すべての韓国国民は法のもとで平等だ。憲法第11条が規定した大原則だ。だが、憲法が認める例外的特権がある。
内乱または外患の罪を犯した場合を除き、在職中は刑事上の訴追を受けない大統領の不逮捕特権がある。大統領という特殊な職責の円滑な遂行を保障するための特権だ。大統領は不逮捕特権を放棄できない。
国会議員の免責特権と不逮捕特権もある。国民の代表者として自主的かつ独立的に憲法上の権限を行使できるよう与えられた権限だ。国会議員は免責特権や不逮捕特権を放棄できない。
不逮捕特権は議会民主主義の発展と密接な関係がある。英国で1603年に議会特権法(Privilege of Parliament Act)で明文化されて以来、様々な先進国の憲法において採用されている。韓国でも国会議員は、現行犯である場合を除き、会期中には国会の同意なしで逮捕または拘禁されない。
最大野党「共に民主党」のイ・ジェミョン代表は6月19日、国会交渉団体の代表演説で「私に向けられた政治捜査に対し、不逮捕特権を放棄する」と述べた。「拘束令状が請求されれば、自分の足で出廷して令状実質審査を受け、検察の極悪非道さを明らかにする」と述べた。
イ・ジェミョン代表が会期中に「自分の足で」裁判所に出廷して令状実質審査を受けられるようにする方法はない。イ・ジェミョン代表の不逮捕特権の放棄は法理上不可能だ。違憲だ。
共に民主党の革新委員会が、民主党議員に不逮捕特権を放棄する誓約書を提出するよう求めたことも違憲だ。与党「国民の力」のキム・ギヒョン代表の提案で、国民の力の議員が集団で不逮捕特権の放棄を誓約したことも違憲だ。
不逮捕特権の放棄宣言は、反政治主義的ポピュリズムだ。国会と国会議員に対する有権者の感情的な反感に便乗する自傷の演出だ。
はじめの一歩を間違って踏み出すと、足が絡んでふらつき続ける。検察がイ・ジェミョン代表の拘束令状を請求して逮捕同意要求書が国会にわたると、イ・ジェミョン代表と共に民主党議員、そして支持者らは大きな混乱に陥った。どう収拾すればよいのか。
今になって宣言を無効にはできない。法理上妥当ではなく違憲だが、政治家たちの不逮捕特権放棄は国民に向かって宣言した政治的約束だ。守らなければならない。政治で名目を失うとすべてを失うことになる。
不逮捕特権は国会議員が会期中にだけ持つ権利だ。イ・ジェミョン代表の宣言は、当然「会期中に検察が拘束令状を請求したら、民主党議員は逮捕同意案に賛成するよう協力する」という意味だと解釈することが正しい。
しかし、イ・ジェミョン代表は20日の立場表明文で、「会期以外のときに令状を請求すれば、国会の表決なしにいくらでも実質審査を受けられる。にもかかわらず尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の検察が政治工作のために表決を強要するのであれば、回避ではなく憲法と良心に従い、堂々と表決しなければならない」と述べた。民主党議員に逮捕同意案に反対票を投じるよう強く求めたのだ。
イ・ジェミョン代表の態度の変化には当惑させられる。状況が変われば、政治家は言葉や立場を変えることはありうる。だが、国民との約束を守れなかったときは謝らなければならない。
いまや逮捕同意案が国会本会議で可決されるのか否決されるのかは、民主党議員らにかかっている。可決を主張する議員も、否決を主張する議員も、皆それぞれの理由と論理があるだろう。
重要なのは本会議の表決後だ。どんな結論が出ても承服しなければならない。国会は国民の代表機関であり、国会議員は国民の代表だ。国会の決定は国民の意思だ。
逮捕同意案が可決された場合、イ・ジェミョン代表は自ら宣言したように「(裁判所の)令状実質審査を受け、検察の極悪非道さを明らかに」すればよい。国民の常識と裁判所の良識を信じなければならない。
逮捕同意案が否決された場合、政府与党はイ・ジェミョン代表の拘束反対を、国民の意思として受け入れなければならない。イ・ジェミョン代表と共に民主党を対話と妥協の相手と認め、政治を復元しなければならない。
共に民主党には、逮捕同意案に反対の意思を明らかにした議員のリストを作成して公開する党員と支持者たちがいる。イ・ジェミョン代表と共に民主党に対する愛情のためだろう。だが、そうした形の圧力は、共に民主党を苦境に陥れることになる。やめるべきだ。
国会議員は国民の代表であり、代議制民主主義と熟議民主主義の重要な主体だ。共に民主党は70年近く反独裁民主化闘争、中産階級と庶民の政党、朝鮮半島の平和路線を守ってきた政党だ。共に民主党議員の知恵と判断を信じる。
ソン・ハニョン|政治部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )