すべての戦争は、喫緊の必要性や崇高な価値を掲げるが、結局は残忍で汚い泥沼に帰結する。
ウクライナを侵攻したロシアは、北大西洋条約機構(NATO)の東進などの西側の脅威を防ぐために自国の喫緊の安全保障の必要性を掲げた。しかし、中立国のフィンランドやスウェーデンなどがNATO加盟を明らかにし、NATOは当面さらに堅固になり拡大する逆説が生じた。侵略からウクライナを守るとする米国など西側は、ロシアに対する制裁とウクライナに対する支援に拍車をかけ、国際経済にしわ寄せがいき、戦争は拡大している。
「この人物(ロシアのウラジーミル・プーチン大統領)が決して権力の座にとどまってはならない」(米国のジョー・バイデン大統領、3月26日)、「われわれはロシアが弱体化するのを見たい」(米国のロイド・オースティン国防長官、4月25日)、「ウクライナが(ロシア国内の)ロシア軍の兵站線を攻撃するのは合法」(英国のベン・ウォレス国防長官、4月28日)
ロシアの政権交替や領内攻撃で脅す西側に対抗し、ロシアはいっそう強硬になる。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は4月25日、「現在、核戦争のリスクは実在しており、非常に深刻な水準であり、過小評価してはならない」と述べたのに続き、29日にもNATOとの衝突は核戦争のリスクを高めると脅した。
当初のウクライナ戦争の背景は何だったか。ウクライナはロシアの脅威から独立した主権国家でいられることを求め、ロシアはウクライナが自国の安全保障を脅かす西側の足場にならないことを願い、西側は既存の国境線で象徴される自由主義国際秩序を守ることを望んだ。3者のこのような利害の衝突における均衡点は、「ウクライナを救う」ことだ。中立化が解決策だ。
中立化は戦争直前にフランスのエマニュエル・マクロン大統領が仲栽したが、米国はフランスが分不相応なことをするとして、冷たい反応を示した。ついに戦争がはじまってから、3月29日にイスタンブール和平会談で原則的な中立化合意が出た。しかし、ブチャの虐殺などにより交渉は中断され、西側とロシアは戦争拡大に向かっている。米国はこれを機にロシアを抑え込もうとしている。ロシアはキーウ(キエフ)戦線から撤退した後、南部と東部から領土を取る戦略に旋回し、ウクライナを内陸国家にしようとしている。
米国がロシアを抑え込もうとするのは、ウクライナ侵攻が自由主義の国際秩序を脅かすとみなしているからだ。制裁は米国にとって最大の武器であり、強力な威力を発揮するが、逆効果も大きい。北朝鮮、ベネズエラ、イランに対する苛酷な制裁は、これらの国々を変えることはできなかった。世界の地政学的秩序の一軸であるロシアに対する制裁は、長期的には自由主義的国際秩序をいっそう侵食する懸念が強い。ロシア、中国、インド、イランなどは、ドル体制を回避する彼らだけの決済システムの構築に乗り出している。これらの国々が持っている石油やガス、食糧などの莫大な資源は、長期的には米国主導の自由主義的国際秩序から独立した秩序を作りだす武器になりうる。ロシア制裁に参加する国々は、世界の経済力の3分の2に迫るが、人口は世界全体の14%にすぎない。
戦争を挑発した側は戒めを受けなければならない。しかし、その戒めは侵略された側の犠牲をさらに要求するというのが現実だ。西側がウクライナに武器を支援してウクライナが戦闘で勝てば勝つほど、ウクライナの苦しみと被害が大きくなるという逆説だ。戦闘でのそのような勝利は、ウクライナの戦争での勝利を担保するものでもない。
制裁と軍事的圧力は、ロシアに血を流させ弱体化させるものであっても、長期的には自由主義的国際秩序を壊すブロック化、そして何より、ロシアの血よりもさらに多くのウクライナの血を要求する。西側の真の成功は、まずは主権と安全が保障されるウクライナだ。そのようなウクライナは、最終的には西側の利益に帰するはずだ。そのためには、最小限の被害のもとで中立化へと導かねばならない。ロシアも終戦と撤退の条件を明確にしなければならない。ロシアも同様に、領土獲得に執着すればするほど流す血は多くなり、終戦の可能性が遠ざかる。
朝鮮戦争において連合軍司令官ダグラス・マッカーサーは、満州爆撃と台湾国府軍による中国海岸侵攻を主張した。その主張のとおりに戦争が拡大した場合と、休戦後に経済繁栄を成し遂げた韓国の現実を比べれば、何が真の戒めであり共産勢力の脅威を防いだものなのかがわかるだろう。
ウクライナ戦争が長期化すると、善良な市民だけが被害を受けるという暴力団の「縄張り争い」になる。ノーム・チョムスキーが「核戦争防ぐには、プーチンに出口を与える醜悪な解決策を試みなければならない」と述べたのもそのためだ。しかし、交渉を通じてウクライナを救おうとする極めて現実主義的な目標が、空虚な平和主義を主張する理想主義だと冷笑される転倒した世界に、いま私たちは生きている。
チョン・ウィギル|国際部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )