原文入力:2011/05/31 11:52(4723字)
帰らざる川(4大河川工事 死亡者19名全数調査)
①大統領が自転車に乗った日
「一晩中 一睡もできなかった・・・子供の顔が見たい」と最後の言葉遺し
ソン・ギョンファ記者 ユ・シンジェ記者
金曜夕方「大統領が来られるんだって。徹夜作業になりそうだ」
土曜朝10時30分「徹夜で作業して、もうくたくただ」
午後2時「こちらは病院なんですが・・・すみません、奥さん」
誕生日も迎えてない赤ん坊は、このようにして父親を失った
←去る4月16日、慶北義城(ウィソン)洛東江(ナクトンガン)32工区で亡くなったハ・チョルス(仮名)氏の妻が、24日午後 全南(チョンナム)の新婚の新居で息子にミルクを飲ませている。ハ氏の家族は氏名・居住地・年齢等が公表されることを極度にはばかった。キム・ミョンジン記者 littleprince@hani.co.kr
父親の声が流れ出る電話機を耳に当ててやると、すぐに赤ん坊はニコニコ笑った。 金曜の夕方、妻はアパート前の遊び場で携帯電話の短縮番号1番を押した。夫に帰宅時間を尋ねた。「大統領が明日ここに来るらしい。徹夜作業になるかもしれない。 そのためにここにいる人たちの身元照会までやった。」
今週末には夫に会えるだろうと思っていた。 2週に一度、土日二日間の休み毎に夫は慶北義城の工事現場から全南の新居まで車で帰ってきた。 5時間かかった。夫は満一歳にもならない息子と遊んでやっては、じきに寝入ってしまうのだった。だが、今週末は夫は帰ってこられるかどうか分からないことになった。
結婚を2ヶ月先に控えて夫は斗山(トゥサン)建設に契約職として入った。4大河川工事を請け負った斗山建設が募集したのだ。「請負順位10位圏内に入る会社さ。」夫は中堅建設会社で土木技師として働いて3年目だった。地方大出身の夫は大学在学中に土木技師の資格を取った。慶南(キョンナム)の小都市で農業をしながら一人息子を大学まで出した舅姑にとって、夫は自慢の種だった。夫は2009年秋から慶北義城の洛東江32工区で仕事を始めた。 結婚以来、夫婦は2週に一度 週末にだけ会った。 翌年息子が生まれた。妻は夫が送ってくる月給をきちんきちんと貯めていった。
「コンクリート打ち作業をするんだけど、明け方4時まではやらなくてはならないと思う。」金曜日夜11時、また電話に出た夫は疲れ切った声だった。「休みなしで作業が続いている。」と夫が言った。 今年に入って夜勤が頻繁になった。 週に1,2回ずつ交代で夜勤していると夫は説明した。しかしその日の夜は違っていた。 夜勤をしても夜9時から午前1時まで休んで、それから明け方5時まで仕事をするのが普通だった。その晩、夫は休憩時間なしで作業をした。
夫は工事現場付近の民家に、同僚2人と一緒に部屋を借りていた。今年の秋、4大河川工事が終わったら他の仕事場を見つけて妻や子供と一緒に暮らすようにという妻の母の言葉を 夫は気にしている様子だった。 赤ん坊の百日目のお祝いの時も、家族3人が一緒に写真を撮ることはできなかった。 まもなくやってくる初めての誕生日の時に撮ることにしていた。
日が替わって土曜日の朝10時半、夫から電話がかかってきた。 「夜通し一睡もできなかった。 休むこともできなかった。 もうくたくただ。」「仕事をまだどれだけさせようって言うの? もうあとで電話かけないから、昼休みに少しでも寝てよ。」夫は子どもの声を聞きたいと言って電話を代わってくれと言った。 赤ん坊が哺乳瓶を噛んでいて代わってやることができなかった。「子どもの顔が見たい。」と夫。
2011年4月16日土曜日午後2時、夫の発信番号が妻の携帯電話の画面に入った。 電話機の向こうの声は夫ではなかった。 耳慣れない女の声がゆっくり切り出した。「こちら病院ですが、 ハ・チョルス(仮名)氏が・・・」すぐに夫の同僚だという男が代わった。「申し訳ありません。奥さん、 申し訳ありません・・・」
←二人の命を奪っていった現場
5月26日夕、慶北義城郡、洛丹(ナクタン)堰の工事現場でフォークレーン、ダンプトラック、起重機などを動員した夜間工事が進行中だ。 ここで去る4月16日、二人の労働者が死亡した。 義城/キム・ミョンジン記者 littleprince@hani.co.kr
ドーン!
