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[山口二郎コラム] 岸田政権の危機

登録:2023-11-20 09:29 修正:2023-11-20 09:43
岸田文雄首相=首相官邸ホームページより//ハンギョレ新聞社

 この2、3か月の間、新聞社、テレビ局の世論調査のたびに岸田文雄政権に対する支持率が低下している。11月の調査では、どの調査でも支持率が20%台、不支持率が50%以上になっている。岸田首相は9月に大臣、副大臣、政務官を入れ替えたが、新任の副大臣、政務官が選挙違反、税金滞納などの不祥事で相次いで辞任に追い込まれている。

 岸田首相の不人気の理由は、不祥事だけではない。そもそも政策面で信頼、あるいは期待されていないことが最大の原因である。世界的なインフレに加えて円安が進むことで、日本では物価上昇が目立っている。賃金は上昇していないので、実質賃金は低下を続けている。円安は輸出企業の収益を増やし、儲けている大企業と生活苦にあえぐ労働者、年金生活者の不均衡が大きくなっている。20代、30代の若年層の支持がきわめて低いことは、そうした現状に対する不満の現れである。

 日本人が直面しているのは一時的な物価高ではなく、国の衰退という歴史的難問である。今年、日本のGDPはドイツに追い越され、世界4位になると予想されている。今年生まれる子どもの数は80万人をはるかに下回り、戦後最少を記録することが確実である。もちろん物価高は重要な問題だが、目先の減税で何とかなるようなものではないことを国民は理解している。

 現在の岸田政権の苦境は、長期政権のあとに政治的混乱が起こるという過去のパターンの再現である。1980年代後半の中曽根康弘政権のあと、2000年代後半の小泉純一郎政権のあと、自民党政権は続いたが、短命な首相が続いた。そして、2012年末から8年にわたって政権を担った安倍晋三首相が退陣した後、岸田首相は二人目の首相だが、政権は危機に直面している。

 長期政権のあとに短命政権が続き、政治が不安定になるというのは偶然ではない。長期政権は首相が成功したから可能になった。しかし、政権が長期継続すれば、腐敗も起こるし、新しい課題に対して政策の変化が必要になるのであり、偉大な前任者を継承するだけでは、次の首相は成功できない。

 安倍政権の長期化はアベノミクスと言われる経済政策の成果のおかげであった。それは異次元金融緩和という奇策によって円安を招き、一時的に輸出企業をもうけさせた、あくまで目先の刺激策であった。この十年の間、日本には新しい産業は育たず、財政赤字は増加の一途である。安倍政権がつくり出したひずみが、いま顕在化しているということもできる。

 岸田首相は、就任直後、アベノミクスからの転換を意図して、新しい資本主義というスローガンを唱えた。しかし、具体的な政策はなかった。物価高にもかかわらず、日本銀行は金融緩和を継続すると言っている。政府は、今の日本がインフレなのかデフレなのかわかっていないようである。逆に、安倍首相がしたくてもできなかったことを実現することに、自らの存在意義を見出している。防衛費倍増、原発再稼働、憲法改正への取り組みなどがその代表例である。結局、安倍政権の欠点を否定できないのであれば、岸田政権も短命に終わるだろう。

 問題は、国民の多くが岸田首相を見放しているにもかかわらず、政権交代の機運が全く現れないことである。イギリスでは、保守党のスナク政権の支持が低下しており、来年の総選挙で労働党が政権交代を起こすことが確実な情勢である。日本でも、2000年代後半のポスト小泉の時期には、民主党が最大野党として存在感を持っており、政権の選択肢となり得た。今の日本では、野党が分裂し、政権を担う軸となる政党が存在しない。国民の政治的不満は、結局自民党内での首相の入れ替わりによって吸収されることになる。それでは、今までの政策を根本的に転換することにはつながらない。真の政策刷新のためには旧来の政治を否定することが不可欠であり、そのためにはやはり野党が政権交代の準備をしなければならないのである。

//ハンギョレ新聞社

山口二郎|法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)

韓国語原文入力: https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1116920.html

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