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サムスン電子の企業価値、なぜアップルより低くなったのか

登録:2021-12-07 07:00 修正:2021-12-07 08:37
2021年10月27日、ソウル江南区三成洞のCOEXで開幕した「第23回半導体大展」で、訪問客がサムスン電子のブースで展示物を見ている/聯合ニュース

 韓国の証券市場の「代表株」であるサムスン電子の株価が9万ウォン(約8700円)を超えたのは、2021年1月11日のことだった。前年の2020年1月10日(終値5万9500ウォン、約5700円)に比べ、53%上昇した。個人投資家たちはこの日、機関投資家と外国人投資家が売ったサムスン電子株を約1兆7000億ウォン(約1630億円)分買いとり、「9万電子」時代の開幕を後押しした。異例な買いの傾向だった。

 証券会社はこの日、一斉にサムスン電子の目標株価を上方修正した。「まだ安い!12万ウォンにも行ける」。当時報道されたマスコミの記事のタイトルはこうだった。「10万電子」が目前だというバラ色の期待感が証券街に広まった。

アップルとTSMCの追い抜き

 しかし、その翌日から冬が始まった。翌日の下落傾向で向きを変えた株価は、1月13日の1株あたり9万ウォンから、4カ月後の5月13日には8万ウォン(約7700円)の壁を破って滑り落ちていった。10月に入ると、ついに7万ウォン(約6700円)台を切ることもあった。最高値の3分の1が蒸発したわけだ。

 私たちは株に飽きて初めてその会社がどのような所なのかよく調べるようになる。2021年上半期、サムスン電子の売上高は129兆ウォン(約12兆4000億円)。全売上の40%がスマートフォン事業から生じた。半導体32%、家電製品20%、ディスプレイ11%などが後に続いた。営業利益は22兆ウォン(約2兆1000億円)だった。半導体事業の利益は10兆ウォン(約9600億円)で、全体の47%を占めた。スマートフォンの売却益は8兆ウォン(約7700億円)で、3分の1程度だった。

 サムスン電子は、半導体の設計と生産はもちろん、スマートフォン、家電、ノートパソコンまで垂直系列化した世界的に珍しい総合半導体企業だ。ここまでは大韓民国の国民の誰もが知っている内容だ。しかし、わずか5年前でも、市場の投資家が米国のアップルと台湾のTSMCの未来の成長可能性を、サムスン電子と似た水準だとみなしていたということを知っている人は珍しいだろう。「10万電子」に登ることができず停滞したサムスン電子とは違い、今では株価がその上を軽く超えてしまったグローバル企業の話だ。

 全世界の投資家のこのような視線は、株価収益率(PER)という指標を通じて確認できる。株価収益率とは、簡単にいうと会社の時価総額を当期純利益で割った値だ。1株の株価を1株当たりの純利益で割るのと同じだ。この比率が高いということは、現在の株価が会社が稼ぐ利益に比べ割高であるか、あるいは投資家が今後会社に入ってくる利益が大きく増加すると予想しているという意味だ。

 サムスン電子の2016年の株価収益率は13.2だった。TSMC(12.3)より少し高く、アップル(13.1)に近かった。しかし、4年後には状況が変わった。2020年のサムスン電子の株価収益率は21.1に増えた。しかし、TSMCとアップルはこの割合がそれぞれ31.7と35.8を記録し、より大幅に増えた。会社の利益の増加幅より株価上昇幅が著しく大きかったという意味だ。

 このような違いが生じたのは、もちろん各企業が上場している市場が違うからかも知れない。サムスン電子は韓国総合株価指数(KOSPI)、アップルは米国のナスダック、TSMCは台湾証券取引所にそれぞれ上場している。TSMCの場合、米国のニューヨーク証券取引所にも米国預託証券(ADR)を上場し取引している。取引市場の規模に格段の差がある。

 しかし、本質的には企業の株価は未来の売上と利益の増加を反映するという点を考えてみよう。上場した市場は違っても投資家のアクセシビリティに大きな違いがあるとは考えがたい。これは結局、投資家がアップルとTSMCよりサムスン電子の成長可能性を低くみているという話だ。

 アップルとサムスン電子は、かつては厳然たる共生関係にあった。スティーブ・ジョブズは2005年、新しい携帯用オーディオ機器「iPod nano」にサムスン電子の薄くて安いNANDフラッシュメモリ半導体を搭載し、アップル復活の信号弾を放った。サムスン電子もアップルの仕事に力づけられ、日本の東芝を追い抜いた。アップルは、2007年に出した「iPhone」の頭脳にあたるアプリケーションプロセッサー(AP)の生産もサムスン電子に委託した。これが、サムスン電子の半導体受託生産(ファウンドリ)の成長とスマートフォン「ギャラクシー」の発売のきっかけになったということは、よく知られたエピソードだ。その後、サムスン電子のスマートフォン事業が急成長し、両者は別れた。

 アップルがサムスン電子より優位に立った踏み台は、アップルだけの閉鎖的な垂直的統合の生態系だ。かつてアップルの成長を導いたiPhoneは、2015年以後、事実上成長が停滞している状態だ。代わりに、自社開発した半導体チップと独自のオペレーションシステム(iOSなど)、固有のプラットフォーム(アプリストアなど)を通じて、iPhone・iPad・MacBookなどのアップルのモバイル機器を使う消費者を囲ってその内部で財布を開かせる。既存の機器と互換性があるアップルウォッチなどの新製品が人気を得て、アップルのオンラインサービスの売り上げが急増する背景だ。投資家らは、単純な製造企業を超えたアップルの「モバイル帝国」への変身の可能性に賭けているという話だ。

 台湾TSMCは、サムスン電子と別れたアップルと組んで成長した。まさに、そこにこの会社の強みがある。すなわち、巨額の資本投資とそれに後押しされる生産能力、そして取引先の確保だ。台湾の事実上の公企業に近いTSMCが「他の企業の半導体を代わりに作る」という事業モデルを初めて前面に出したときは、現在の成功を予想した人はほとんどいなかった。サムスン電子が日本企業とメモリ半導体市場で価格競争をする際、安定的な戦略を選んだことがあったからだ。

 この戦略が受け入れられたのは、半導体製造施設を持つことのできなかったグローバルファブレス(半導体設計企業)の成長と、ビッグテック(超大型情報技術企業)の自社チップの需要急増にある。「顧客と競争しない」という社訓を作り、インテルやサムスン電子などを苦手とする取引先を大挙誘致し、半導体分業時代には外注業者も優位に立てるという可能性を立証した。実際、TSMCの営業利益は、2015年末はサムスン電子の44%に過ぎなかったが、2020年末には64%に迫った。TSMCの高い株価には、この会社の利益が、近いうちにサムスン電子に追い付き追い越すだろうという市場の期待が反映されているわけだ。

模範生サムスン、特技生に変身を

 これまでサムスン電子が半導体やモバイル事業などで示した戦略は、全科目を上手にこなす模範生に近かった。実は、このような成果を成し遂げたこと自体、空前絶後のことだ。しかし、「9万電子」を超えて「10万電子」時代を開くカギは、模範生ではなく個性が明確な特技生となる時に握る可能性があるだろう。サムスンが持つ現金は130兆ウォン(約12兆5000億円)。この資金が流れる方向に注目すれば、サムスンが用意した答えが見えるはずだ。

チャンホ公認会計士 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/economy/economy_general/1022088.html韓国語原文入力:2021-12-06 09:57
訳M.S

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