夜を徹して流し込んだ生コンクリートの中に・・・あの人は 消えました
鶏丸焼きの袋を両手いっぱいに持って こちらにやってくるハ・チョルス(仮名)の姿が見えた。
「兄さん、夜食食べてからやりましょう。」チョルスが呼ぶ声にチェ・ギシク(仮名)は軍手を脱いだ。金曜日夜10時、コンクリート打ち作業を始めて5時間が過ぎた。 堰の端にある小水力発電所にコンクリートの屋根を覆う作業だった。キシクと同僚たちは屋根に続いた橋の上に座り鶏の足を一本ずつ手に取った。チョルスは紙コップにコーラを注いだ。夜間作業用の照明は這って行く蟻も見える程に明るかった。 橋の下を流れる川の水音がかすかに聞こえた。
20年近く工事現場で鍛え上げた労働者キシクはチョルスに注目していた。若い元請けの管理職がおじさんに当たるくらいの年配の下請け職員に接することは容易なことでない。若いくせに生意気だと言われるのが常だ。三十二才のチョルスは違っていた。チョルスは相手が誰であっても「兄さん」と呼んだ。 「兄さん」たちはチョルスの指示に従って生コンを流し込み、平らに仕上げた。 チョルスは作業服のポケットに缶コーヒーを入れてきては、よくキシクに渡したりした。 斗山建設に契約職として入ってきたチョルスは工事が終われば正職員になるだろうといううわさがあった。鶏の丸焼きを一口食べたチョルスは、他の「兄さん」たちのために橋の下に下りて行った。
4月16日土曜日の昼、夜通し続いた打ち込み作業が仕上げ段階に入った。川の向こう側の飯場食堂の昼食メニューは麺だ。チョルスは麺が好きだ。 屋根の上に上がってくるチョルスにキシクが尋ねた。 「昼飯は済んだか?」「これだけやってから食べますよ」「はやく済まして下りてこい。 昼飯にしよう。」「分かりました、兄さん」チョルスは屋根の上に立った。 下請けの栄光建設のキム・イルファン次長もそばに立った。 仕上げ作業をしていた10人余りは昼食を食べに下りて行った。 他の7人は橋の上に座ってチョルスの指示を待っていた。 コンクリートをもっと流し込めと言われれば更に流し込み、水平が合ってないと言われれば合わせなければならない。
タバコ一本吸うくらいの時間が過ぎただろうか。ドーン! 轟音が耳をつんざいた。 キシクの目の前で二人の体が奈落の底へ消えた。 2~3秒でもない、一瞬だった。 轟音には二人の悲鳴が混ざっていた。 乾いていないコンクリートは崩れながら砂埃さえ立てなかった。 目の前はくっきり見えていた。三歩先だ。 15m下に、曲がった鉄筋と乾いてないコンクリートの山。 二人の姿は見えなかった。
慶北義城の洛丹堰の工事現場で事故が起きたその時刻
尚州(サンジュ)自転車祝典を訪れた大統領は言いました。
「4大河川が完成すれば、皆がうなずくだろう」と・・・
←イ・ミョンバク大統領(中央)が去る4月16日午後、慶北尚州市で開かれた「第3回大韓民国自転車祝典」に参加して北川(プクチョン)市民公園付近を走っている。 大統領府カメラマン団
慶北義城警察署暴力犯係の刑事が洛丹堰の工事現場に出向いていた。尚州と義城の他の警察官と消防隊員も全て非常待機状態だった。尚州自転車祝典行事に大統領が参加する予定だった。 義城洛丹堰の工事現場で磨崖仏が発見されるや仏教界はほかにも磨崖仏が埋蔵されている可能性があると言って工事に反対してきた。 義城警察署暴力犯係の刑事たちは、ひょっとしてあるかもしれない仏教界の集団行動に備えていたのだ。4月16日昼12時17分、彼らの無線機にあわただしい声がいっせいに響いた。事故だ。現場に到着した尚州・義城の消防隊員が遺体を収容した。
