本文に移動

[コラム]脆弱な韓国大統領の危険な「疾走」

登録:2023-09-20 06:34 修正:2023-09-27 08:06
尹錫悦大統領が8月15日、ソウル西大門区梨花女子大学大講堂で開かれた第78周年光復節記念式典で演説している=大統領室写真記者団//ハンギョレ新聞社

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が本人の前言と矛盾した行動を示す時、「尹敵尹(尹錫悦の敵は尹錫悦自身)」という指摘がブーメランとなって返ってくる。

 文在寅(ムン・ジェイン)政権の新型コロナウイルス対策に対して「国民をいかに守るのかに政府の存在理由がある」(2021年8月)と言っていたが、梨泰院(イテウォン)転倒惨事、五松(オソン)地下道浸水惨事では国民が「国はどこにあったのか」を問い返すことになった。「参謀の後ろに隠れず、政府の過ちは率直に告白する」(2022年3月)、「言論の自由を損ねようとする試みに強く反対する」(2022年2月)という約束がどのように変質したかは、皆の知るところだ。語録が作られるほど多様な「尹敵尹」の中で、最も圧倒的なのは「帝王的大統領制」に対する言及であろう。「これまで歴代大統領が見せてきた帝王的イメージから抜け出す」(2022年3月)として、大統領室の移転を「帝王的」に強行した後、尹大統領は自分の政治的決断を主な意思決定の優先順位に置き、自ら「君主」の仲間入りを果たした。特に今年8月15日の光復節記念演説と特別恩赦などは、尹大統領がこれまで垣間見せてきた「帝王的世界観」の総合版ともいえる。

 歴代大統領たちは、光復節記念演説を国政全般に対する自分の考えを国民に知らせる機会として活用してきた。日本に対するメッセージと南北和解、国民統合などを強調し、未来に向けたビジョンを示す場と捉えたのだ。ところが、尹大統領の就任後2回目の光復節記念演説は、このような慣行を越えるものだった。歴史問題を認めない日本を「普遍的価値を共有するパートナー」に引き上げる一方、演説のかなりの部分を野党など批判勢力に向けた宣戦布告に当てた。自分に同意しない人々を「共産全体主義に盲従し、ねつ造と扇動で世論を歪曲するとともに、社会を乱す反国家勢力」と規定し、彼らが「民主主義運動家、人権活動家、革新主義の行動家になりすまし、虚偽の扇動と野卑で破倫的な工作」を日常的に行ってきたと述べた。「共産全体主義」を盲従する運動家とそうでない人々を鑑別する方法は何なのか。「反国家勢力」がそれほど横行していたとするならば、政権について1年が過ぎたにもかかわらずなぜ放って置いたのか、納得がいかない。ただ言うことを聞かない、すなわち「上命下服」しない批判勢力に向けた敵意心をあらわにしただけだ。

 光復節を控えて断行した特別恩赦は、三権分立の原則まで踏みにじったと指摘されている。わずか3カ月前に最高裁で有罪判決を受けたキム・テウ前江西区庁長を「公益通報者」という名目で赦免・復権させた。裁判所は一貫して彼の無差別な暴露に公益性がないと判断したが、簡単に無視された。セウォル号遺族を不法に調査・監視したソ・ガンウォン元機務司令官など元国軍機務司令部幹部6人も全員赦恩赦の対象になった。セウォル号遺族の調査と監視に対し、政権レベルで免罪符を与えたのも同然だ。恩赦権は大統領の固有権限だが、「法のもとの平等」の原則を破るだけに、常に議論の的になってきた。しかし、尹大統領の今回の恩赦は通常掲げる国民統合の大義名分も見当たらないだけでなく、尹大統領が自ら選択的に「罪を許す」審判者をもって自任している形だ。光復節の恩赦の性格が「封建君主の施恵」(クォン・チルスン共に民主党首席報道担当)という批判が出てくるのは当然だ。

 尹大統領は就任15カ月間、「孤独な決断」を主な統治手段として活用してきた。大統領の一言で国家の重大事が決まり、執行される方式だ。しかし、尹大統領の即興的な判断で政策に混乱が生じたことが何度もあり、巨大野党を敵に回したため、立法による政策の推進は不可能だ。自分だけの議題を設定して成果を出した経験がなく、支持基盤も明確ではない。客観的にみて「脆弱な」大統領といえる。にもかかわらず、歴史の前で責任を取るという空虚な発言を掲げ、立法権と司法権の統制まで図り、国民の共感が欠かせない外交・安全保障の領域まで決断の領域に含めてしまった。新冷戦の尖兵と化した尹大統領の「ワンマンショー」に国家の運命がかかっている。

 尹大統領は自分に批判的な人々を反国家勢力と呼び、超法規的な「決断の政治」で大韓民国を窮地に追い込んでいる。光復節記念演説で、「共産全体主義」という新造語を作り出したが、国民はむしろ「2023スカウトジャンボリー」の収拾過程を見て、国家主義の退行的残像を目撃した。政権2年目の権力に酔いしれて意気揚々としているが、やがて時は流れ、任期は終わる。その時、歴史の前でどのように責任を取るのか、非常に気になる。

//ハンギョレ新聞社
チェ・ヘジョン|論説委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1104995.html韓国語原文入力:2023-08-21 02:41
訳H.J

関連記事