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行事の度に娘を同行させる金正恩委員長の「思惑」とは(2)

登録:2024-02-13 06:19 修正:2024-02-18 15:29
「後継」のためか、それとも「未来世代」の象徴か
写真6:2023年11月30日、金正恩朝鮮労働党総書記が娘のジュエさんとともに朝鮮人民軍第1空軍師団飛行連隊を訪問し、飛行士たちの「デモ飛行」を見守った。ジュエさんが金総書記よりも中央側の前に立った写真の構図が注目に値する/朝鮮中央通信・聯合ニュース

(1から続く)

「後継者」金正日と金正恩の先例は

 しかし、ジュエさんを金正恩(キム・ジョンウン)総書記の後継者とみるには根拠がない、あるいは根拠が足りないという意見も依然として根強い。このような反論の最も強力な根拠は、金総書記とジュエさんの年齢だ。統一部の北朝鮮情報ポータルによると、金総書記は1984年1月8日生まれで、今年40歳だ。韓国の国家情報院は、ジュエさんが2013年生まれだと国会に報告した(2022年11月22日情報委)。まだ小学生の年齢だ。権力の属性からして、後継を論じる時期ではないという意見が多い。

 「1984年生まれの金正恩と2013年生まれのキム・ジュエ」の組み合わせの政治的含意を、3代にわたる北朝鮮の「権力世襲」の先例に照らして考えてみることもできる。北朝鮮の初代最高権力者である金日成(キム・イルソン)主席は1912年4月15日生まれだ。金主席の息子で2代目の最高権力者である金正日(キム・ジョンイル)国防委員長は1942年2月16日生まれ。金正日は20代前半だった1964年6月、労働党組織指導部指導員として党職を始め、30代前半だった1974年2月、労働党中央委第5期第8回全員会議で後継者に確定し、30代後半だった1980年10月の労働党第6回大会で後継者として発表された。労働党第6回大会で金日成主席は「党と革命の将来の運命を左右する根本問題が輝かしく解決された」という発言で「権力世襲」を公表した。

 3代目の最高権力者である金正恩は20代半ばの2010年9月28日、労働党第3回代表者会で労働党中央軍事委副委員長となり、「金正日総書記の後継者」として姿を現した。「労働新聞」2010年9月30日付の1面に、父親の金正日国防委員長の隣に座った息子の金正恩の写真が初めて公開された。その数日後、ヤン・ヒョンソプ最高人民会議常任委副委員長はAP通信の映像系列会社「APTN」とのインタビューで、「今や私たちは青年大将の金正恩同志に仕える栄誉を得ることになった」という発言で、「後継者の金正恩」の存在を外部に公表した。2010年以前に金正恩氏が労働党で職責を持っていたかどうかは、これまで確認された事項がない。

 金正日国防委員長と金正恩総書記の先例に照らしてみると、ジュエさんが後継者かどうかを考えるには、彼女の年齢が低すぎる。

 問題なのは年齢だけではない。北朝鮮の最高権力の継承は本質的に「血統中心の世襲」だ。だが、権力継承と関連し、北朝鮮側はこれまで「血筋」より「能力」を前面に掲げてきた。いわゆる「後継者論」だ。後継者は「首領に対する忠実性」がなければならず、「思想理論の大家」であり、「新世代の人物」でなければならない。この論理からすると、「能力の検証」が欠かせない。金正日国防委員長が1960年代半ばから労働党で経歴を積み、金正恩総書記が2004年7月11日に軍部隊が管轄する新倉(シンチャン)養魚場を現地指導したという事後報道が出たのもそのためだ。ところが、ジュエさんが「能力」を発揮したという北朝鮮メディアの報道はまだない。

キム・ジュエは「未来世代の象徴」か

 「年齢」と「能力検証」の問題以外にも、今のところジュエさんを後継者とみることは難しいという意見の根拠はさらにある。金総書記とジュエさんが朝鮮人民軍第1空軍師団飛行連隊を訪問した写真(2023年11月30日)と「新年慶祝大公演」(2024年1月1日)関連の朝鮮中央テレビの画面がそれだ。飛行連隊訪問当時、ジュエさんが中央の最前列に、金総書記がその後に相対的に小さく映った写真が労働新聞に載せられた(写真6)。ジュエさんが金総書記よりも重要な人物のように見えるこの構図は、北朝鮮メディアが最高権力者の写真を扱う際に絶対に避けなければならない禁止線を越えた可能性がある点で、注目に値する。朝鮮中央テレビの新年慶祝大公演の放送画面には、夫人のリ・ソルジュ女史とキム・ドクフン内閣首相らが明るく笑って拍手する風景とともに、金総書記がジュエさんの頬にキスをする場面が映っている(写真7)。

 金総秘書が公開的に溺愛を表現し、自身よりジュエさんをより重要であるかのように演出された写真の公開を認めたとしても、そこから「後継者キム・ジュエ」を読み取ることは難しいという指摘が少なくない。古今東西を問わず権力の歴史で後継者が現在の最高権力より先に出ることも、最高権力者が公的な場で後継者に個人感情を表わすこともタブーに近いという理由からだ。

 金総書記が溺愛ぶりと配慮でジュエさんにスポットライトを当てる背景には、最高統治者として「未来世代」に対する特別な関心を「キム・ジュエ」という象徴を通じて強調しようとする政治戦略があると、多くの元政府高官たちが指摘する。

写真7:金正恩朝鮮労働党総書記が2024年1月1日、平壌の「5月1日競技場」で行われた「新年慶祝大公演」に出席し、娘のジュエさんの頬にキスをしている=朝鮮中央テレビの放送画面よりキャプチャー/聯合ニュース

金総書記のジュエに対する愛の意味とは

 韓国大統領府と国情院で北朝鮮情報を扱った経験豊富なある元政府高官は、ジュエさんの問題についてこのような話をした。「ジュエさんが後継者かどうか、誰も断定できない。ただし、前近代王朝時代に多数の王子たちが帝王学と呼ばれるような特別な教育を受けたように、ジュエさんもそのような特別な教育を受けていると暫定的に判断することはできるだろう。王子全員が世子(王位後継者)になるわけではないように、まだジュエさんの未来が決まったと断定する理由はないだろう」

 ただし、この元高官は「金総書記のジュエさんに対する溺愛ぶりから我々が注目すべきなのは、今すぐ決める必要のない後継者かどうかの問題ではない」と語った。そして「金正恩総書記が目に入れても痛くないほどの娘がいるのに、韓国を先制攻撃するなどの無謀な全面戦争に出る可能性がどれほどあると思うか」と問い返した。外交安保分野の元高官も「金正恩総書記が2022年11月18日の『火星砲17型』の発射実験現場にジュエさんを連れてきたのは、北朝鮮の核は未来世代の安全のためだという、言い換えれば攻撃用ではなく抑止用というシグナルの発信を狙った政治戦略によるものとみる余地がある」と指摘した。

 ジュエさんが「後継者」であろうとなかろうと、金総書記が10代初めのジュエさんを重要な政治・軍事行事に頻繁に連れて行く姿は、多くの人々にとっては見慣れない、異様な行動かもしれない。しかし、北朝鮮の最高権力者父娘のこの問題的な行動は、豊富な政治・外交安保的シグナルを発信しており、無視することはできない。

イ・ジェフン先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/1127966.html韓国語原文入力:2024-02-12
訳H.J

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