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ハン・ガンさん、ノーベル賞受賞演説「すべての小説が愛に向かっていた」

登録:2024-12-10 12:09 修正:2024-12-10 15:19
7日(現地時間)、ノーベル文学賞受賞者のハン・ガンさんがスウェーデン・アカデミーで「光と糸」と題する講演を行った=ストックホルム/ロイター・聯合ニュース

「愛とはどこにあるのだろう

 トクントクンと打つ私の胸の中にある

 愛とは何だろう

 私たちの胸と胸の間をつなぐ金の糸だ」

 数百人もの聴衆が見守るなか、作家のハン・ガンさんは8歳だった1979年4月に書いた詩を静かに朗読した。ノーベル文学賞受賞を記念しスウェーデン・アカデミーで7日(現地時間)に開かれたハン・ガンさんの演説タイトルは、「光と糸」。幼年期、光州(クァンジュ)に住んでいたハン・ガンさんは、もうすぐソウルに引っ越すことを知り、ノートや問題集や日記帳に書きなぐった詩を集めて「詩集」を作った。「その8歳の子どもが使ったいくつかの単語が、いまの私とつながっていると感じた」。作家はそう語った。

ハン・ガンさんが7日(現地時間)、スウェーデン・アカデミーでノーベル文学賞受賞記念演説を行った。今年10月にノーベル賞受賞者を発表したノーベル賞終身委員長のマッツ・マルムさん(左)とハン・ガンさん(右)=ストックホルム/AP・聯合ニュース

 この日のハン・ガンさんの演説は、ひと月前からチケットが売り切れになるほど人気を集めた。スウェーデン・アカデミーとノーベル委員会、出版界の関係者、在住韓国人、ストックホルムの市民など、200人余りが訪れた。気温は氷点下だったが、演説の行われたグランドホールの外にはハン・ガンさんを待つ人も多かった。遅れて到着したため演説会場に入れなかった韓国人の親子は地団太を踏み、その場を離れられずにいた。ハン・ガンさんが席につくと、スウェーデンのチェリスト、クリシャン・ラーションが演奏するバッハの無伴奏チェロ組曲第5番ハ短調がグランドホールに響いた。

 演奏が終わると、演台に立ったハン・ガンさんは、「光と糸」と題する文章を韓国語で読み上げていった。

 1993年に作家になってから31年たった今日に至るまでの間に執筆した長編小説『菜食主義者』、『風が吹く、行け』、『ギリシャ語の時間』、『少年が来る』、『別れを告げない』を挙げ、これらを書きながら向き合った問いとは何だったのかを語った。

7日(現地時間)、ハン・ガンさんのノーベル文学賞受賞記念演説が行われたスウェーデン・アカデミーに置かれたハン・ガンさんの作品=ボリビアのジャーナリスト、ハビエル・クルーア(Javier Clure)氏提供//ハンギョレ新聞社

 長編小説を書くことは「さまざまな問いに耐えながら生きること」だと述べた。「完成まで短くても1年、長くは7年もかかる長編小説は、私の個人的な人生のかなりの期間と入れ替えている」とし、「私には、まさにその点が良かった。そうして入れ替えても良いと決心するくらい重要で切実な問いの中に入り込み、そこに佇むことができるということ」と語った。

 特に光州抗争を扱った『少年が来る』と、済州4・3事件を扱った『別れを告げない』を書きながら抱いてきた問いを紹介することに講演の多くの時間を割いた。2011年の『ギリシャ語の時間』の発表まで、作家は主に個人に向けられた暴力とその内面を掘り下げ、人間らしい生き方と命の意味を問いかけた。『ギリシャ語の時間』を書いた後は「生き方を抱きしめる、まぶしいくらい明るい小説」を書こうと努めたが、そうすることはできなかったと語った。12歳の頃、本棚に逆さに差し込まれていた「光州写真集」を偶然発見した時に抱いた問いと、再び向き合ったのだ。写真集には、クーデターを起こした全斗煥(チョン・ドゥファン)新軍部に抵抗して残酷に殺された市民や学生たちの写真、そして、けがをした人々を助けようと献血をするために病院の前に並んでいる人々の写真が収められていた。

 切実な問いの末にハン・ガンさんが立ち戻ったところは、45年前、子どもの頃の彼女が「愛とはどこにあるのだろう、愛とは何だろう」と問い、答えた詩だった。子どもだったハン・ガンさんは、愛は「私の心臓」という個人的な場所にあり、愛は「私たちの胸と胸の間をつなぐ金の糸」だと答えた。

 作家は『少年が来る』を出版した後、小説を読んで苦痛を感じた読者を見て、彼らの苦痛は自分が小説を書きながら感じた苦痛と「つながって」いたと語った。『別れを告げない』の登場人物「ジョンシム」を見つめ「どれほど愛せば私たちは最後に人間として残るのだろうか」と問いかけた。この問いの末に、自分のすべての小説が「いつも愛に向かっていたのではないだろうか。それが私の生きてきた中で一番古く根源的な倍音だったのではないだろうか」という新たな問いを投げかけた。

7日(現地時間)、スウェーデン・アカデミーで行われるハン・ガンさんの演説を聞くために会場に入る人々の様子=チャン・イェジ特派員//ハンギョレ新聞社
ストックホルム/チャン・イェジ特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/international/europe/1171652.html韓国語原文入力:2024-12-08 21:40
訳C.M

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