ソウル中区(チュング)に住むイ・ガンシク(71)さんにとって、中区にある国立中央医療院は「信じて行くことができる数少ない病院」だ。「3年前にある大学病院に入院していました。医療給付の受給者なので診療費はあまりかからなかったが、病室料や食事代がとてもたくさんかかりました。月に40万ウォンにもならない基礎生活受給費で生活していますが、その時一週間入院してかかったお金が100万ウォンを超えました。」イさんは「他の総合病院は身が縮む思い」と述べた。
昨年イさんは肺炎で国立中央医療院に入院した。「施設は私立病院に負けないのに、お金は一文も追加で出すことはありませんでした。 私のような庶民でもちゃんと治療してくれる病院なので気が楽で信頼感がもてました。」 イさんの“信頼できる”国立中央医療院が2018年、ソウル瑞草区(ソチョグ)院趾洞(ウォンジドン)に移転する。 葬儀施設であるソウル追慕公園近くの敷地で、瑞草区の南の端にある。イさんのような医療給付受給者たちはもちろん、国立中央医療院のある中区の住民たちも移転自体に反対だ。
国立中央医療院は1958年中区乙支路(ウルチロ)6街に建てられて以来、ソウル都心で公共医療機関の役割を果してきた。国立中央医療院の利用患者の68%が医療給付の受給者やホームレス、障害者、65歳以上の老人など医療脆弱階層である。 利用患者の35%を占める中区・鍾路区(チョンノグ)の反対が特に激しい。チェ・チャンシク中区長とキム・ヨンジョン鍾路区長は10日、声明を出して「適当な対策もなしに国立中央医療院を移転すれば、江北圏の住民と脆弱階層の生命を脅かす医療の死角地帯をつくることになる」と主張した。
国立中央医療院の立場や役割についてのまともな検討もなしに移転が行なわれようとしているという指摘も出ている。2001年に国立中央医療院の移転論議が始まった時までは“公共医療”が核心的キーワードだったが、現在は移転そのものだけに焦点が当てられている。チョン・ジェス保健医療労組政策局長は「病院移転に関する論議は当初公共医療機能復元を目標に成されていたのが、今は枝葉の移転問題のみが議論されている」と批判した。
国立中央医療院の移転は瑞草区に対する補償の側面まである。ソウル市と保健福祉部は2003年に瑞草区院趾洞のソウル追慕公園設立に当たり、反対の声を鎮めるために国立中央医療院の移転を掲げた。チン・イクチョル瑞草区長は<ハンギョレ>との通話で「追慕公園建設の時、ソウル市と保健福祉部が約束した病院移転の約束は、守られねばならない。追慕公園のために住宅価格の下落を被った住民は、国立中央医療院移転の知らせに喜んでいる」と述べた。
国立中央医療院の公共医療機能が縮小されるだろうという懸念も少なくない。イ・サング<福祉国家ソサエティー>運営委員長は「大型病院が立ち並んで3000以上の病床のある瑞草区では、効率性を追求する民間病院の構造に従うようになる恐れがある」と述べた。
専門家たちは、政府とソウル市が対案を講じなければならないと主張している。チョン・ヒョンジュン<無償医療運動本部>政策委員長は「適正な診療を気安く受けられる空間が絶対的に不足している状況で、貧民層と高齢層が密集した都心部地域に公共病院は必ず必要だ。早急に対案を講じなければならない」と述べた。
これと関連してソウル市保健医療政策課の関係者は「現在の病院敷地に地域公共医療院を立てれば良いという立場だが、具体的な論議はしていない」と述べた。保健福祉部は「重症外傷センター、感染病センターなどを作るために、救急ヘリが出入りしやすく、京釜高速道路と隣接した瑞草区に移転するしかない。地域住民のための医療はソウル市立病院など地域公共医療機関が担うべきだ」と明らかにした。
バン・ジュンホ記者 whorun@hani.co.kr