大きな群れを成して移動する動物は捕食者にとって格好の餌食のように見える。襲い掛かれば、簡単に捕まえられそうだが、実際、狩りに成功する確率はそう高くない。
数十万匹のコウモリの群れを狩る猛禽類を撮影して描き上げた3次元の飛行軌跡を詳しく分析したところ、意外な結果が出た。タカは個別のコウモリではなく、コウモリの群れの一点をめがけて突進していた。
英国オックスフォード大学のキャロライン・ブライトン博士研究員らは、科学ジャーナル「王立協会公開科学(Royal Society Open Science)」の最近号に掲載された論文で、このような事実を明らかにした。研究者たちは米ニューメキシコ州のチワワ砂漠の洞窟に生息するメキシコオヒキコウモリを研究対象にした。
このコウモリは、昼間は洞窟で休み、日が暮れる頃70万~90万匹が一斉に洞窟を抜け出して餌場に向かうが、アレチノスリやタカなどがこのコウモリを狩る。メキシコオヒキコウモリは水平飛行速度が時速160キロメートルに達するうえ、数千匹が目の前で各々飛行するため、猛禽類がどのように狩りをするのかはこれまで謎だった。
研究者たちはコウモリであれ、鳥であれ、魚であれ、大きな群れを作れば、捕食者の攻撃を防ぐ効果があるとし、これを「混沌効果」と呼んだ。数多くの潜在的標的が目の前に現れてそれぞれ動けば、一匹に集中して捕まえるのに困難をきたすということだ。捕食者の目を引く危険性があるにもかかわらず、大きな群れを成す理由も、そのためだ。
しかし、メキシコオヒキコウモリを対象にした様々な研究によると、猛禽類が群れの中に飛び込んで狩りをしても、外で狩りをしても、成功の確率はあまり変わらないことが分かったと論文は明らかにした。ならば、タカはどうやって混沌状態の群れの中で混乱せずにいられるのだろうか。
研究者たちは21日間、3台の高解像度ビデオカメラで狩りの様子を撮影し、アレチノスリとコウモリの飛行軌跡を3次元で構築した後、コンピューターモデリングで作った軌跡と比較分析した。その結果、アレチノスリは特定のコウモリを標的にして攻撃するのではなく、コウモリの群れ全体の特定地点に向かって飛行していることが分かった。
一般的に猛禽類は、アーチェリー選手が矢の軌跡を予想して弓を射るように、被食者がどこに向かうかを予想して飛行する。しかし、途中で被食者が方向を変えれば、まるで赤外線誘導ミサイルのように、随時方向を変えながら接近する。独りで飛ぶ鳥を狩るタカが代表的な例だ。
しかし、コウモリ狩りをするアレチノスリは赤外線誘導ミサイルよりはアーチェリー選手に近かった。研究者たちはその理由を、飛行する猛禽類の目にはコウモリが地上で人が見るのとは違って見えるからと説明した。
ブライトン博士は「地上からだと、コウモリの群れの個体は勝手に動いているように見えるが、狩りをするタカのように動く観察者の目には違って映る。背景に動くコウモリとは異なり、衝突軌跡上のコウモリは、タカの目には一方向にとどまっているように見える」と、同大学が出した報道資料で明らかにした。
群れの中のそれぞれのコウモリの動きは変化に富むが、群れ全体は一定の方向に移動する。猛禽類は「群れの一地点に向かって飛んで行き、飛行経路に入ったコウモリが現れれば、爪を出して捕らえる」と論文は書いた。
実際、 アレチノスリはコウモリの群れの中で混乱していないことが分かった。 研究者たちは「アレチノスリが大きな群れを好む理由も、コウモリが飛行経路に入る確率が高くなるため」だと説明した。また「今回の研究結果に照らして、群れを成す鳥と魚などを狩る他の捕食者も似たような行動をとっている可能性がある」と付け加えた。
研究に参加した同大学のグラハム・テイラー教授は「群れを成す行動が、そのなかに飛び込む捕食者の目には私たちの目に映るほど混沌としていないという今回の研究結果は、他の群れる動物だけでなく、ドローンや自動運転車などにも適用できる」と語った。
引用論文:Nature Communications,DOI:10.1038/s41467-022-32354-5