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[朴露子 特別寄稿]「プーチンの戦争」終わらせる力はひとえにそれと戦う市民にある

登録:2022-03-03 21:00 修正:2022-03-07 14:06
ウクライナのネットユーザーがロシアの侵攻に対抗する象徴としてSNSで共有している「聖なるジャベリンミサイル」のミーム=ツイッターよりキャプチャー//ハンギョレ新聞社

<ロシアの侵攻によりウクライナで民間人の死亡を含む大規模被害が発生し、国際社会の怒りが噴出している。ロシア出身の歴史学者であり哲学者である朴露子(パク・ノジャ)ノルウェーオスロ大教授が、プーチン政権の誤った判断が旧ソ連地域の未来に持たらす危機を展望する緊急寄稿を寄せた。>

 韓国現代史において有名な部分が一つある。第2次オイルショックにともなう物価暴騰、低賃金に依存してきた高速成長が露呈した構造的貧困、維新政権の暴政などによって1979年10月16日に立ち上がった釜山と馬山の市民を、朴正煕(パク・チョンヒ)は軍事的暴力で鎮圧しようとした。部下たちと議論する席で、あろうことか自ら軍隊を送り発砲命令を下すと厳命するほどであった。超強硬論を支持した警護室長のチャ・ジチョルは、「カンボジアで300万人を殺しても何ともなかったのですから、われわれもデモ隊員100~200万人を殺してもどうということはありません」と、信じられないおぞましい発言もはばからなかった。言ってみれば、すでに現実感覚を失った独裁者とその奸臣は、あえてジェノサイドも辞さないという立場だった。このままでは韓国の支配体制全体が一瞬で崩れかねないことを看破した中央情報部長のキム・ジェギュは、支配層の「自己保身」のために本人だけの幻想の中で生きていた独裁者とその一部の奸臣をその場で“除去”した。「100~200万人」が死ぬという悪夢は。このようにして回避された。

 独裁者が現実感覚を失うメカニズムは単純だ。追従を通じて自分の地位の保全や昇進を狙う部下たちは、チャ・ジチョルのように“主人”が聞きたがる言葉ばかりを発し続ける傾向がきわめて強い。その間に独裁者は状況に合う適切な決定を下すに足る客観的“資料”を提供されず、かくのごとく一世一代の失策を犯したりする。朴正煕もそうしてついには部下の銃によって死に、プーチンも今や手を引くことがかなり難しい泥沼に陥ってしまった。

 すべての東スラブ人を潜在的なロシアの愛国者として取り扱い、ベラルーシやウクライナの独立的アイデンティティを否定する大ロシア民族主義を盲信するプーチンは、ロシアの軍隊が少なくともドニエプル川の東側のウクライナで「解放軍」としてもてなしを受け、ウクライナの親米政権はすぐに亡命し、戦争を速戦即決で終わらせられるだろうと最初は信じていたようだ。プーチンのヘゲモニー的民族主義の濃度をよく知る彼の部下たちは、彼にもっぱら「ロシアを心ひそかに愛するウクライナの人々の胸の内」だけを話した。こうしたロシア支配集団のイデオロギー的自己陶酔の結果が、まさに世界史に後々まで残る誤った戦略的判断だった。

 「解放軍」のもてなしはなかった。ロシア軍を迎えたのは、火炎瓶と無限の勇気で武装した市民軍だった。ウクライナ軍の兵士たちは降服より“玉砕”を選び、非武装の民間人は素手でロシア軍の戦車を止めようとする。プーチンの想像とは正反対に、彼らの中の相当数は民族的にはロシア人であったり、普段はロシア語を使うウクライナ人たちだ。抵抗するウクライナ人の間には、民族や言語などによる葛藤は全く見られない。民族的にはユダヤ人であるゼレンスキー大統領を含め、数十の民族で構成されたウクライナの住民たちが、今や一つの多民族国民集団を作り上げたのだ。

