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一人暮らしの老人に生活苦より辛い“死後”

登録:2014-11-03 22:59 修正:2014-11-04 12:07
ヨム氏の位牌の前に、彼が亡くなる前日に「食べたい」と言った海苔巻きとタイ焼きが供えられている。「ナヌムとナヌム」提供//ハンギョレ新聞社

 先月29日に自ら命を絶ったチェ氏(68)は、死後に苦労をかけることになる人々にクッパ(肉汁飯)の一杯でも食べて欲しいと10万ウォン(1ウォンは約0.1円)を遺した。 身の回りに遺体を引き取る人もいないので、見ず知らずの誰かに迷惑をかけるのを戸惑ったチェ氏は、葬儀費用と思われる約100万ウォンも遺していた。一人暮らしの老人たちにとって‘死後’は現世での生活苦より恐ろしいことかもしれない。 生活保護受給者が亡くなった時、政府が支援する葬祭費は75万ウォンに過ぎない。死に装束の準備すらできない。 「死後福祉」においても死角地帯に置かれた人々の現実とその事情を調べる。

IMFの余波(訳注:1997年アジア通貨危機)で生活苦を体験したヨム氏
野宿と考試院(広さ2畳ほどの簡易宿泊施設)を転々とした末に孤独な死
連絡を絶った家族たちは遺体の引き渡しを放棄し
野宿人・活動家たちが最期を見送り

 祭壇の遺影の前にはアルミホイルに包まれた海苔巻き一本とタイ焼きが置かれていた。 彼が最後に食べたいと言った食べ物だと言う。 そしてミカンとチジミが数切れ。

 10月26日に亡くなったヨム氏(71)の葬儀室に彼と面識のあるホームレスと社会団体活動家などが訪ねてきた。「お兄さん、安らかなところに行ってください」。ソウル鍾閣(チョンガク)駅でヨム氏と一緒に段ボールを敷いて横になったホームレスのチョン氏が泣き続けていた。 チョン氏は訪ねてくる人のない寂しい葬儀室の線香が途絶えないように夜通し他のホームレスたちと共に棺を守っていた。

 一人暮らしのホームレス ヨム氏の葬儀室はソウル恩平(ウンピョン)区のソウル市立西北病院葬儀場に整えられた。 無縁故者葬儀支援団体の支援がなければヨム氏も他の無縁故者の大部分がそうであるように、そのまま急いで火葬場へ向かっただろう。 それでも三日葬は想像さえできない。 ヨム氏は葬儀室が整えられた翌日に出棺を終え、ソウル市立の火葬場で一握りの灰に変わった。

 ベトナム戦争に参戦したというヨム氏は、若い時期に建設ブームが起きたサウジアラビアに行き、工事用トラックを運転し金を稼いだという。 韓国に戻って家も建て大型トラックも買ったが、1997年末の外国為替危機で揺らいだ暮らしは2005年に交通事故で腰をケガしてから元に戻しようがなくなったという。 1億ウォンに及ぶ車両割賦代金を払えず、ついに2007年からは鍾閣駅で暮らし始めた。

 ヨム氏はホームレスの支援団体である「ホームレス行動」の支援を受けて、6年前から考試院(最貧層の集合住居)での生活を始めた。 世帯道具と言えば1人用のベッドとテレビが全てであった。家賃23万ウォンの狭い部屋で暮した彼は、総合病院と療養病院を転々としてついに息をひきとった。 彼が亡くなって残した全財産は、考試院の総務に預けてあった20万ウォンとカバンの中にあった千ウォン札一枚が全てだった。 常に持ち歩いていたカバンから小さな証明写真が見つかり、なんとか霊前写真を作ることができた。

 30年近く連絡が途切れた家族は、ヨム氏の遺体の引き渡しを放棄した。 同僚のホームレスたちと無縁故者・生活保護受給者の葬儀の面倒をみる市民団体「ナヌムとナヌム」が喪主を代行した。

縁故遺体処理。//ハンギョレ新聞社

無縁故者の遺体は‘最後の盃’も受けられずに直ちに火葬
昨年亡くなった922人の無縁故遺体処理
市民団体の支援を受ければそれでも二日葬が行われる

一人暮らしの老人たち「葬儀が心配だ」
市民団体に結縁葬儀申請が増える
「死後まで心配しなければならない社会」

 ホームレス行動のパク・サラ活動家(30)は「最期が孤独でなくてまだしもだった」と話した。

 パク活動家の言葉のように、ヨム氏の事例は“それなりに幸い”だった。 昨年ヨム氏のように無縁故遺体として“処理”された人は922人に達する。 葬儀を行う血縁が誰もいなかったり、家族がいても葬儀費用などを賄えず遺体の引き渡しを拒否された人々だ。

 ソウル市では昨年285人が無縁故遺体として処理された。 ソウル市は毎年入札で無縁故遺体葬儀業者を選定する。 ヨム氏もやはり身の回りに彼を記憶している人々がいなかったなら葬儀手続きなしで業者を通じて直ちに火葬された可能性が高い。 1978年から40年近く無縁故遺体の葬儀を引き受けているある業者関係者は「家族の暮らしむきが苦しくて遺体の引き渡しを放棄するケースをたくさん見た。 残念で仕方がない」と話した。

 一人暮らしの老人たちには現世の苦痛も辛いが、死んでもゆっくり横たわれない現実に、“死後”は考えることさえ嫌なことだと言う。 人は誰でも平等に死ぬというけれど、彼らにとってそれは夢の世界だ。“平等”のそばにも行けなかった身は死ぬ時も同じだ。

 そのため生前に“結縁葬儀”の申請をする人々もいる。 ソウル地域の賃貸住宅に暮すある老女は、最近になり社会福祉士を通じて自分が死んだら葬儀を代わりに行ってほしいとナヌムとナヌム側に要請した。 娘がアメリカに移民したというこの老女は、「私が死んだら誰が葬儀を行うか心配だ」と話した。 78歳の母親と一緒に暮しているという重症身体障害者の娘(50)も「お母さんが亡くなったら葬儀をちゃんとできるか、とても心配だ」として、母親の葬儀を代わりに行って欲しいと要請したという。

 ナヌムとナヌムのパク・ジンオク事務局長は3日「結縁葬儀を申し込む方々の中には、私たちの団体が本当に存在するのか確認したり、本人が死ぬ前に団体がなくなってしまうのではないのかと心配する方が多い」と話した。 彼は「死後まで心配しなければならない時代だ。韓国社会がせめて最期の道だけでも孤独でないようにして欲しい」と話した。

パク・テウ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/662731.html 韓国語原文入力:2014/11/03 20:09
訳J.S(2603字)

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