記事修正:2011-04-06午前09:54:04(4470字)
チョン・ウンジュ記者,ファン・ボヨン記者
←ソン・キホ“民主社会のための弁護士会(略称:民弁)”の国際金融通商委員会準備委員長(右端)が5日午後ソウル瑞草洞(ソチョドン)の民弁事務室で記者会見を行ない、韓-ヨーロッパ連合自由貿易協定(韓-EU FTA)検証のための争点事項を説明している。 キム・ジョンヒョ記者 hyopd@hani.co.kr
批准同意案3度目の上程…民弁、35項目の検証を要求
政府は5日、韓-ヨーロッパ連合(EU)自由貿易協定(FTA)批准同意案の3度目の閣僚会議上程を行なった。4月国会で批准同意案を処理して7月1日に暫定発効するという既存の立場を曲げないでいるのだ。 だが専門家たちは今回の事態は政府の拙速交渉が露呈したものであり、“毒素条項”の盛られた協定文の内容まで根本的によくよく検討してみなければなければならないと強調する。 民主社会のための弁護士会(以下、民弁)はこの日記者会見を行ない「今回の事態は単純な翻訳の問題ではなく、交渉内容を把握しなければならない状況である」として“10大分野、35個の検証争点”を選定して徹底した検証を促した。 主要な争点事項を整理してみる。
協定関連の全事案につき決定権限を持ち
内容改正時の国会同意も明示なし
■通商当局“強大権力機関”として浮上
外交通商部通商交渉本部は政府組織法上、対外交渉を担当する機関だ。 だが協定がひとたび発効すれば、強大な権力機関として浮上する。 韓国とヨーロッパ連合両国の通産長官が貿易委員会を構成するのだが(15.1条), この委員会は協定と関連した「すべての事案」を決定し(15.条)、「いかなる事案」をも当事国に対し提起する権限(15.3条)を持つためだ。 協定を改正する事もでき、その場合協定の骨組みと言える関税率や原産地決定基準も対象に含まれる。 しかし一方、このような通商権力を牽制する手段はどこにも明示されていない。 貿易委員会が協定を改正する時国会の同意を経るのかどうかも、はっきりしない。
国会の権限である法律改正に関しても、通商当局は勝手に約束をしている。「大韓民国郵便改革計画に関する了解」を見れば、協定の署名日(2010年10月6日)から3年以内に民間配達サービスを拡大するよう法律を改正し、協定発効の時点までに郵便局の書信独占領域を縮小するように郵便法施行令第3条を改正すると約束されているが、実際に政府は昨年9月1日施行令を改正した。
さらに大きな問題は、協定がひとたび発効されれば無期限に効力を持つという事実だ。 当事国が協定終了意志を書面で通知する場合6ヶ月後に協定効力が終わるという条項(15.11条)がありはするが、そこにも但し書き条項が付いている。 国際法の原則にのっとった不可避的な状況ではないのに一方的に協定を破棄した場合、相手国は対応措置を取ることができる(15.2条)という内容がそれだ。
先に民弁は通商当局の越権がすでに始まったと指摘したことがある。 昨年9月キム・ジョンフン通商交渉本部長がヨーロッパ連合と口頭で合意したとして、韓国国会の批准同意手続きの“終了期限”を7月1日と釘を刺したためだ。先月17日、民弁は「憲法上、国会の条約審査権と三権分立の原則に反する」として監査審査を請求した。 チョン・ウンジュ記者ejung@hani.co.kr
←‘民主社会のための弁護士会’が提示した韓-EU FTAの35の検証争点<表>
GDP 10年間5.6%増加? 推定値に過ぎず
第三国の材料添加に関する関税恩恵も極めて微々たるもの
■利益は膨らませ損失は減らして広報
韓-ヨーロッパ連合FTA締結により減ることになる関税収入は、10年間年平均1兆7000億ウォンに達する。 だが政府は、実質国内総生産(GDP)が10年間全5.6%増えるのでかえって租税収入の増大が予想されるとして肯定的効果だけを浮き彫りにしている。 しかしこれは、協定締結による生産性増大効果を仮定した“推定値”に過ぎない。 推定値を出した10の国策研究機関でさえ、報告書の中で「数値自体には意味を置くな」と明らかにしたほどだ。
政府はまた、ヨーロッパ連合は工産品品目数の99.4%に対して関税を3年内に早期撤廃する反面、我が国は95.8%を3年内に早期撤廃するとして、交渉結果が韓国に有利だという点を集中的に広報した。しかし、ヨーロッパ連合は自由貿易協定と関係なしに工産品のうち2057個を無関税で153ヶ国から輸入しているため、これを除くならば関税撤廃で有利になる工産品品目は全体の71.5%だけだ。
自由貿易協定締結により輸出が増えるだろうという政府の主張と異なり、輸出拡大の機会が遮断される分野もあちこちで見出される。 政府はかにかまぼこの原産地交渉について「一定の輸出物量限度内で第三国の材料を使っても特恵関税を受けられるように合意し、かまぼこ調製品の対ヨーロッパ連合輸出品の拡大のための根拠を作った」と説明した。 第一の問題は、一定の物量というのが2000~3500tで極めて微微たるものであるという点だ。 最大輸出量を記録した1997年、韓国がヨーロッパ連合に輸出したかにかまぼこの量は3万188tに達している。 その上、主材料もメンタイの身でなければならないと釘を刺した。 メンタイの単価はキロ当り2.91ドルで一般の魚肉(1.33ドル)の2倍も高い。そして3500t以外の分は韓国産魚肉を使わなければ関税減免恩恵を受けることができない。
