ドナルド・トランプ米大統領が賦課すると予告した相互関税をめぐり、韓米が今週「2プラス2」交渉を予定している中、ハン・ドクス大統領権限代行首相が交渉開始前に「防衛費再交渉」の可能性を示唆し、波紋を広げている。
ハン権限代行は20日に公開された英国「フィナンシャル・タイムズ」(FT)のインタビューで、米国政府との貿易交渉で在韓米軍防衛費分担金問題が共に協議される可能性があるかという質問に対し、今のところ、安保問題を議論する「明確な枠組みはない」としつつも、「事案の性格によって」防衛費協定を再び議論する意思があると述べた。
韓国政府は昨年末、米国のジョー・バイデン政権と2026年から2030年まで適用される第12回防衛費分担特別協定(SMA)に合意し、すでに国会の批准まで完了した。ところが、トランプ大統領は韓米が合意した防衛費の大幅引き上げを求めており、9日にハン権限代行と電話会談した後には、関税と防衛費分担金を一括で協議する「ワンストップ・ショッピング」の交渉を進める意向を明らかにした。
次期政権発足までわずか40日余りを控え、権限代行が次期政権の外交・安保戦略の中核となる内容を米国と協議するのは、「越権」という批判を免れない。しかし、ハン権限代行はこれをものともせず、国会が批准した防衛費協定の再交渉まで示唆したのだ。特に、米国との交渉を控えた状態で韓国の持つ重要な「カード」を見せ、先に譲歩しうるという意思を示したのは、戦略的にも国益を大きく損なうという声があがっている。
ハン権限代行は同インタビューで終始、米国の意図に合わせるという態度を示した。ハン権限代行は「朝鮮戦争以来、米国は私たちに援助、技術移転、投資と安全保障を提供してきた。韓国の産業の力量、金融発展、文化、成長、豊かさは米国に助けられたところが非常に大きい」と強調した。トランプ大統領の相互関税措置には「対抗しない」とし、韓米関税交渉で「双方ともウィンウィンとなる解決策の模索に務める」とも述べた。ハン権限代行はまた、米国の液化天然ガス(LNG)と商業用旅客機を購入する方式で、対米貿易黒字縮小を議論する意向があるとし、海軍造船分野における協力強化が「韓米同盟の強化に役立つ」と語った。韓国の自動車排気ガス規制、30カ月以上の米国産牛肉の輸入制限、ネットフリックスのようなグローバル・コンテンツ企業に賦課するインターネットのネットワーク使用料など、米国が不満を示してきた非関税障壁問題についても協議する意向を示した。
フィナンシャル・タイムズによると、ハン権限代行が「防衛費再交渉の可能性」を示唆したことについて、記者が「選出されていない権限代行に、今後数年間にわたり韓米関係を再編する交渉を進める権限があるのか」と質問すると、ハン代行は強硬な態度を示したという。ハン代行が進める交渉が民主的正当性を欠くという指摘にも強く反論したという。ハン権限代行は、自身の任務が「憲法と関連法律に基づいている」としたうえで「遂行できる業務において、権限代行と大統領には違いがない」と述べた。
これについて、最大野党「共に民主党」のウィ・ソンラク議員はハンギョレの電話インタビューで、「ハン首相は昨年韓米が締結した第12回防衛費分担金特別協定の当事者であり、韓国政府の立場は『すでに韓米政府間で締結された防衛費協定から出発すべき』というものでなければならない」とし、「ハン首相は大統領選出馬カードを手に握って、自らの野望のために国家と歴史に害を及ぼす行為をしている」と批判した。
波紋が広がったことを受け、首相室当局者は「防衛費分担金協定を再交渉する意向を示唆したというのは、フィナンシャル・タイムズの解釈であり、首相の発言ではない」と釈明した。しかし、「インタビューの原文は公開できない」と述べた。首相室は「韓国政府は防衛費分担特別協定を忠実に履行しており、今のところは防衛費分担に関して米国からいかなる交渉の提案もなく、いかなる検討も行われていない」とも述べた。
一方、ハン権限代行は自身の大統領選出馬について「まだ決めていない」と述べた。出馬を考えているのかという質問には「ノーコメント」と答えた。インタビューは17日に行われた。