自民党の各派閥における、パーティ券収入のキックバックによる裏金づくりの問題について、検察庁は最終的な判断を下した。政治資金規正法では、政治資金収支報告書に収支を記載しなかったり、虚偽の記載をしたりすることは犯罪と規定され、有罪となれば議員の資格、あるいは選挙に立候補する資格を失う。東京地方検察庁特捜部は、裏金が4千万円を超えた議員について政治資金規正法違反で起訴し、それ以下の議員については刑事責任を問わないこととした。逮捕あるいは起訴されたのは、3名の国会議員にとどまる。
そして、派閥による議員へのキックバックを報告書に記載しなかったことについては、派閥の会長や事務総長を務めた議員の責任は不問とされ、派閥の事務職員である会計責任者が起訴された。検察は、会計責任者と派閥の幹部だった国会議員の間の共謀を立証できないことを、政治家の責任を問えないことの理由としている。
検察の結論が出た後に、疑惑を持たれた政治家の一部は裏金の金額を発表し、経理はすべて秘書に任せていたと責任転嫁の発言をした。たとえば、経済産業大臣や自民党の政務調査会長を務めた萩生田光一議員は、2018年から2022年までの5年間で政治資金収支報告書に不記載の裏金額が計2728万円にのぼることを明らかにしつつ、事務所スタッフが管理していたとし、数千万円に上る資金の流入を政治家がまったく知らず、秘書が勝手に管理したと釈明した。自分は悪くないという言い訳で国民を欺こうとする卑怯な政治家が大勢いることに、愕然とする。
4300万円の裏金を作って起訴され、議員辞職を表明した谷川弥一氏は、裏金は支持者との人間関係を強化するために飲食に使ったと述べた。他の政治家も同様だろう。政治家が得る政治資金が一般の所得と異なって非課税とされるのは、政治家による政策研究や広報が民主政治の健全な運営に不可欠であり、優遇に値するという理念に基づいている。応援してくれる支持者や地方議員の供応のために政治資金を使うとなれば、その金は政治家個人の所得とみなさざるを得ない。だとすると、政治家の裏金作りは脱税ということになる。日本では2月から3月が所得税の申告の時期で、納税者は必要経費を認めてもらうために領収書を揃えて説明しなければならない。国会議員だけが私的な飲食や遊興について非課税とされることに、国民の怒りは高まっている。しかし、税務当局には今回の事件を脱税として摘発する動きはない。日本では政治家の特権がまかり通っていると言うしかない。
さすがに、岸田文雄首相も政治とカネをめぐる悪習を断つための動きを起こさざるを得なくなり、1月19日、自らが会長を務めてきた岸田派(宏池会)を解散することを表明した。派閥単位で資金パーティを開催し、裏金を作ったことから、派閥が金権政治の元凶だというわけである。これにならって、安倍派、二階派も解散を決定した。しかし、自民党は過去、大きな腐敗事件を起こした時に、何度か派閥の解消を宣言したことがある。しかし、政策集団は悪くないという口実で、派閥は復活して現在に至っている。
自民党が国会で圧倒的多数を持っている状況では、自民党総裁のポストは日本の首相と同じである。したがって、首相を目指す政治家は総裁選挙を戦う。その際には、有力な政治家は自分を応援してくれる議員を確保しなければならないので、派閥を形成することは必然である。自民党の歴史をふまえれば、今回の派閥解消宣言を信用することはできない。
そもそも、派閥が悪いと言ってその解消を宣伝するのは、問題のすり替えである。検察が刑事責任を問わないならば、国民が次の選挙で政治的責任を追及するしかない。裏金問題の全体像を知ることは、政治責任を問うために不可欠なのである。裏金を何に使ったのか、政治家には説明する義務がある。
自民党は確かに大きな危機に直面している。しかし、この危機も次第に忘れられ、自民党は何もなかったような顔をして政権を担い続けるという予感もする。岸田内閣支持率も自民党支持率も低下しているのに、野党の支持率はまったく上がらない。最近行われた中規模の都市の市長選挙でも、自民党が推薦する候補が苦戦しながらも勝利している。つまり、国民は岸田内閣と自民党を批判しながら、別の選択肢を選ぶ動きを起こしていない。それこそが日本の民主主義にとっての危機である。
山口二郎|法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)