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[ハンギョレ21 2011.03.04第850号] 労働の赤信号無視し ひた走る自動車(7124字)

[ズームイン] ‘正規職転換’最高裁判決でも解決できない現代車社内下請け問題…
政界・政府が‘向こう岸の火事見物’をやめ、社会的合意引き出すべき

□クァク・ジョンス

 "不法派遣撤廃、正規職争奪!" 去る2月25日ソウル、良才洞の現代自動車本社前。蔚山工場社内下請け労組員たちが野宿闘争に突入した。昨年11月15日から25日間続いた工場占拠ストライキに続き、事実上第二のストライキだ。イ・サンス支会長を先頭とする指導部が前労組事務長チェ・ジョンミン氏の組合費流用に関する良心宣言により突然総辞職する突発状況が起きたが、闘争を強行した。良心宣言が事実なら労組の道徳性に大きな傷が避けられず、闘争動力も弱まる可能性がある。社内下請け労組は会社が組合員間の分裂と闘争弱化を目的にチェ氏をそそのかしたのではと疑っている。会社側と非正規職労組間の葛藤と不信ばかりがより一層増幅された。

雇用の安定性と柔軟性の間の隙間

現代車非正規職事態はストライキという大きな苦労をしても、明確な解決法を探せず、これまで平行線を続けてきた。去る1月26日、現代車と正規職労組が1ヶ月半余りの交渉の末に作った4項目の実務協議合意書(案)が社内下請け労組によって拒否され、状況は競走する汽車のようにより一層悪化した。最大争点は占拠座り込みストライキ関連者らに対する民刑事上処理問題だ。現代車幹部は「不法ストライキに対する責任は最小限に問うものの、核心関連者20~30人に対しては懲戒(解雇)が避けられない」とし「数千億ウォンの損失を産んだ不法行為をなかったことにしようということは名分が立たない」と主張する。反面、社内下請け労組は解雇は絶対に認められないという立場だ。こういう渦中で、元々の非正規職事態の本質である社内下請けの正規職転換のために持続的に協議することで意見接近を見たことまでそのまま埋められてしまった。

←去る2月10日、現代車蔚山工場社内下請け勤労者のチェ・ビョンスン氏を正規職と認定するソウル高裁判決が下されてきた後、現代車社内下請け労働者らがソウル、瑞草洞の裁判所前で正規職転換を促す集会を開いている。ハンギョレ シン・ソヨン

去る2月10日、現代車蔚山工場社内下請け勤労者のチェ・ビョンスン氏がソウル高裁の破棄控訴審で以前の最高裁判決と同じように勝訴し正規職と認められた後にも解決の糸口を見つけられないことは同じだ。裁判所は 「2年以上働いた社内下請け非正規職労働者は現代車に直接雇用された正規職とみるべきだ」とし、現代車の社内下請けは不法派遣だと判決した。労組は裁判所の判決趣旨を尊重し非正規職全員を直ちに正規職に切り替えることを要求した。だが、現代車は事件に対する司法的判断がまだ完全に終わっていないとし、最高裁に再上告した。憲法訴訟もまもなく出す計画だ。現代車は「今回の判決はチェ氏個人に限定されるもので、残りの社内下請け勤労者たちはケースが違う」としながら「しかも最終的な司法的判断がまだ残っているので、全面的な正規職転換要求は時期尚早」と一蹴した。

←現代車非正規職現況

社内下請けの解決方法を探すためには労使がこの問題を眺める核心が何かに注目する必要がある。会社は雇用柔軟性を最も重視する。反面、非正規職労組は雇用安定と賃金福祉など正規職との差別改善に注力する。 結局、核心は‘雇用安定’(会社側の立場では雇用柔軟性)と‘処遇改善’の2種類に圧縮される。

まず正規職と非正規職間の賃金差は相当な水準だ。現代車側資料に基づけば、非正規職の年平均賃金は正規職に比べて73%水準で、正規職転換がなされる場合、追加でかかる費用は年間1180億ウォンだ。金属労組は会社が賃金格差を縮小したと指摘している。金属労組側基準で計算すれば、現代車の追加費用負担は年間2600億ウォン程度に増える。起亜車労組は団体協約資料を根拠に非正規職賃金が正規職の55%水準だと話す。正規職が受け取る各種福祉恩恵を含めればその格差は一層広がる。当然会社の正規職転換費用がより大きくなる。 だが、現代車の昨年実績(当期純利益 5兆3千億・売り上げ36兆8千億)と比較すれば大きな負担ではないということが一般的見解だ。現代車労使担当のユン・ヨチョル副会長も最近「非正規職の正規職化は転換にかかるお金ではなく、労働硬直性が問題」と内心を明らかにした。

