息子の校内暴力の懲戒処分に対して繰り広げた「訴訟戦」が明かされ、任命が取り下げられたチョン・スンシン元国家捜査本部長(弁護士)の問題は、韓国社会の対立の火種として長くくすぶる「公正」問題に再び火をつけた。国民たちは校内暴力を扱ったネットフリックスのドラマ「ザ・グローリー」がフィクションではないことを痛感し、現実では訴訟という法律的手続きの中で被害者をより一層残忍に追い詰めるという事実に怒りを噴出させた。
チョン氏の任命は取り消されたが、余震は続いている。大衆は校内暴力を、単純な子どもたちのけんかではなく「重大犯罪」に準ずるくらいに敏感にとらえている。当時現職の高位検事であり法律の専門家だったチョン氏の「親パワー」で1年余り続けられた訴訟は、誰にでも機会は均等だという民主共和国を標榜する韓国社会が、実は親の富と権力が子どもにそのまま受け継がれる不平等な階級社会であることを露骨に示した。任命からわずか1日でチョン氏が辞意を表明し、大統領が直ちに任命を取り消した背景には、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の政治的スローガンでもあった「公正」に対する、国民の不信感がある。
チョ・グク元法相問題、ハン・ドンフン法相の一家親族の「ハイスペック」に対する議論、クァク・サンド前議員の息子の「退職金50億ウォン」問題に続き、再び起きた「親パワー」問題に、若者たちは無力感と不公正さを感じると話した。大学生のPさん(24)は27日、「今回の問題は、これまで韓国社会で権力者がどのように法を利用してきたかを示す数多くの事例の一つであり、韓国社会の階級図をあからさまに表したもの」だとし、「似たような事例が続いているので、財産と権力を蓄積した人たちが今でもこれを利用し弱者が苦痛を強いられていると思われて、不公正さを感じる」と話した。
今回の問題と直接的・間接的な関連のあるソウル大学でも、怒りに満ちた声があがっている。この日、ソウル大学の匿名コミュニティには「まさにダブルスタンダードをやっているのは『国民の力』。チョ・グク問題の時と何が違うのか」、「高位公職者の子どもは校内暴力・飲酒運転・入試不正・賭博をしてもカバーされて、退職金も数十億ウォンもらえる『天竜人』(アニメ「ONE PIECE」に登場する貴族階級)なのか」という書き込みアップされた。ソウル大学社会科学部に在学中のAさん(23)は、「金と力のある者は罪を犯しても勝ち上がり続け、そうでない者は被害者であっても未来まで挫折する。それが不公正で不公平な社会でないならば何だといえるのか」と話した。
親も苦しいのは同じだ。ソウル市内のある大学に通う子どもを持つKさん(51)は「もはや『(富や権力に)恵まれた親のもとに生まれるのも幸運』と思えるほど、子どたちがますます『親パワー』を当たり前に思っているようで、親の立場としては無力感と虚しさを感じる」と話した。ソウル大学に通う子どもの親のBさん(51)は、「韓国トップの大学でこんな悪質な校内暴力事件を摘発できなかったのは驚くべきこと。結局『点数』だけ取ればなんでもありなようで、自分の子どもたちに何を教えたらいいのかわからない」と語った。
専門家たちは、今回の問題は自ら不平等社会を助長する韓国エリートの素顔をあらわにしたと評する。高麗大学のキム・ユンテ教授(社会学)は「人々が敏感に反応する『校内暴力』の問題もあるが、その裏には、教授や弁護士のような専門職による『社会ネットワーク』を利用した就職や大学入試など多様な領域での持ちつ持たれつがまん延し、これによって皆が公正な機会を持てずにいるという不満がある」と述べた。中央大学のイ・ビョンフン教授(社会学)も、「公職者が自分の子どもを守るために歪んだ権力を行使した現実を、改めて確認したもの」だとし、「校内暴力という問題も『親の力』で押さえつけたのは、韓国社会の階級構造の秩序を端的に示したもの」と述べた。