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米中ロ「覇権競争」の渦で複雑化する「朝鮮半島の平和」への道

登録:2022-03-04 09:23 修正:2022-03-04 09:51
文在寅大統領が1日、ソウル西大門区の国立大韓民国臨時政府記念館で開かれた三一節103周年記念式で記念演説をしている/聯合ニュース

 「韓国は世界で安全保障の負担が最も大きい国です。まずは南北間の戦争抑止が最優先の安全保障の課題ですが、より広く長く見れば、朝鮮半島の地政学的な状況自体が常に厳しい安全保障の環境にあります」

 先月28日、陸軍三士官学校の57期の卒業・任官式に参加した文在寅(ムン・ジェイン)大統領の祝辞の一部だ。外交的な修辞ではない。米国と中国の覇権競争が加熱する渦中に起きたロシアのウクライナ侵攻、それによる米国とロシアの「対立」は、国際秩序の戦略地形の変化を予告する。何より、冷戦期の資本主義と社会主義の対立の最前線だった朝鮮半島が、21世紀の「米国対中国・ロシア」の衝突の断層線に再び追い込まれるというリスクが急に強まっている。文大統領が三一節(独立運動記念日)103周年の記念演説で「力で覇権を占めようとする自国中心主義」の浮上と「新冷戦の懸念」の広がりについて、「われわれがさらに強くなるために必要不可欠なのが朝鮮半島の平和」だと強調したのもそのような背景からだ。

 20世紀の冷戦対立の素顔である「朝鮮戦争」と長期の分断、北朝鮮の「核への執着」と朝米敵対関係に象徴される「朝鮮半島の安保問題」を根本的に解消しようとするならば、南北の主体的な努力はもちろん、米国・中国・ロシアとの協力が絶対的に必要だ。米中の覇権と戦略競争が激化し、国内外で「二者択一」の圧力が高まっているが、文大統領が「堅固な韓米同盟をもとに、韓中関係も調和するよう発展させていく」という戦略の基本方針を保持したのもこのためだ。「冷戦の離れ島」から抜け出そうとするならば、米中との協力は「選択」ではなく、大韓民国の対外戦略の宿命に近い「原則」でしかない。「朝鮮半島の平和」は至上課題であり、国外に進出している国民と企業の保護を含め、「経済安全保障」の領域で国益を守ることも軽視できない課題だ。

 文大統領が2月22日、異例にも国家安全保障会議(NSC)の対外経済安全保障戦略会議の合同会議を招集し、自ら主宰する中で「ウクライナ情勢が朝鮮半島平和プロセスの努力にネガティブな影響を及ぼさないよう、努力してほしい」と特別に頼んだ理由を、こうした流れで読む必要がある。国際秩序の遠心力の強化により、当面は朝鮮半島平和プロセスの進展を期待できないとしても、「座礁」だけは防がなければならないという切迫感の表現だと読みとれるからだ。

 状況は厳しい。ウクライナをめぐる米国とロシアの対立について、外交安全保障分野の有識者たちが「新冷戦の到来より、熱戦を心配しなければならない状況だ。仲裁者がいないではないか」と嘆く状況だ。

 実際、「米中覇権・戦略競争、米ロ対立、中ロ協力」が絡みあい、国際秩序の遠心力が加速している。「覇権国」米国は、国際秩序を維持するために必要な経済・軍事資源の供給能力が以前ほどではない。「中国の夢」の旗印を掲げ浮上する習近平国家主席の中国、「ルースキー・ミール」(ロシアの世界)を叫び、欧州で自分の分け前を要求する「プーチン・ロシア」の対抗も激しい。

 ところで米国は、韓国の唯一の同盟国であり、中国は最大の貿易相手国だ。しかも、米国と中国は、朝鮮半島を血の海にした「3年戦争」(朝鮮戦争)の交戦当事者であり、停戦協定の署名国だ。ロシアは6者会合の当事国だ。要するに、朝鮮半島平和プロセスを稼動し、「冷戦の離れ島」から抜け出そうとするならば、米国・中国・ロシアの3国すべての協力を引きださなければならない。放棄できない「韓国の道」だ。

 問題は、その道が「米中ロ新三角戦略ゲーム」がもたらす新たな国際秩序、例えるならば、「自由主義市場経済」と「権威主義市場経済」の争闘の影響を直接受けざるをえない点にある。韓国は米国を軸にした「自由主義世界」に属しているが、「市場経済」を輪に中国とロシアともつながっている。

 「自由主義市場経済」と「権威主義市場経済」は、価値とイデオロギー(「自由主義」対「権威主義」)の側面で対立する。しかし、市場経済という基盤の上で「共存」する。1990年代初めの「冷戦終結」以降、唯一の覇権国の米国が焼き直した世界秩序だ。米国のジョー・バイデン大統領と中国の習近平国家主席の政治的な運命に決定的な影響を及ぼす、今年の10~11月の米国の中間選挙と中国共産党の第20回大会が終わるまでは、米国と中国・ロシアの間での「価値闘争」の緩和を期待するのは難しい。

 これよりさらに深刻で本質的な争点は、冷戦終結後に「自由主義」と「権威主義」の共存を可能にした「グローバル市場経済」という共通の基盤が維持できるのかどうかだ。もし、「市場経済」という共通基盤が崩れ、グローバル・サプライチェーンが完全に分離すれば、「冷戦終結」後に一つにまとめられたグローバル市場経済の最大の受益貿易大国であり、エネルギーと原材料の対外依存度が極めて高い韓国にとっては災いだ。ただし、米国がグローバル覇権の維持を目的に押しつける「サプライチェーン再編」戦略が、中国とロシアを再び「市場経済の外」に押し出すのかどうかは、まだ見積もることは難しい。覇権と戦略の競争の渦中でも、米中の貿易規模はさらに大きくなり、米国と欧州連合(EU)がプーチン大統領を懲罰するために取り出した「対ロシア制裁」が、ロシア経済の核心であるエネルギー・原材料産業にいまだ照準を当てられない状況は、だからこそ示唆するものが大きい。

 「米中ロ三国志」の結論は今は知ることはできないが、「極めて懸念するに値する状況」はすでに姿を現わしている。米国の北朝鮮に対する集中力の弱化と国連安全保障理事会の事実上の崩壊のリスクがそれだ。5月9日に発足する新政権の前に投げられた難題だ。

 元政府高官は「衝突する断層線に置かれた緩衝国である韓国は、『緩衝国が二者択一をすると、衝突の戦場に追い込まれる』という歴史の骨身にしみた教訓を忘れてはならない」とし、「新政権は慣性から抜け出し、思考とシステムを根本から省察し、柔軟で実用的な外交安全保障政策を整えなければならない」と述べた。ある外交安全保障分野で経験豊富な要人は「米中ロの対立と角逐に巻き込まれることなく、中心をとらえようとするならば、何より内部分裂を緩和しなければならない」とし、「新政権は対外政策についての世論のコンセンサスの強化に力を注がなければならない」と注文した。

イ・ジェフン先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/diplomacy/1033470.html韓国語原文入力:2022-03-04 07:53
訳M.S

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