言論に対する支援政策は、各国の憲法、歴史、政治システム、社会的合意体系、文化などの差を反映するため異なる形式と内容にならざるをえない。そのような違いにもかかわらず、欧州国家の言論支援政策が韓国に与える含意はかなり大きい。欧州の言論支援政策の基底には、言論が民主主義を維持、発展させるうえで必ず必要な言論の役割に対する信頼と期待があるためだ。
すでに10年も前になったが、2008年にフランスのサルコジ大統領は危機に処した新聞産業を生かすという目標で、150人あまりのさまざまな利害関係者が参加した「印刷メディア大討論会」(Etats-generaux)を発足させた。約3カ月にかけて進行された大討論会の結果は、文化コミュニケーション部長官に緑書(Green Paper)として提出された。多様な政策提案が盛り込まれたこの報告書には「国家が介入しなければならない義務を持つのは、言論が一般的な商品とは異なる性格の商品であるため」であり、「民主主義の最も大切な資産の一つである独立的で透明で多元的な印刷メディアを守るために、すべての人の特別な参加が要求される」と明記されている。
デンマークは2014年以後、言論に対する支援政策の方向を流通支援から生産支援に変えた。現在のように競争が熾烈なのは、言論生態系では非商業的なニュースや情報は過小供給される市場の失敗が必然的に発生するので、民主主義の維持に必ず必要なコンテンツは一種の“公共財(public goods)”として政府が支援すべきだということが方向転換の論理だ。デンマークの言論振興基金が“民主主義基金”に膨らんだのもこうした理由からだ。
韓国言論振興財団の調査によれば、2015年基準でフランスの言論支援基金の規模は韓国ウォンで1700億ウォン(約170億円)に達する。スウェーデンは692億ウォン(70億円)、デンマークは687億(70億円)規模だ。人口や経済規模が異なる国々なので、基金の規模を直接比較することは難しいが、570万人の人口を持つデンマークのGDPを考慮して、同じ比率を韓国に適用すれば、その規模は3000億ウォン(約300億円)程度と推算される。韓国の言論振興基金は、地域新聞発展基金まで合わせても400億ウォン(約40億円)に満たない。その上、国庫出資がされず基金は枯渇状態と言える。
文在寅(ムン・ジェイン)政府の1年で、言論の自由指数が昨年より20段階上昇した。政府は今や“自由”で“信頼”される言論のための支援政策を新たに考え設計しなければならない。言論支援政策の目標は、死にゆく報道機関を生かすところにあるのではなく、民主主義を発展させるところにあり、言論は民主主義の最も大切な資産であるからだ。
キム・ヨンジュ韓国言論振興財団責任研究委員