本の福島第一原発の放射能汚染水の海洋放出から今月24日で丸6カ月になる。福島第一原発の運営会社である東京電力はこの6カ月で汚染水2万3400トンを海に注ぎ込んでおり、このような汚染水放出は今後少なくとも30年は続く予定だ。

 今月14日、長崎大学でハンギョレのインタビューに応じた日本の原子力専門家で、長崎大学核兵器廃絶研究センター所属の鈴木達治郎教授は、昨年8月24日から始まった福島第一原発の汚染水の海洋放出について「これは単に科学・技術的問題ではないという点を認識しなければならない」とし、「過程に対する信頼がなければ、東電がデータを根拠にいくら説明しても信じられなくなる」と強調した。また「原発事故で溶けた核燃料に触れた汚染水を多核種除去設備(ALPS)で浄化し、海洋に長期間放出することは、これまで前例のないことだ」とし、長期的影響に懸念を示した。

 鈴木教授は2010年から2014年まで内閣府原子力委員会委員長代理を務めた、日本を代表する原子力の専門家だ。2011年の福島第一原発の放射性物質流出事故後の収拾過程にも参加した。

 教授は汚染水の放出開始から1カ月後の昨年9月、米国の著名な学術誌「原子力科学者会報」(Bulletin of the Atomic Scientists)に「なぜ日本は福島原発廃水の海洋放出を止めなければならないのか(Why Japan should stop its Fukushima nuclear wastewater ocean release)」という題で寄稿するなど、この問題を国際社会に公論化した。

-今月24日には福島第一原発の汚染水の海洋放出が始まってから6カ月になる。これまで約2万3400トンの汚染水が放出された。日本政府と東京電力、国際原子力機関(IAEA)は、安全に問題がないと主張する。

 「まず明らかにすべきことは、今海洋に放出される処理水は他の原発から放出されているトリチウム水とは異なる点だ。基準値未満ではあるがセシウム、ストロンチウム、ヨウ素など放射性核種を含んでいる。正常稼動する他の原子力発電所から出るトリチウム水では他の核種が含まれることはまれだ。このような処理水が30~40年間放出される場合、海洋環境と生物体にどのような影響を与えるかは不確実だという意見がある。ハワイ大学ケワロ海洋研究所のロバート・リッチモンド所長はナショナルジオグラフィックに『汚染水の海洋放出は国境を越えて世代を越えた事件だ。これが太平洋を取り返しのつかないほど破壊するとは思わないが、だからといって心配する必要がないという意味ではな』と述べた。私が海洋学者ではないので詳しくは分からないが、この意見に共感する」

-日本を代表する原子力の専門家が、著名な米国の専門誌に「日本は放射能汚染水の放出を止めなければならない」という文を寄稿したので驚いた。

 「6カ月が経った今も、ALPS処理水の放出をめぐり、賛成と反対に焦点を合わせた論争が日本内外で続いている。日本政府と東電はトリチウム水だから大丈夫だと主張するが、いろいろな疑問を持っている。最近ようやく西村経済産業相も国会で認めたように(2023年9月)、原発事故で溶けた核燃料に触れた汚染水を多核種除去設備(ALPS)で浄化し、海洋に長期間放出することは、これまで前例のないことだ。この問題を巡り賛否を跳び越え、どうすれば『科学が信頼を得られるか』について討論し、新しい解決法を用意する機会にしたかった」

-汚染水の安全性を議論する際に信頼の問題もあるようだ。例えば不信感を解消するために韓国など多くの国が直接汚染水の試料採取を要求しているが、東電は拒否している。

 「日本政府や東京電力が今回の放出が単純に科学・技術的な問題ではないという点を認識しなければならない。放出に反対するからといって、科学的知識が足りないと考えてはならない。核物理学者アルビン・ワインバーグ(Alvin Weinberg)の用語を借りれば、処理水の放出は『科学で質問できるが、科学だけでは答えられない問題』を意味する典型的な『トランスサイエンス』(科学を超越する)の事例だ。データが全てではないということだ。それが出てくる過程に対する信頼がなければ、東電がデータを根拠にいくら説明しても信じられなくなる。試料採取を拒否する理由はわからないが、拒否するのであれば、その理由をきちんと説明すべきであり、単なる拒否は透明性を落とす行為とみられ、不信が大きくならざるを得ない」

福島第一原発の敷地内のタンクに保管されている放射性物質汚染水/聯合ニュース

-汚染水の安全性に直接影響を与えるALPSの性能も議論を呼んでいる。

 「2018年8月、福島第一原発のタンクに保管中の汚染水の約70%で、セシウム・ストロンチウム・ヨウ素などの放射性物質が基準値以上含まれているということが日本メディアによって暴露され衝撃を受けた。それまでALPSで1次浄化してトリチウムを除いた大部分の核種は検出限界値未満という説明をしてきたためだ。『汚染水』のリスクを低減し、ALPSの性能を確認するために、まずは『汚染水(処理途上水)』をきれいにする作業が優先されると考える。30~40年を浄化しなければならないが、ALPSの性能は心配だ」

-信頼を回復するためには何が必要か。

 「日本政府がひとまず放出を中断し、利害関係者が信頼できる『独立的な監査機構』を作らなければならない。同機構は、福島第一原発の廃炉問題を点検する中で、処理水の放出も同時に扱わなければならない。海洋放出の理由の一つが廃炉のための作業空間の確保だ。現在、廃炉(特にデブリ取りだし)の時期や実現可能性も分からない状況で『なぜ今放出しなければならないのか』という説明が不十分だ。処理方式を決める過程も疑問だ。複数の対策の中で海洋放出を選択した理由が明確ではない。それぞれの方策による安全性だけでなく、地域や周辺国への影響、環境問題などを比較したものはない。このような部分まで監督機構で包括的に扱わなければならない。国会を中心に多様な分野の専門家たちが参加する機構を作った方が良さそうだ。処理水の放出に対する信頼を高めるためには、『科学的論理』を越えなければならない」

-日本政府は「独立的な監督機構」より国際原子力機関(IAEA)に力を入れるようだ。

 「IAEAの総合報告書が役に立つだろうが、今後30~40年間続く海洋放出全体計画を検討したわけではない。日本政府が要請した範囲内で、東京電力が提供した一部の試料だけを検証した。実際、IAEAのラファエル・グロッシー事務総長は報告書の序文で『今回の検討が(日本政府の)政策に対する勧告や支持ではない』と明らかにした。また、今回の報告書にはIAEA一般安全指針(GSG-8)に明示された『その行動で個人と社会に予想される利益がその行動による害悪より大きくなければならない』という原則をまともに検証しなかった。IAEAの報告書もその点を認めている。短期的な安全性だけではなく、長期的・包括的な評価ができる監査機構がやはり必要だ」

長崎/キム・ソヨン特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/international/japan/1129158.html韓国語原文入力:2024-02-21 09:33
訳C.M

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