雇用安定性(柔軟性)問題はさらに複雑だ。現代車の蔚山・全州・牙山など3工場の生産分野に勤める社内下請け勤労者は概略8千人台だ。これらの他にも食堂・警備・清掃など用役分野で2千人の非正規職がさらに仕事をしている。現代車正規職役職員数 5万6千人と比較すると、非正規職は18%程度となる。非正規職労働者の場合、雇用不安は単純な賃金格差を跳び越え生計を威嚇する深刻な問題だ。反面、会社は雇用柔軟性が確保されなければ国際競争力を維持できないという切迫感を吐露する。 自動車は景気変動に敏感な業種だ。米国の自動車市場は2007年まで年間1650万台水準を維持してきた。金融危機の直撃弾を受けた2008年は1319万台、2009年には1040万台に墜落した。わずか2年間で40%近い市場が消えたのだ。2010年には多少増えたが相変らず2007年以前とは大きな格差を見せている。ユン・ヨチョル副会長は「グローバル経済危機で困難を経験した米国GMとクライスラーが回復したのは整理解雇が自由だったため」としながら「自動車のように景気に敏感な産業は不況がくる時に大規模解雇事態が避けられない」と話した。米国自動車業界のビッグ3は金融危機以後、少ない場合で数千人から多くて2万人を越える大規模人材構造調整を断行した。現代車関係者は「我が国では米国のようにできるか。正規職が構造調整を受け入れるか」と問い直した。

政府・与党後手、野党は口だけ

雇用安全性と柔軟性を巡る悩みはただ我が国ばかりではない。日本のトヨタ自動車は正規職の他に短期契約職である期間工と派遣勤労者などを多様に活用している。非正規職の比重は全体人員の20%内外という。トヨタはグローバル金融危機とリコール事態が重なり、最悪の危機を迎えた2009年に非正規職 数千人を解雇するなど強力な構造調整と原価低減を施行し、2010年に大規模黒字を達成した。模範的労使関係モデルとして多く言及されるドイツのフォルクスワーゲンも派遣労働者を広範囲に活用している。金属労組のイ・サンホン研究委員は「フォルクスワーゲンの場合、25万勤労者の内、派遣者が1万5千人程度」とし「金融危機直後に派遣労働者契約解除で労使葛藤を経て、昨年9月に派遣労働者400人余りを正規職に切り替えた」と紹介した。

←現代車非正規職葛藤日誌

雇用安定性または柔軟性に対する相反する現実的要求の中で、どちらか一つをあきらめるのが難しいならば、結局は両極端でなく中間のある地点で妥協を模索することが当然な道理だ。韓国労働社会研究所のキム・スンホ研究委員は「非正規職労働者に賃金・福祉など処遇改善と共に雇用安定を一定水準保障し、企業にも一定水準の雇用柔軟性を確保できるようにする折衝努力が必要だ」と提案する。

このためには法的・制度的後押しが必須だ。非正規職問題が一企業体や事業場労使の力だけで解決できない理由もこのためだ。また、社内下請けは現代車だけでなく自動車業種共通の問題だ。一例としてGM大宇非正規職労組は会社の前で3年を越える長期座り込みを行い、去る2月2日 会社側と解雇者復職で劇的に合意した。自動車の他にも造船・鉄鋼・電気/電子など多様な業種で広範囲に社内下請けを活用している。政府は国内大企業で仕事をする社内下請け勤労者が30万人を越えると把握している。その上、彼らより状態がさらに劣悪な一般非正規職労働者はその数がさらに多い。人によって推定値が異なるが、我が国社会の非正規職規模は少なく見ても300万~400万人、多くて500万~600万人に達する。結局、こういう巨大問題を解決するには社会全体の努力と合意が必要だ。

