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在韓米軍「10倍の請求書」持ち出したトランプ氏…朝鮮半島のリスクかつチャンス

登録:2025-01-09 06:33 修正:2025-01-09 10:37
2018年6月12日、シンガポールでの1回目の朝米首脳会談での金正恩国務委員長と米国のドナルド・トランプ大統領=ハンギョレ資料写真//ハンギョレ新聞社

 今月20日に第47代米国大統領に就任するドナルド・トランプ氏の復帰は、朝鮮半島にとっては危機だ。「システムの破壊者」を自認し、「無料の安全保障はない」と声高に言うトランプ氏の帰還がもたらす不確実性は、「危機」という漢字の通り、危険かつ機会という意味を持つ。「帰ってきたトランプ」に対して韓国は、朝鮮半島8000万の市民および人民が危険を回避し、非核・平和・繁栄の朝鮮半島に向かう機会の扉を開けるだろうか。

■「韓国はマネーマシン」

 トランプ氏は韓国を「マネーマシン」と呼ぶ。韓国が在韓米軍の防衛費分担金を年間100億ドルは支払わなければならないと主張する。韓米が2024年10月4日に合意した第12次防衛費分担特別協定(SMA)による韓国の分担分の10倍近い金額だ。NATO(北大西洋条約機構)に国防費を国内総生産(GDP)の5%に引き上げるよう求めたり、台湾に「防衛費用を(GDPの)10%は使わなければならない」と要求した圧力と変わりはない。「安全保障のただ乗り」は認めない、米国の保護を受けるならば「金(カネ)」を出せ、ということだ。そもそも、米国の国防費はGDPの2.5~2.9%のラインだ。トランプ式の「費用をかけない覇権維持戦略」「略奪的取引主義」だ。防衛費分担金交渉をもう一度行うという予告も同然だ。この問題は、在韓米軍の地位や規模に影響を及ぼす火種を含んでいる。

 トランプ氏の「金」中心の世界観は、通商にも暗雲をもたらすリスクがある。2024年の韓国の対米貿易黒字は557億ドルで過去最高を記録した。トランプ政権1期目の最後の年である2020年の227億ドルの2倍を超える。関税を「最も美しい単語」と持ち上げるトランプ氏がこれを口実に、韓米自由貿易協定(FTA)を再協議するよう圧力をかけるリスクがあるという懸念が出てくる背景だ。韓国は世界1位の対米投資国(2023年215億ドル)だが、バイデン政権下での中国を排除したサプライチェーンの再構成、インフレ抑制法(IRA)や半導体および科学法(CHIPS法)などによる影響だ。しかしトランプ氏は、脱炭素・エコエネルギーシフトに支援金を与えるIRAを「グリーン詐欺」(Green New Scam)とこき下ろす。バイデン政権の圧力と支援策に引きずられて米国に工場を作っている韓国の自動車・二次電池・電子企業などにとっては進退両難だ。「帰ってきたトランプ」に対抗して韓国の通商・安全保障の利益を守らなければならない韓国政府は孤立無援の状態だ。

■「金正恩とうまくやる」

 トランプ氏は金正恩(キム・ジョンウン)総書記兼国務委員長との縁を強調する。「私は金正恩を非常によく知っている」「私は金正恩と非常にうまくやってきた」「核を持った者とはうまくやるのがいい」という具合だ。言葉を現実化する動きも素早い。2018年6月にシンガポールでの朝米首脳会談の実務準備チームに参加したアレックス・ウォン氏を、ホワイトハウスの国家安保会議(NSC)のナンバー2である副補佐官に抜擢し、腹心であるリチャード・グレネル氏元駐ドイツ大使を、北朝鮮問題を含む「特別任務のための大統領特使」に指名した。「トランプ政権の引き継ぎチームは金正恩国務委員長との直接対話の推進を検討している」というマスコミ報道を裏付ける人事だ。

 しかし、2019年2月のハノイでの2回目の朝米首脳会談で、トランプ氏の「心変わり」にプライドが傷つけられた金正恩国務委員長の反応はまだ冷たい。金正恩国務委員は米国大統領選の直後である昨年11月21日、「われわれはすでに米国と共に交渉コースの行き着く所まで行ってみて、結果的に確信したことは、侵略的で敵対的な対朝鮮政策」だと述べ、あえてトランプ氏が復帰しても期待はしていないという反応を示した。金正恩国務委員長は、年末の労働党全員会議では「最強硬対米対応戦略」を明らかにした。現時点では接点はない。トランプ氏の就任式の直後である22日の最高人民会議で、金正恩国務委員がどのような話をするのか注目する必要がある。

2024年6月19日、平壌錦繻山の迎賓館の庭園を並んで歩いている金正恩国務委員長とロシアのウラジーミル・プーチン大統領/朝鮮中央通信・聯合ニュース

■プーチンという「鍵」

 ロシア・ウクライナ戦争の進退は、2025年の朝鮮半島情勢と「トランプ2期目」の対外政策の基本方針をはかる核心要素だ。停戦または終戦をめぐるトランプ・プーチン両氏の戦略ゲームに、朝ロ・朝米関係を含む朝鮮半島情勢は影響を受けざるをえない。キム・ヨンチョル元統一部長官は「北朝鮮・米国・ロシアの三角関係が情勢を決める」と述べ、延世大学のムン・ジョンイン名誉特任教授は「北朝鮮と米国の交渉を始めさせられる唯一の道はプーチン」だと指摘した。

 外交安全保障分野の専門家らは「朝鮮半島情勢の変化の過程で『韓国パッシング』(韓国外し)を避けるためには、ロシア・ウクライナ戦争と尹錫悦(ユン・ソクヨル)式の冷戦外交が重なったことで壊れた韓ロ関係の修復が急務」だと求めた。

■韓国の選択

 ある重鎮は「韓国の国家戦略目標は、朝鮮戦争後の軍事停戦体制を恒久的な平和体制に転換することに尽きる」とし、「その理由が何であれ、現状変更の意志が強いトランプ政権期に、平和体制への転換を可能にする機会の扉を開かなければならない」と述べた。トランプ氏の「システム破壊」の意志が、逆説的に朝鮮半島の平和の種を含んでいる可能性があるという指摘だ。「トランプ1期目」を相手にした文在寅(ムン・ジェイン)政権の中心的な関係者は「トランプ氏は自身が望むものを得られるのであれば、他の問題には相対的に無関心・寛大な傾向がある」とし、「韓国が『払わざるをえないもの』と『必ず勝ち取らなければならないもの』を分けて、戦略的に解決していかなければならない」と述べた。その根本的な基準は「国益」と米国に対しての自律性の拡大だ。これと関連して、米国が防衛費分担金の引き上げと韓米FTAの再協議をするよう圧力をかけてきた場合は、これを戦時作戦統制権の転換問題と結びつけてアプローチすべきだという指摘が多い。さらに、軍事主権を制約してきた韓米ミサイル指針の射程距離や弾頭重量制限を歴代政権が執拗な交渉で2021年5月に終了させたように、長期的には韓国の濃縮・再処理の権利を制限した韓米原子力協力協定を改正しなければならないという主張もある。

 何より、多くの専門家は「『略奪的取引主義』を前面に出すトランプ氏を韓国が効果的に相手にするためには、国民の圧倒的支持を得る民主政権の構成が先決課題」だと口をそろえた。

イ・ジェフン先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/1176838.html韓国語原文入力:2025-01-08 07:39
訳M.S

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