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[コラム]米国と韓国の国益は「シンクロ率」100%か?

登録:2023-04-24 04:16 修正:2023-04-24 09:24
尹錫悦大統領と米国のバイデン大統領が昨年9月、米ニューヨークで開かれたグローバルファンド第7次増資会合の終了後、言葉を交わしている=大統領室写真記者団//ハンギョレ新聞社

 半導体、自動車、バッテリー(二次電池)。韓国経済の現在と将来の食いぶちだ。この最重要産業の未来が、ここ最近ほど不安になったことはなかった。米国がどこに向かうか分からないからだ。米国は昨年制定した半導体支援法、インフレ抑制法の後続措置を相次いで打ち出している。中国を抑え込み、自国の産業を復元することを意図したものだ。最近発表した電気自動車補助金の対象車種は米国車一色で、現代・起亜自動車は除外された。バッテリー素材の原産地規定、半導体補助金の対象基準の発表時も、気をもみながら見守らなければならなかった。

 米国は明確に変わった。世界を経営する「慈愛に満ちた覇権国」のような外皮は脱ぎ捨てた。産業政策を露骨に利用したり、交易を制限したり。覇権国になって以来1世紀近く拡張してきたルールを基盤とする自由貿易秩序を、自ら破壊している。あらゆる面で異なるドナルド・トランプとジョー・バイデンの前・現職大統領に一致するものがあるとすれば、まさにそれだ。

 友好国と共に「信頼価値連鎖」を新たに作るというが、基準が曖昧だ。友好国を特別視してくれるようでもない。フォードが世界最大のバッテリーメーカーである中国の寧徳時代(CATL)の技術、装置、人材を用いたバッテリー工場をミシガン州に建設することを許可したのが一例だ。フォードが工場を100%所有するといわれるが、中国メーカーの迂回進出であることは明らかだ。テスラも同様の計画を推進している。他国には中国産のバッテリー原料の使用比率にまで干渉していることを考えるとおかしな話だ。おそらく、中国が生産の得意なリン酸鉄リチウム(LFP)系の安価なバッテリーが、米国内の電気自動車の普及スピードを速めるために必要だからだろう。中国と激しく競争する韓国のバッテリーメーカーにとっては、米国のダブルスタンダード的態度が気にさわるのは事実だ。半導体補助金を与える条件として、サムスン電子やハイニックスに敏感な企業秘密まで差し出せと言っているのが今の米国だ。

 主流の教科書で経済学を学んだ人々にとって、このような米国の変化は頭の痛いことだ。保護主義の垣根を取り払って貿易を拡大すれば誰にとっても利益になる、というのが米国が信じさせてきた常識だった。「フィナンシャル・タイムズ」のコラムニスト、マーティン・ウルフ氏は「米国で貿易に対する敵対感情が徐々に高まり、90年間にわたって非常に成功を収めてきた政策が覆され」つつあるとし、「ルールベースの自由貿易は世界の貧困を画期的に減らし、繁栄をもたらして冷戦期に西欧経済の成功を導いた」と述べた。

 経済学者のチャン・ハジュン氏は「米国はもともとそういう国」だと言う。国益のためなら何でもしてきたということだ。最近の「時事in」とのインタビューでは「半分冗談だが、第2次大戦後の米国の最も重要な産業政策は『我々は産業政策を展開しない』と言い張ることだった」と語った。「国防研究」という名目で予算を投入し、コンピュータ、半導体、タッチスクリーン、インターネットのようなものを作ったのが彼らだ。プラザ合意や半導体協定で日本の自動車と半導体の腕をひねりあげたのも米国だった。

 米国は再び狭い国益に閉じ込もる国になった。この国が大義名分と原則を掲げて鷹揚に出るときは、好むと好まざるとにかかわらず予測が可能だった。今やメンツを顧みず暴走する米国を、世界が不安そうに見守っている。尹錫悦 (ユン・ソクヨル)政権の外交とは、このような米国に密着して「善処」を期待する戦略のようだ。北朝鮮の核の脅威に対応するとともに、最重要産業が不利益を受けないようにするためには、米国とうまく付き合うのは当然だ。しかし、大統領室の盗聴に抗議すらせず、米国のご機嫌ばかりうかがうのとは全く異なる。懸念した通り、中国とロシアは韓国から急速に遠ざかりつつある。

 韓国とは異なり、フランス、ドイツ、英国などは米中対立から一歩引いて中国との関係を管理していこうとしている。「新冷戦」といわれるものの、冷戦期のような分離にはなかなか向かわないだろうというのが現実的な判断だ。分離へと向かうには、ここ数十年間で定着した相互依存があまりにも大きい。米国のジャネット・イエレン財務長官すら20日の演説で、安保に関するものなどの限られた領域で競争しているだけであり、中国経済との「デカップリング」は「災害的な結果を生むだろう」と述べて警告している。

 韓国は貿易で成長してきた国だ。中進国の落とし穴に陥ることなく先進国に到達したのも、米・中を軸とするきめ細かくつながった交易環境があったからこそだ。安保に関する先端分野では適度に米国に合わせるにしても、自由で開放的な交易環境が破壊されないようにする戦略こそ韓国にとって有利だ。似たような立場の国々との連帯を強固にすることもできる。米国と韓国にはそれぞれの国益がある。両国が「シンクロ率100%」であるはずはない。

//ハンギョレ新聞社

イ・ボンヒョン|経済社会研究院長、論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1089037.html韓国語原文入力:2023-04-23 18:02
訳D.K

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