水産物養殖の原産地規定でも、特に稚魚に必ず韓国産を使うよう規定している。 北朝鮮や中国から貝の種や稚魚を持ってきて養殖してもこれを韓国産とは認められなくなったわけだ。
ファン・ボヨン記者
学校給食でヨーロッパ産農産物の規制は不可能
中小商人の保護「SSM法」も認定されず
■韓-米FTAを凌駕する毒素条項
「韓-米自由貿易協定」に比べて内容が悪化している条項も少なくない。 世界貿易機構(WTO)政府調達協定は、政府調達において外国産商品に対する内国民待遇を規定している。 ただ韓-米FTA協定は政府調達と関連して「給食プログラムの増進のための調達には適用しない」という学校給食例外規定を置いた。 これとは異なり、韓-ヨーロッパ連合協定の政府調達項目では学校給食に対する別途の規定がない。 今後ヨーロッパ産農産物調達と関連して紛争が生じる素地を残したことになる。
韓-ヨーロッパ連合協定ではまた、世界貿易機構協定では開放していない民間資本事業の門戸も開いた。中央機関以外にも仁川(インチョン)、京畿(キョンギ)、ソウルなど3つの広域団体が発注する民間資本の建設事業が開放されたのだ。 問題は、仁川市(インチョンシ)議会が去る1月に制定した「仁川市地域建設産業活性化促進条例」が無力化される可能性があるという点だ。 この条例は仁川市が発注する大型工事に地域建設会社が一定比率以上参加するように奨励している。 ヨーロッパ連合の建設会社がこの条例に対し問題を提起することができるわけだ。
500万の中小商人に最小限の保護装置を提供した「流通産業発展法」と「大企業-中小企業共生協力促進に関する法」もまた、韓-ヨーロッパ連合協定と衝突する。 根本原因は韓国側が何らの制限もなしに流通分野をヨーロッパ連合27ヶ国に開放したためだ。 一方、フランスとベルギーなどヨーロッパ7ヶ国は、小売り分野で経済的需要審査を行い、既存の売り場に否定的影響を及ぼす場合、デパート開業を認可しない権限を確保した。
合わせて電気毛布や電気アイロン、バッテリー充電器など火災・感電などの恐れが大きい電気用品に対して安全認証機関の定期検査を受けるようにする規制も事実上廃止されることになる。 外部機関の認証の代わりに生産会社が自ら適合性を宣言すれば電気用品の安全性を認めるように両国が合意した結果だ。 ファン・ボヨン記者whynot@hani.co.kr
原産地管理能力認証企業は7.6%だけ
政府補助金禁止、関税払い戻しも制限
■韓国輸出企業の打撃、火を見るより明らか
ヨーロッパ連合は2008年から化学物質登録評価承認制度(REACH)を運営している。 韓-ヨーロッパ連合自由貿易協定が発効されれば、この制度が新しい非関税障壁として浮び上がる展望だ。 ヨーロッパ連合に年間1t以上化学物質を輸出するには、その危害性をヨーロッパ化学物質庁(ECHA)に登録し評価、許可を受けるよう義務化したためだ。 これに従わない企業の製品に対してはヨーロッパ連合の通関作業さえ進行されない。 大邱(テグ)慶北(キョンブク)研究院は、この制度のために韓国の輸出企業が2018年までに4兆3610億ウォンを直接間接費用として使うことになろうと見通した。
韓国の輸出企業が直面したまた別の壁としては、認証輸出者制度を挙げることができる。 韓-チリ自由貿易協定などでは関税減免適用を得るための方法として、品目別原産地基準により輸出者が“韓国産”であることを自律的に証明すれば良いようにした。 これとは異なり韓-ヨーロッパ連合協定では、もう一段階経るようにした。 関税当局から原産地管理能力があるという証明を別にもらわなければならないのだ。 問題は、先月18日までに認証輸出者として登録した企業が全体(8200ヶ所余り)の7.6%(623ヶ所)に留まるという点だ。 この制度をすでに1970年代から導入しているヨーロッパ連合側はすべての準備が終了している状態だ。
一方ヨーロッパ議会は去る2月17日、セーフガード(緊急輸入制限措置)法案を可決した。 この法案ではヨーロッパ議会がセーフガード調査開始を勧告することができ、執行委員会はこれを注意深く検討するようになっている。 国会は検討報告書の中で「ヨーロッパ議会の勧告は拘束力がないとは言え、政治的な圧力として作用する可能性を排除することはできない」と分析した。
かんぬきを精一杯に下ろしているヨーロッパ連合とは違い、我が国があえなく道を開いてやったケースも多い。 例えば政府補助金受領者の情報をヨーロッパ連合側に事実上渡すと約束し、世界貿易機構(WTO)も許容している企業支援補助金を禁止した。 関税払い戻しも協定発効5年後に5%に制限することにした。韓国企業が払い戻しを受けている関税額(2009年基準)は年に3兆2000億ウォンに達する。
チョン・ウンジュ記者
原文: https://www.hani.co.kr/arti/economy/economy_general/471589.html 訳A.K