だが、私たちの社会は大きな枠組みで非正規職問題を解決しようとする努力が不在な状態だ。最も責任ある政府や与党は検察・警察を前面に出し手配勤労者たちを追うことに汲々としているのを除けば、事実上 手を後ろに組んでいる。野党も批判から自由でない。民主党と民主労働党など野5党は去る2月10日、ソウル高裁でチェ・ビョンスン氏の勝訴判決が下された後に合同記者会見を行い「現代車は直ちに社内下請け労働者たちを正規職に切り替えなさい」と促した。労働界では野党もスローガンを叫ぶだけでなく、皆が共感できる代案検索に積極的にでなければなければならないと注文する。起亜車労組のキム・テヨン副支部長は「私たちの社会が現代車の非正規職葛藤を対岸の火事見物をしているようだ」とし「政府と政界が法と制度改善に努力を傾け、金属労組のような産業別労組を活性化すれば解決方法作りにはるかに役立つだろう」と話した。

社会的合意引き出したオランダ・スウェーデン モデル

現代車も大きな声では言わないが、事実上 最高裁の結論が出た懸案に対して追加で司法的判断を求め時間を引き延ばしているという非難を甘受する内心には、非正規職問題解決法に対する社会的議論と合意導出に対する期待が含まれているようだ。現代車の高位役員は「雇用柔軟性を確保できさえすれば、その方法は関係ない」と話した。

大企業にばかり一方的に有利に雇用柔軟性を確保し雇用安定性を傷つけるならば社会的合意ができにくいだろう。専門家たちは先進国モデルをベンチマーキングする必要があると話す。韓国労働社会研究所のキム・スンホ研究委員は「オランダは労働柔軟性が相当高い水準だが、正規職と非正規職間の賃金格差が殆どない」としながら「むしろ勤労者たちが(仕事と家庭の調和や自己啓発などのために)自発的にパートタイム(時間制)勤務を好む」と話す。

←去る2月13日、ソウル、瑞草区、良才洞の現代・起亜自動車グループ本社そば京釜高速道路周辺広告看板の上で現代車非正規職労組のノ・トグウ、キム・テユン前首席副委員長がプラカードを掲げ座り込みを行っている。彼らは2月18日、警察に強制鎮圧された。ハンギョレ キム・テヒョン

スウェーデン モデルも示唆するところが大きい。スウェーデンは個別企業の構造調整が相対的に容易だ。すなわち、労働者は職場保障がされない。だが、労働者が構造調整に猛烈に反対しないのは解雇の恐怖がないよう国家が十分な社会安全網を提供しているためだ。また、オーダーメード型再教育と就職斡旋を通じ労働者が速かに産業現場に戻れるようにする‘積極的労働市場政策’を展開している。このように見れば、労働政策と福祉、教育、経済政策が互いにかけ離れた問題ではないということが分かる。また、福祉拡大が労働者はもちろん企業にも有利だという認識転換も可能だ。今の広範囲な非正規職問題を解決するには社会全体水準で雇用安定性と柔軟性水準について社会的合意を形成し、こういう合意が持続可能な形で労働・福祉・教育・経済政策を合わせる総合構想(グランド デザイン)が必要なわけだ。

このような点を考慮すれば現代車労使も妥協を模索する余地が生まれる。労組は会社側が最高裁再上告を含め追加的に司法的判断を求めることを阻むことは現実的に難しい。最高裁判決が覆されなければ正規職転換は時間が解決すると余裕を持てるかも知れない。2次ストライキは再び莫大な犠牲を招く危険性がある。

正規職労組の協力も緊要だ。会社が強調する雇用柔軟性確保方法には人的構造調整を可能にする量的柔軟性の他にも転換配置等を通じた機能的柔軟性がある。そのためには正規職労組の同意が必須だ。正規職労組は社内下請け問題がここまで悪化したことに責任感を感じなければならないという指摘もある。現代車正規職労組のある幹部は「正規職労組が外国為替危機直後の構造調整ではしかを体験した後、会社側に非正規職の使用を容認し景気変動期に自分たちの雇用安定のための安全弁としようとした側面がある」と指摘した。これに反し、起亜車正規職労組は非正規職使用に否定的態度を守ってきた。そのために起亜車は現代車とは違い正規職と非正規職の作業工程が概して分離されており、相対的に不法派遣論難が少ない。

正規職労組が社内下請け勤労者をさらに積極的に抱擁する必要もある。起亜車労組は2008年から正規職と非正規職労組を統合した。これを土台に起亜車非正規職勤労者たちは会社と団体協約を通じて相当な水準の雇用保障を確保した。一例として起亜車正規職は定年が58才なのに比べ、非正規職は65才と長い。これに反し、現代車正規職労組は社内下請け労組との統合を拒否している。現代車を相手に高裁で勝訴判決を勝ち取ったキム・ジュンギュ氏は「正規職定年退任者が近い将来、毎年500~1千人ずつ発生するほかはない現実まで勘案すれば非正規職の正規職転換がそれほど難しいこととは言えない」と話した。

