韓国電力は良い職場だ。 職員の平均年俸は7000万~8000万ウォン。億台の年俸者も少なくないという。 新入社員はほとんど名門大を優秀な成績で卒業した人材で満たされるという。 国家の基幹産業を掌握するエリートという自負心が漲っているだろう。
去る2月の1ヶ月間 、密陽(ミリャン)送電塔反対の闘いに加わっているお年寄りたちはソウル市三成洞(サムソンドン)の韓国電力本社前でリレー断食座り込みをした。 そして一日3度のピケットデモもした。 “神の職場”に出入りする職員の身だしなみは皆りっぱに見えた。
対策委事務局長である私はピケットを張りながら「韓国電力よ、あなた方が行なったことの意味を自ら悟るよう望む」という文句を入れてみた。 それは私がこの闘いで得た怒りを集約した表現であり、彼らに伝える私の良心の呼び掛けでもあったのだ。
この8年間、密陽(ミリャン)では多くのことがあった。 韓国電力は使い慣れたマニュアル通りにやったのだろう。 少数の村の有力者に接触して、補償金で懐柔して、送電線路建設に絶対的な権能を付与する現行の法制度の威力をそれとなくちらつかせながら、反対闘争の先頭に立つ住民には告訴・告発と損賠仮差押さえ措置でへたり込ませる、そのような使い慣れた経路を踏襲しただろう。 彼らはそのような形で柔らかい味噌玉を踏むように、この国のすべての山川に送電塔をつき立ててきたのだ。
しかし韓国電力は大企業の前では顔ががらりと変わる。 産業用電力を灯油価格の半値水準で供給し、途方もない恩恵を与える。 やはり大企業である民間発電会社が生産した電力を同じ時間帯の最も高い価格で購入して天文学的な利益を抱かせ、自らは毎年兆単位の赤字をかぶっている。 韓国電力はこの損害分を埋め合わせるために他の“糊口”を探さなければならなかった。 そこで、電力損失が最も少ない76万5000ボルトの超高圧送電塔が、村の前を、農地の真上を、学校のそばを通る最短路線をひいたのだろう。 韓国電力が目をつけた最終的な“糊口”はまさにこの田舎の老人たちだったのだ。
74才の老人が自分の身体を燃やして訴えようとするとは、どんなに無念だったのだろうか。 37度の猛暑に倒れて運ばれることを繰り返しながらも老人たちが山に上がってフォークレーンの前に横たわって阻もうとするとは、どんなに切迫した状況だったのだろうか。補償金問題で村がずたずたに裂けて仇同士のように争っている。 現場で住民たちと共に闘った僧侶が性暴行と違わないぞっとするような暴行と侮辱を受けた。 私たちが想像できるすべての地獄図がこの闘いの中にある。
私は去る2月の1ヶ月間、韓国電力の職員がただの一名でも私たちの座り込みテントを訪ねてくることを待っていた。 私はその一人の訪問ででも韓国電力を許したかった。 しかしとうとう一人も訪ねてこなかったし、1ヶ月間ずっと一日四時間立っていたお年寄りに「ご苦労さまです」という挨拶の一言も伝えられなかった。
これらすべてのことは全部誤った法体系、悪魔的なシステムのせいか? したがって社長、長官、議員、大統領の責任か? 私は韓国電力職員に職場を捨てろと主張しているわけではない。 法とシステムをそのように信頼するならば、この国に構築された民主主義的法制度とシステムが開いておいた小さな空間ででも、担当者である自分の良心の声を発してほしいと言っているだけだ。
現在、密陽(ミリャン)送電塔の闘いは解決法に関する技術的な議論に移っている。 電気工学について何も知らない私たちはみんな、彼ら韓国電力のエンジニアたちの一歩も引かない説明の前にまばたきばかりしながら座っている。 彼らの主張は印刷したように全く同じだ。 「金が多くかかる。時間が長くかかる。他に方法はない。」 あまりにも長いことだまされてきた住民たちは誰もそんな話を信じない。 果たして、方法はないのだろうか。 私は今良心に訴えているのだ。
イ・ゲサム『今日の教育』編集委員