本文に移動

[朴露子の韓国、内と外]新権威主義、孤独な人々を虜にする支配戦略

登録:2023-03-07 22:27 修正:2023-03-08 10:01
イラストレーション:キム・デジュン//ハンギョレ新聞社

 ウクライナ侵攻を含め最近のロシアの状況を見守る外部者が驚く一つの事実がある。合理的な理由を見いだせないプーチン大統領の高い支持率だ。

 ロシア人の平均可処分所得は2012年以降低迷し、ほとんど増えていない。労働者の平均賃金は、かつて低賃金国家だった中国にも追い越された。そのうえ、プーチン政権が一年以上進めてきたウクライナ侵攻も「成功」とは程遠い状況だ。ロシア軍が占領したウクライナの領土は全体の16%に過ぎず、その占領地を守ることさえロシア軍には手に余る課題だ。このように肯定的に評価されるような成果がないにもかかわらず、プーチン大統領の支持率は高どまりを続けている。多数の住民が相対的貧困の中であえぎ、政権が繰り広げた侵略戦争が苦戦を免れなくとも、23年間にわたり超長期執権を続けてきたプーチン大統領の支持率はなんと83%だ。経済的にも軍事的にもそれほど成功しなかった独裁が、このように国民の心を掴んだ秘訣は果たして何だろうか。その秘訣を理解するためには、プーチン独裁の性格から正確に把握しなければならない。

 多くの観察者は、プーチン大統領を旧ソ連システムの延長線上で把握しようとしている。しかし、プーチン独裁は唯一党である共産党の統治方式とは全く違う。プーチン大統領には保守的な政権政党の統合ロシア党があるが、その党は中国共産党や北朝鮮労働党とは違い、大衆動員の装置や官僚のための登竜門としてあまり機能しない。プーチン大統領の国家は、ソ連・中国・北朝鮮式の党国家ではなく新権威主義の独裁だ。程度の差はあるが、ハンガリーのオルバン政権、トルコのエルドアン政権、インドのモディ政権が新権威主義の多くの特徴を共有する。実質的な二大政党制国家である韓国では、特定政治勢力の長期執権は現実的に難しそうだが、強硬保守勢力の一部は新権威主義的特性を持っている。

 党国家体制の国々は通常、すべての情報の流れを綿密に管理しながら、政権党の公式理念に反する情報の流通は徹底的に遮断する。このような綿密な管理が不可能なインターネット時代の新権威主義政権は、代わりに有権者の多数を感情的に動かしうる言説をオン・オフラインで構築・流布し、多数の自発的追従を引き出す。在野勢力の主張に触れることはできても、政権の言説を自ら選んで支持するように、有権者の固定観念と恐怖、集団コンプレックスと偏見を十分に利用する。そして必要ならば、その恐怖と偏見に合う偽の「ファクト」を作り出すこともある。

 私は、ウクライナ侵攻が始まって以来、侵略を積極的に擁護する海外派のロシアの高学歴者たちと何度も激論を繰り広げた。海外在住で外国語に堪能な彼らは、侵攻を批判する海外メディアに容易に接することができるが、「ロシアを常に狙う凶悪な西側」と「西側に付和雷同してロシアを攻撃しようとするウクライナナチス」、旧ソ連領土の「回復」の必要性、そしてロシアにおける「超強力中央集権」の重要性に関するプーチン支持派のメディアの話を繰り返した。「ウクライナでの米国の生化学兵器実験室運営」など、プーチン派メディアが作り出したフェイクニュースまで引用してだ。

 結局、ロシアの御用情報管理者たちは、多くのロシア人が持っている欧米圏に対する劣等感・恨み・恐怖という「西側コンプレックス」と、ソ連没落に対する「雪辱」の意志、周辺国家の民族主義勃興に対する反感などを巧妙に利用し、多数に受け入れられる「凶悪な西側と善良なロシアの対決」という巨大叙事を作って流布することに成功したわけだ。この叙事を信じる多数のロシア人は、相対的貧困の中で、自国軍が戦場で苦戦を強いられるのを見守りながらも、新権威主義政権が繰り広げる侵略行為を支持する。

 伝統的に党国家は、被支配者の忠誠心を確保するために社会政策を積極的に活用した。一時「ソ連モデル」に従った北朝鮮も1950年代後半に人民たちに無償教育・無償医療を提供した。第3世界の国々の中で初めてだった。

 これとは違い、新権威主義の国々の福祉政策は消極的だ。ロシアの国内総生産(GDP)に占める福祉支出の比重は約12%で、産業化した国家の中で「福祉後進国」に属する韓国と似ている。新権威主義の国家は、その代わりに労働者など被支配者間の連帯を破壊し、原子化された個人それぞれが生存のために奮闘するようしむけ、御用メディアの魅惑的なメッセージに裸で露出されるようにする。

 相次ぐ労組破壊、活動家投獄など政権の深刻な弾圧の中で、ロシアの全労働者の3.5%だけが国家から相対的に独立的な民主労組に属している。民主労総に全労働者の6%程度が所属している韓国より労働運動妨害と弾圧がさらに激しいわけだ。さらに、非正規職など不安定雇用に苦しむ労働者の割合も約46%で、韓国(37.5%)より高い。一言で言えば、低福祉と不安定労働、個人の原子化の中で無力になった個人が、訴求力の強い民族主義的メッセージにとらわれたのが新権威主義の社会だ。

 幸いなことに、政治権力の交代が現実的に可能な韓国では、制度としての新権威主義とは程遠い。しかし現在、強硬保守政権が展開している政策やその政策を擁護する右派メディアの論旨を見ると、ロシアの悲惨な現実と大差ない。労組に対する持続的な攻撃や不安定雇用を減らすことに無関心な政権の態度は、プーチン政権の政策とあまり変わらない。プーチンの巨大叙事の中心に「永遠の敵」西側と米国があるとすれば、韓国極右の嫌悪商売の中心には労組叩きや官制スパイでっち上げ、反北扇動などがあるという違いがある。プーチンの叙事で「中央集権的権力」が占める位置を、韓国の極右言説では「市場」と「能力」が占めている。

 結局、貧しいロシアの若者の多くが福祉費用ではなく軍事費増額とウクライナ侵攻を支持するように、多くの貧しい韓国の若者も事実上継承される家の資源に左右される「能力」による格差を肯定する。ロシア人に劣らず多くの韓国人は、自分の階級的利害関係とは正反対の世界観を持っている。資本主義危機の時代のディストピアである新権威主義の危険から、韓国も決して自由ではない。

//ハンギョレ新聞社
朴露子(パク・ノジャ、Vladimir Tikhonov)オスロ国立大教授・韓国学 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1082570.html韓国語原文入力:2023-03-07 19:40
訳J.S

関連記事