判決趣旨に則り正規職転換を始めるべき

現代車もむやみに時間を長引かせているという印象を与えるよりは、企業次元で可能な妥協点を探す努力が必要だ。例えば社内下請け勤労者たちの処遇改善に積極的に出て、最終司法的判断以前にも既存判決に直接的な影響を受ける勤労者から正規職へまず切り替える措置を取ることができる。そのためには何よりも非正規職労組との誠実な対話が必要だ。だが、現場では‘会社が社内下請け労組を対話相手として認めた瞬間、社長の首が飛ぶ’という話が公然と出回るほどに不信が深い。パク・テジュ韓国労働教育院教授は「現代車労使は最終的な司法的判断を求める過程をお互いに認めながら、最高裁の判決趣旨に則り正規職転換交渉努力を持続的に傾けるツートラックを踏まなければならない」と強調した。

クァク・ジョンス記者 jskwak@hani.co.kr

大企業社内下請け勤労者 規模と待遇

統計にも補足されない非正規職32万人

←主要業種別 社内下請け現況

統計庁によれば、2010年8月基準で賃金勤労者全体の中で33.3%が非正規職だ。一時的勤労者と時間制勤労者、非典型勤労者(派遣・用役勤労者など)を全て含んだ数値だ。だが、労働界では正規職内でも従事上の地位が臨時職または日雇いに属し雇用が不安定で社会的保護が必要な‘脆弱勤労者’は非正規職に含ませなければなければならないと主張する。この基準を適用すれば非正規職比率は2010年3月現在 49.8%に達する。賃金勤労者の半分が深刻な雇用不安に苦しめられているということだ。

社内下請け勤労者たちは労働界基準でも統計庁基準でも、このような非正規職統計から抜け落ちている。請負を与えた母体(親企業)の側面から見れば非正規職だが、社内下請け業者の側面から見れば厳然たる(?) 正規職であるためだ。労働部実態調査によれば、2010年8月末現在の社内下請けを使う従業員300人以上1939ヶ大企業で仕事をする勤労者は132万6千人だ、この内、社内下請け勤労者は32万6千人で、24.6%を占める。大企業で仕事をする勤労者4人中1人は社内下請けに属した事実上の非正規職である。この比率は2年前の2008年5月調査時の21.8%より高まっている。大企業がますます賃金は安く雇用調整が自由な社内下請け依存度を高めた結果と分析される。

社内下請けは現代車のような自動車業種だけでなく造船・鉄鋼・機械・金属・化学・電気・電子など多様な分野で広範囲に存在する。社内下請け活用が最も多い業種は造船だ。現代重工業、三星重工業、大宇造船海洋など国内14ヶの造船会社の埠頭で一緒に船を作る社内下請け業者数は1072社に及ぶ。一つの造船会社ごとに80社程度の社内下請けが付いているわけだ。この社内下請け勤労者たちは計8万5119人だ。造船所勤労者全体の61.3%を占める。正規職職員5万3629人よりむしろ多い。尻尾が胴より大きい奇形だ。次いで社内下請け依存度が高い業種は鉄鋼だ。鉄鋼会社で仕事をする勤労者の内、44%は社内下請けだ。

社内下請け勤労者たちは雇用不安と共に母体(親企業)の正規職勤労者たちに比べ低い賃金を受け取っている。現代車が提示した資料によれば、経歴4年目の社内下請け勤労者の年平均賃金は3793万ウォンで、正規職(5181万ウォン)の73%水準だ。だが、労組側は社内下請け賃金が実際より膨らまされていると主張する。イ・サンホン金属労組研究委員は「蔚山工場で働く経歴4年目チョン・某氏の昨年6月分給与は280万ウォンであり、これを根拠に年俸を計算すれば3360万ウォンで会社側金額より少ない」とし「しかもチョン氏の月間勤労時間は300時間以上で会社側の基準である223時間よりはるかに長い」と指摘した。起亜車労組関係者は「社内下請け勤労者の給与は正規職の55%水準」と話した。

原文: http://h21.hani.co.kr/arti/society/society_general/29116.html 訳J.S