ニホンザルは、霊長類のなかではヒトを除き最も北に住む日本の固有種だ。北海道を除く日本全域に分布しており、日本アルプスの3000メートルを超える山岳地帯でも、酷寒に打ち勝って生息している。
中部山岳国立公園の上高地は海抜1500メートル地域で、ニホンザルが生存する僻地だ。冬の間、木の皮や雪を食べて生き延びたサルは、冬が終わる頃の3~4月に飢えと低体温症で死んだりもする。
ところが、そこに棲むサルが、冬でも凍らない小川からマスや水中の昆虫、軟体動物などを食べているという事実が明らかになった。英国と日本の研究者らは、2017~2019年の冬の間にこの地域のニホンザルが残した排泄物38個を回収し、どのような餌を食べたのかを遺伝子で分析した。
その結果、7個からブラウントラウトのDNAが出てきて、9個からはコモチカワツボやカワニナなどの軟体動物の遺伝子が、18個からはカワゲラ、ユスリカ、ガガンボなど幼虫が水に生息する昆虫の遺伝子が検出された。ブラウントラウトは欧州原産のマスで、米国、日本、オーストラリアなどの世界各地に移植された淡水魚だ。
調査期間中、上高地の最低気温は氷点下25度まで下がり、1メートル近く雪が積もった。しかし、活火山の影響で熱い湧き水が流れてきて、小川は冬も凍らず5~6度を維持し、多くの魚と水中生物が生きている。
研究責任者である英国バーミンガム大学のアレクサンダー・ミルナー教授は「ニホンザルは餌が不足する冬には広い領域に散らばるものだが、高い山に囲まれた上高地ではそうすることができず、個体密度が異例に高い場所で酷寒に打ち勝たなければならない」と、同大学の報道資料で述べた。上高地のニホンザルは、1990年は2つの群れの90頭だったが、2018年には4つの群れの205頭に増えたと論文は明らかにした。
飢えに追い込まれたサルは、冬でも凍らない小川で餌を探すようになったはずだ。研究者らは「サルは、小川のほとりの浅い水たまりでブラウントラウトを捕まえたのだろう」と明らかにした。また、体長が1センチメートルを超えるカワゲラなどの水虫は、石を持ち上げてつかみ出したと推定された。
ミルナー教授は「小川に豊かな淡水動物が生息する上高地地域は、地形的・地質学的・気象学的な環境条件を利用し、ニホンザルがこのような方法で冬の餌を補う唯一の場所」だと述べた。
ニホンザルは、冬以外の時期は、主に果物、種、葉、花、きのこ、昆虫などを食べる。特に昆虫は食べる量に比べカロリーやタンパク質、脂肪の含有量が多く、主要な栄養分の供給源だと研究者は明らかにした。
ニホンザルは熱い温泉が湧き出る所で温泉に入ったり、人が与えたサツマイモを海水で洗って食べる行動が代々伝わる「文化」でも広く知られている。
引用論文: Scientific Reports、DOI: 10.1038/s41598-021-01972-2