 韓国や北朝鮮でも抗日抵抗の叙事が国民ないしは人民集団の結束を保障するように、ロシア侵略軍に対する抗戦はウクライナ国民を今後も団結させる叙事として位置づけられるだろう。もちろん軍事的にはウクライナがロシアに比べ劣勢だ。およそ1、2カ月間で、ロシア軍は大量爆撃と砲撃で結局ウクライナ正規軍の抵抗を物理的につぶすことはできるだろう。その間に民間人の犠牲は雪だるま式に増え、ロシアに対するウクライナ人の骨の髄まで深く刻み込まれた怨恨ばかりが無限に膨らむだろう。義憤に満ちたウクライナ人民の遊撃戦は、いかなる親ロシア傀儡政権も容易に鎮圧できないだろう。すなわち、プーチン政権であれ、その後続の政権であれ、いくらウクライナに対する支配権を追求しようとしても、その支配は常に問題含みで不安なものだろう。西側の支持までたっぷり受けて、ウクライナ人の命がけの抵抗は数十年、もしかしたら数百年続くこともありうると考える。

 私は予言者ではないから、今後ロシア指導部が取る具体的な戦術を予想することはできない。西側との経済的断絶を含め、戦争に伴う費用支出が行き過ぎだという判断が出れば、プーチン政権はことによるとウクライナからクリミア半島の強制合併承認のような一部譲歩を勝ち取った後、軍の撤収を始める可能性もなくはない。しかし、プーチンのヘゲモニー的民族主義を共有する半分以上のロシア国民がこの戦争を依然として支持していることや、一部の事業家や金融官僚を除けばロシアの官僚・企業のエリートの中からまだ「早期終戦」をすべきという立場が表明されていない点から見て、ひとまずロシア指導部が構想する「大きな絵」は、ウクライナとの「適当な妥協」よりは持続的強硬路線を骨格としているようだ。西側の銀行に預置されているロシア資産の凍結に対して、ロシアの国家機関や企業は西側に対する債務不履行などで正面対抗し、西側資本との関係が断絶し次第、内資を総動員して輸入代替を中心とする「内包的成長」を試みるとみられる。はるかに自給自足モデルに近い「国家総動員」をする新しいロシアには、西側に代わって中国が資本と精密機械を提供し、中央アジアのような旧ソ連地域の周辺部は低賃金の労働力と資源を継続的に提供するとみられる。大国主義的民族主義を信条とするロシアがリードし、旧ソ連地域の相当部分が含まれるユーラシア経済ブロックは、多くの面で帝国日本が構想した悪名高い「大東亜共栄圏」に似ているとみなければならない。官僚の統制を受ける資本主義的経済という側面も、反西側(anti-Western)民族主義を理念にするという側面も、極度の軍事化と地理的差別化(中央アジアは事実上ロシアと中国の新植民地に近い位置にある)という部分も、東条英機とプーチンの未来構想に含まれた共通点だ。

 東条英機の日帝は結局、巨大な中国に対する無理な侵略を成功裏に終わらせられなかったうえに、はるかに強国だった米国とソ連によって崩壊してしまった。これとは違い、プーチン侵略の被害者であるウクライナは、ロシアが安定的に長期支配することはできなくとも、少なくとも当分軍事的に制圧できる規模の国だ。核兵器の時代であるだけに、ロシアと米国の軍事的正面衝突は起きない可能性が支配的だ。したがって日帝の軍閥・官閥とは違い、プーチンとその後継者はもしかしたら、旧ソ連の広大な領土内で官僚集団の支配を受ける統制経済を管理し、長期政権を握れるかも知れない。米中対立が増幅される中で、プーチンと支配グループの新しい「ユーラシア共栄圏」は中国の支援に力づけられ、思った以上に生命力が強いかもしれない。しかし、彼らの支配は決して永久ではないだろう。

 上に述べたように、ウクライナ国家が軍事的には敗北しても、ウクライナ人民の抗争は遊撃戦などの形で明確に持続するだろう。ロシアの知識人社会は、プーチンの事実上の終身政権と侵略戦争にきわめて批判的であり、今後生活水準が顕著に低下するだけに、ロシア民衆の抵抗も少なからず起きるだろうとみている。中国より経済的にはるかに脆弱なプーチンらの「ユーラシア共栄圏」は、今後ユーラシア大陸で“革命”の中心に浮上する可能性も充分にある。究極的に侵略と独裁を終わらせることができる力は、ひとえに自覚し闘争に出た市民にのみあるだろう。今ウクライナの市民が侵略に対抗して見せている勇気は、ロシア人たちにも永らくインスピレーションを与えるだろう。

//ハンギョレ新聞社
朴露子(パク・ノジャ、Vladimir Tikhonov)オスロ国立大学教授・韓国学 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/europe/1033286.html韓国語原文入力:2022-03-03 07:47
訳J.S

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