事故10余分後の12時30分、大統領は慶北尚州市尚州女子中学を訪問した。遺体収容直後の午後2時、大統領は尚州北川市民公園で開かれた第3回大韓民国自転車祝典の開幕式で演壇に上った。「4大河川事業についてああだこうだと批判する方々も多いけれど、多分この秋に4大河川の完成された姿を見れば皆がうなずくと思います。」 大統領は続けて洛東江33工区の尚州堰の工事現場を訪れ現場関係者たちを激励した。二人が事故で亡くなった洛東江32工区の隣の工区だった。
驚きあわてて駆け付けた妻はただ泣くばかりだった。夕方8時、光州からやってきた弟を見るなり また泣き崩れた。尚州聖母病院に設けられた葬儀室には夫の同僚3人がぽつんと座っていた。弟は一体どういうことかと尋ねた。「人が死んだというのに皆どこへ行ったんですか? なぜ誰もいないんですか?」工事責任者は警察で取調べを受けているところだった。 様子を聞ける人もいないまま一夜が過ぎた。
翌日午後遅く斗山建設の部長だという男が葬儀室を訪れた。「なぜ安全でもないのにそんなところに上がっていたんですか? 勤務日誌に名前もありませんよ。勤務指示もなかったというのに誰の指示で行ったんですか?」弟の問いに部長は何も答えられなかった。「他のことは後にして、ひとまず合意金からお話します。」 弟は興奮して部長に食ってかかった。 「人が死んだというのに、今 お金が問題ですか?」夕方になると現場の同僚が弔問にきた。彼らは首をうな垂れていた。
「ずっと無理して引きとめておくより、早くあの世に送り出してやった方がいい。」「時間を長引かせれば法的争いもしなければならなくなる。早く決着をつけた方がいいんだ。」 妻は親族の人たちの話に首を縦に振った。 妻は部長が用意してきた合意書に署名した。 死んだ夫の携帯電話が鳴った。チキンの店からだった。おととい出前を頼んだ鶏丸焼き10個の支払いをという電話だった。
妻は夫を火葬し夫の実家のある慶南のある納骨堂に安置した。週末になっても帰ってくる夫のいない全南の新居に妻は戻ってきた。妻は「洛東江32工区 ハ・○○」と書かれた夫の名札を小さい箱に入れた。 家を離れた生活の長かった夫は、新居にも工事現場の宿舎にも遺品をほとんど残さなかった。 妻は子供に父親の記憶を残してやりたかった。 20代後半の妻は洛東江32工区と関連した新聞記事をスクラップしている。
慶北義城警察署は斗山建設および下請け業者栄光建設の関係者たちを捜査中だ。韓国産業安全保健公団は、小水力発電所の屋根を支える臨時構造物の“トンバリ(支柱木)”の連結部位に固定ピンが使われていなかった点を事故原因と見た。 警察は「固定ピンをささなかった」という作業員の陳述も確保した。産業安全保健法の安全作業指針とは異なり、トンバリの異常有無を確認する担当者は現場に配置されていなかった。
ソン・ギョンファ、パク・スジン、クォン・オソン、ユ・シンジェ記者 freehwa@hani.co.kr
原文: https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/480523.html 訳A.K