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[寄稿]戦争は伝染病のように広がる

登録:2023-11-03 07:18 修正:2023-11-13 08:02
パレスチナのイスラム武装勢力ハマスとイスラエルの間で交戦が続くなか、30日(現地時間)、ガザ地区で住民たちがイスラエルの空爆で破壊された家を離れ逃げている。ハマス壊滅を目標に地上作戦に突入したイスラエルは、ハマスの中核となる資源が集中するガザ市を包囲して圧力を強めている=ガザ地区/AP・聯合ニュース

 10月7日のハマスの奇襲攻撃の後、ガザ地区で1万人を超えるパレスチナ人を死亡させたイスラエルの空爆にもかかわらず、ハマスの政治・軍事的指導力は相変らず健在だ。イスラエルによるこの3週間の空爆の間にも、アル・カッサムやアブ・アリ・ムスタファなどで知られた旅団級の武装組織は、イスラエル領内に向けて毎日ロケット砲を撃っている。10月27日からガザ市の近くに進入しているイスラエルの戦車と装甲車を標的に、これらの旅団は合同作戦も進めている。最高司令官が死亡しても、今もなお諸兵科合同の指揮統制系統が維持されているという意味だ。

 ハマスは、自分たちが拘束したイスラエル人の人質の動画を公開する心理戦も遂行しており、ロシアでイランとヒズボラの指導者と面会して協調する外交折衝戦も併行している。ハマスは単なる武装集団ではなく、イデオロギーであり国際的ネットワークであり、抵抗の文化だ。レバノンでは、ハマスとヒズボラの軍事的な行動を調整する合同軍事機構も運営されている。

 ハマスの抵抗は、この戦争でイスラエルに不吉な展望をもたらしている。ガザ地区でハマスの指導部を斬首してハマスとパレスチナの住民を分離しようとするイスラエルの戦略は、効果がないということだ。たとえ、イスラエル軍がガザ市に進入してハマスの戦闘員たちを掃討したとしても、ハマスは壊滅しない。しかも、ガザ市の迷路のような狭い路地では、イスラエル軍の最先端兵器も効果がない。2016年、米軍がイスラム国(ISIS)が占領したイラクのモスルを奪還するのも9カ月かかった。イスラエルがガザ市でその当時に似た戦争を行うには、より多くの時間と費用が要求されるだろう。むしろ、イスラエルが戦略的なジレンマに直面することも起こりうる

 イスラエルのヨアブ・ガラント国防相は、ベンヤミン・ネタニヤフ首相に、戦争が長引くほど費用が膨らみ人質が危険になるとして、今すぐガザ市に進入して戦争にけりをつけるよう圧力をかけている。しかしそれはハマスが望むところだ。戦争が始まった先月7日、ハマスは4つの翼で飛ぶ商業用ドローンであるクワッドローターに、衛星ナビゲーションシステムによって誘導される直接攻撃爆弾とビデオカメラ、ワイヤレスリンクが装着された徘徊爆弾を結合する能力を示した。公開された映像には、クワッドローターの投下した爆弾がイスラエルの主力戦車であるメルカバを破壊し、ガザの国境をつたう壁の歩哨塔の上に設置された遠隔操縦兵器を破壊し、通信基地局を攻撃する場面が出てくる。ドローンがイスラエル軍の神経ネットワークを破壊する間、地上と海、空からハマスの戦闘員たちがイスラエル領内に進入した。

 こうした驚くべき戦術は、ウクライナ民兵隊が昨年キーウ北部でロシアの機甲戦力を制圧した戦術をハマスが体系的に学習して発展させたという証拠だ。今後、ガザ市で展開される非対称戦争、すなわち民間資産を活用したハマスの組織的抵抗を過小評価すれば、イスラエルは大混乱を見舞われることになる。

 悪いことは素早く学ぶというように、殺人の技術ははやく学習され伝播する。イスラエルはウクライナでロシア軍がみせた残酷さをそのまま踏襲している。非人道的な殺傷兵器である白リン弾まで投下するなど、ロシア軍はダムや病院、発電所、住居地を無差別に爆撃した。イスラエルは戦争勃発の3日後から、155ミリ砲で白リン弾を発射するなど、昨年ロシア軍がみせた姿を圧縮して再現した。極限の恐怖で抵抗の意志を抹殺しようとする意図だ。ガザ地区で火災によって子どもや老人・弱者が死亡する現象は、ウクライナ戦争を2倍速で再生しているかのように感じられるほどだ。欧州と中東での2つの戦争は、相手方の屈服や降伏ではなく、存在自体を否定する極端な悲劇性も似ている。おそらく、戦争は伝染病のようなかたちで広がるのだろう。

 今後、集団の原始的な敵対感情の高まり、少ない費用での大きな衝撃の強要、危機を管理し統制するガバナンスの麻痺という3つの条件が満たされた場所で戦争が起きる可能性が高い。パレスチナ自治政府の統治力が弱まるヨルダン川西岸、ガザ地区、内戦が広がっているイエメン、武装集団が乱立するシリアやイラク、欧州のバルト三国などがその候補地だ。世界を徘徊する戦争の神は、敵意で知恵がさびついてしまった人間の本性の弱さを突くだろう。南北間で合意した9・19軍事合意を無力化し、あえてイスラエルに似せようとする尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が、北朝鮮に対する敵意で目が見えなくならないことを願う。

//ハンギョレ新聞社

キム・ジョンデ|延世大学統一研究院客員教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1114750.html韓国語原文入力:2023-11-03 02:39
訳M.S

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