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[コラム]「野党代表リスク」に隠れた尹錫悦大統領の真の危機

登録:2023-03-14 06:37 修正:2023-03-14 15:27
8日、京畿道高陽市キンテックスで開かれた国民の力第3回党大会に尹錫悦大統領が出席し、党員の歓声に拳を握りしめて応えている=カン・チャングァン先任記者//ハンギョレ新聞社

 最近、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は「イ・ジェミョン(韓国最大野党代表)・リスク」にともなう反射利益を十分享受しているように見える。先週末、韓国ギャラップの世論調査で尹大統領の支持率は34%で、前の週より2ポイント下がった。日本の強制動員責任を免除した類を見ない発表にもかかわらず、この程度の支持率低下で済んだのは善戦だというのが、与党内部の評価だ。さらに尹大統領の気を良くさせたのは、国民の力党大会の結果だ。権威主義政権時代にも見られなかった大統領の露骨な介入の中、ひたすら「尹大統領の御意向」を前面に掲げたキム・ギヒョン代表が選出され、最高委員も「尹錫悦派」一色で構成された。今後、大統領を軸にした保守層の結束はさらに強くなり、来年4月の総選挙で勝利できるだろうという期待感で与党全体が胸を膨らませている。

 しかし、「イ・ジェミョン・リスク」に隠れただけで、尹大統領の真の危機が消えたわけではない。むしろ日増しに鮮明になっている。「銀行は公共財」という大統領の発言や、早くも選挙を意識して公共料金はもちろん焼酎価格の引き上げまで抑止する保守政権の自己矛盾的な動きは端的な例だ。尹大統領が候補時代に感銘を受けたというミルトン・フリードマンの市場万能主義的価値は、ポピュリズム政策と法の外皮をかぶった検察権の乱用の中で、すでに姿を消した。市場を重視するという政府の下で、民間と公共部門いずれも検察を手足のように操る大統領を恐れている。

 総選挙や大統領選挙を控えてポピュリズム政策を打ち出さない政権があるのかと反問するかもしれない。それでも過去の政権はある程度の線を守った。尹政権はこの線を簡単に飛び越えている。それに政策方向と内容も非常に不明で混乱を呼ぶ。米連邦準備制度理事会(FRB)は今年1年間金利を引き上げると公言しているのに、大統領の一言で先を争って貸付金利を引き下げた韓国の銀行らがどれだけ持ちこたえられるだろうか。市場では、政府の要求が一時的な金利引き下げにとどまらず、新たな銀行の設立など産業構造再編まで念頭に置いたものではないかとの疑念が深まっている。

 尹錫悦政権で一貫性のある唯一の基準は、ほかでもなく人的交代だ。昨年末から政府の気流を読み、新韓をはじめNH農協、ウリィ、BNKまで相次いで金融持株会社の会長らが自ら退いた。その空席を誰が埋めるかは容易に想像できる。問題は、そのような人的交代が国家の総体的危機に対処できる有能なラインナップを組むこととは程遠いという点にある。KT理事会が選んだ最高経営者候補の代わりに、77才のモフィア(退任後に政界や金融界に進出し巨大な勢力を構築する企画財政部出身の人たちをマフィアに喩えた造語)出身の大統領選挙の功臣を座らせることを、「あり得る話」だと納得できる国民が果たして何人いるだろうか。権力の野獣のような属性を改めて痛感するだけだ。社会的対話機構である経済社会労働委員長に、半世紀前に労働運動をした極右政治家を就かせたのも似たような脈絡だ。これでは今後どのような労働改革を進めながら経済危機を克服していくのか、国民は信頼できない。

 過去の軍事政府時代には陸軍士官学校出身が政界と官界の主なポストを埋め尽くしていた。今は検事出身が要職に布陣し、来年の総選挙で大挙政界入りする準備を進めている。軍事政府が情報・捜査機関の監視と暴力で恐怖を煽った一方、今は検察捜査という刃が政治と経済全般を凍りつかせている。現政権の辞任圧力を拒否したある高官が「いつ検察捜査が押し寄せるかわからず怖い」と発言したのは、単なる政治的レトリックではない。新悪が旧悪を凌ぎ、新しい検事政権が過去の軍事政権に勝る格好だ。

 尹大統領は近く日本と米国を訪問する計画だ。どのような成果を収めるかまだ分からない。ただし、米国の要求を受け入れ、韓米日軍事協力の強化に全力を傾けながらも、米国のインフレ抑制法(IRA)や半導体支援法(CHIPS法)になすすべもなくやられるのは、右派政権にとっては珍しい経験であることは確かだ。

 支持率が思ったより下がらなかったとして満足している場合ではない。任期1年目の大統領の支持率が30%台に留まることを深刻に受け止めるべきだ。無能力で無責任な権力に対する国民の冷静な評価がそこに表れているからだ。「他人がやれば介入だが、自分がやれば正義」という検事特有の独善が、人々の心を遠ざけていることに気づかなければならない。国民の力党大会場を埋め尽くした熱気とは裏腹に、尹錫悦政権はすでに総選挙での勝利を断言できない茨の道に入った。結局、選挙の成否を分けるのは、野党でも与党でもない、大統領自身に対する評価だ。

//ハンギョレ新聞社
パク・チャンス|大記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1083386.html韓国語原文入力:2023-03-14 02:37
訳H.J

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