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[ハン・インソプ コラム] 大統領の廉恥

登録:2012-11-13 22:54 修正:2012-11-13 22:58
ハン・インソプ ソウル大法学専門大学院教授

 李明博大統領一家の内谷洞(ネゴクトン)私邸敷地買い入れ疑惑を巡る特検捜査が終末に達した。 特検の意志は明確だが、大統領府側の捜査妨害が暗礁として作用した。 被疑者側が捜査に消極的であったり回避的であることはある意味当然だろう。 しかしその主人公が大統領ならば次元が違う。

 特検は大統領府警護処に対する押収捜索令状を裁判所から発給されたが、警護処の事実上の拒否のせいでほとんど成果を上げることができないことが分かった。 大統領府側は刑事訴訟法第110条(軍事上秘密押収)、第111条(公務上秘密と押収)を挙げて押収捜索を拒否したという。 しかし内谷洞不正が何か "軍事上" あるいは "公務上" の秘密であるはずがない。 公権力の私的乱用は初めから軍事上目的でもなく公務でもない。 また、この条項には「国家の重大な利益を害する場合を除いては」押収捜索を拒否できないと明示されている。

 わが国の憲法上、裁判官の令状によらずしては押収捜索できないとしたことは、言い換えれば裁判官の令状さえあればどこにでも入れるということを意味してもいる。 雨風をしのげないような小屋でも令状なしでは押しかけられないが、令状があれば王宮であれ要塞であれ誰の制止も受けずに通過できるべきだ。 裁判官の令状を阻止する公権力は憲法的正当性を持ちえない。 令状を容易に無力化してしまうことは、法治主義を押し倒す反憲法的処置に相違ない。 就任宣誓のとおり「憲法を遵守」しなければならない大統領は、令状主義を「厳粛に」守らなければならない無限責務を負う。

 より一層深刻な問題は、特検の捜査期間延長申請を大統領が拒否したことだ。 特検の短い活動期間に主要当事者は外遊に出かけたり捜査に協力しなかった。 疑惑の中心に立った大統領は正式に調査もできない状態だ。 それにもかかわらず捜査期間延長申請を拒否したことは、積極的で露骨な捜査妨害に他ならない。 拒否理由の中の圧巻は」捜査が十分にさなれた」という大統領府公報首席の発表だ。 こうした言葉で弁解できると考える姿勢は、実に驚嘆に値する。

 大統領はこの問題に対して心情穏やかなはずがない。 捜査期間延長要請を拒否するのは人間的情理から見ればあまりにも当然だ。 しかし公人中の公人である大統領の拒否権行使は廉恥の限界を越えたことだ。

 ルインスキーとのセックススキャンダルを巡って特別検事の捜査を受けたクリントン米国大統領は、途方もない恥さらしにもかかわらず、捜査には応じたし、捜査内容がインターネットに公開される不名誉を甘受しなければならなかった。 しかし特別検事の捜査を最後に彼はセックススキャンダルから抜け出すことができた。 海外の例を引くまでもなく、盧武鉉大統領は大統領競選資金疑惑に対して検察の無制限捜査を保障した。 国民検事という愛称が生まれるほど加熱された捜査の結果、彼は弾劾の危機まで追い詰められた。 このように大統領ならば自分に向けられた捜査の刃を納得されない方法で回避してはならない。

 特検の活動期限が終わったからとすべての疑惑が覆い隠せるわけでもない。 現大統領の残余任期はわずか3ヶ月余りだ。 権力を利用して犯罪を犯しても、更に加えて事実上の捜査妨害までしたという疑いが残っていれば、退任後には捜査を再開しなければならないという世論が起こるだろう。 その時には特検ではなくとも検察が乗り出すだろう。 今の検察は知っていながら覆い隠したという政治的偏向性批判を受けているが、政治的影響力が消える近い将来、捜査を再開する可能性は誰にも否定できない。

 大統領は法の前にいかなる特権を認められる地位にない。 在職中には刑事起訴を受けないという不訴追特権があるのみだ。 その特権は大統領が在職中には捜査対象になりえないということでは決してない。 さらに大統領には国民の法遵守を先導する責務がある。 法秩序守護を誰より頻繁に言及した大統領でもある。 自身は裁判官が発行した令状の執行を妨害し、最短期の捜査以外の追加捜査を拒否しておきながら、国民には法遵守を語るならば、誰が頷くだろうか。 大統領の権限がいくら大きくても、自身に向けられた捜査を阻むために使える権限は一つもない。

ハン・インソプ ソウル大法学専門大学院教授

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/560462.html 韓国語原文入力:2012/11/13 20:53
訳J.S(1906字)

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