5月25日、欧州の首脳たちはNATO(北大西洋条約機構)本部ビルの竣工式を兼ねて9・11テロを追悼しNATO憲章5条を想起する記念碑の除幕式を準備した。記念碑は、ニューヨークの世界貿易センターの残骸で作られた。この行事は、トランプ米大統領の初のヨーロッパ訪問のために企画された行事であった。NATO憲章5条は「一国に対する軍事攻撃は、加盟国全体に対する侵攻と見なし、直ちに個別の加盟国または集団で対応する」ということが骨子だ。憲章5条は、同盟体としてのNATOのアイデンティティである集団防衛を規定する。歴代の米国大統領は、憲章5条を遵守するという公約をしてきた。学界ではNATOを大西洋安保共同体と規定したりもする。冷戦期間には発動されなかったこの憲章5条が、2001年に米国が9・11テロ攻撃を受けた時に史上初めて発動された。
この記念式でトランプ大統領は、NATO憲章5条を遵守するという発言をしなかった。それだけでなく「NATO加盟国が国内総生産(GDP)対比2%の国防費を支出するという合意を破っている」として「自分たちが当然に出さなければならない防衛費を出していない」と警告した彼は「米国は味方に立った友人を決して見捨てない」というあいまいな言葉を残した。非公開会議でNATO加盟国は、2024年までGDPの2%まで国防費を増額することを約束したが、トランプ大統領はNATO憲章5条の公約に言及しなかったという。これを見ていた欧州の首脳たちの心中は如何ばかりだったろうか。
28日、ドイツのミュンヘンのある政党行事で行われたドイツのメルケル首相の演説は、きわめて意味深長だ。「私たちが互いに完全に頼った時代は、ある面で終わったと言えます。この数日間、それを経験しました。私たちは欧州人として、私たちの未来と運命のために戦わなければならないということを知らなければなりません。そして、それが私が皆さんと共にしたいことです」。トランプ大統領に対する強い失望がにじみ出た発言だ。一方で、欧州の安保に欧州自身が責任を負わなければならないという警戒心を国民に告げる発言だ。パリ気候協約に反対し、「米国とドイツの間の貿易赤字はドイツのせいでありドイツは悪い」と話したトランプ大統領に対するメルケル首相の堂々たる評価でもある。「アメリカファースト」(アメリカ第一)に象徴されるトランプ大統領の米国一方主義に対する苦悩に充ちた欧州の自覚でもある。
3週間後には文在寅(ムン・ジェイン)大統領はトランプ大統領と向き合うことになる。北朝鮮の核とミサイル、在韓米軍へのTHAAD配備と中国の経済報復、韓米自由貿易協定、北朝鮮制裁と南北関係改善。私たちの外交安保懸案のうち、そのいずれも米国の影響力から自由なものはない。私たちには米国が大切だ。それが厳重な現実だ。トランプ大統領が韓国に要求するものは多いだろう。華麗な修辞の後には多くの請求書が出てくるだろう。
そうであればあるほど、堂々とした協力外交が必要だ。メルケル首相の発言は、大韓民国の安保は私たち自らが責任を負わなければならないという教訓を伝える。米国との緊密な協力は維持するものの、大韓民国の絶対的利益である朝鮮半島の平和と安定、そして国民の安全のために大韓民国政府が朝鮮半島の平和秩序を主導するという責任意識を明確にしなければならない。韓米同盟は、私たちの安保の重要な資産だ。その資産を私たちの利益に合うように活用できる時、韓米同盟は一層強固なものになるだろう。
文在寅政府は、ろうそく市民が登場させた政権だ。国民の平和への熱望が大韓民国の外交安保の重要な資産だ。それがすなわちピープルパワーだ。堂々と国益を守る外交安保が大韓民国の重要な資産であることを忘れてはならない。