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■ ロシアの開戦1年の大攻勢は戦況を変えるか
この戦争は重要な「分岐点」を迎えつつある。開戦1年を迎える頃に、ロシアの大攻勢が始まるとみられるからだ。北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は13日、「ロシアはさらに多くの軍、さらに多くの兵器、さらに多くの戦力を投入している」とし、大攻勢はすでに始まっていると述べた。同氏は、ロシアは「膨大な損失を出しながらさらに多くの戦力を投入し、ウクライナ人を圧迫」しているとし、「我々は補給競争に突入した。ロシア軍が主導権を握る前に弾薬、燃料、部品などの主要な軍事力をウクライナに届けなければならない」と語った。
米国のロイド・オースティン国防長官は、ウクライナの反撃を強調した。同氏は14日、ベルギーのブリュッセルで「ウクライナ国防連絡グループ(UDCG)」の会議を主宰した後、記者会見を行い「ウクライナが春のある時点で(ロシアに対して)空爆を開始すると予想する」と述べた。米国はそれに向けて高機動ロケット砲システム(HIMARS)と装甲車に続き、エイブラムス(米国)やレオパルト2(ドイツ)などの主力戦車を支援する決定を下した。米国防総省は3日、射程距離が150キロに達する誘導爆弾「地上発射型小直径爆弾(GLSDB)」を含め、ウクライナに対するさらなる兵器支援計画を発表した。
結局、ウクライナがロシアの大攻勢を防ぐとともに反撃に打って出るためには、西欧の迅速な軍事支援が必要だ。ウクライナのオリハ・ステファニシナ副首相は11日の英フィナンシャル・タイムズとの会見で、「最も差し迫っているのは、我々が受け取った新たな軍事装備の稼動に直ちに必要な弾薬と砲弾」だとし、「我々には必要な分量の弾薬がない」と述べた。ウクライナは現在、1日に5千発以上の砲弾を発射しているが、これは欧州の小国が平時に1年で消耗する量だ。
対するロシアは、西側の全面制裁にもかかわらず、今も戦争遂行能力を保有している。国際通貨基金(IMF)は、1月30日に発表した「世界経済見通し改訂版」で、昨年の成長率が-2.2%と推定されるロシア経済は、2023年には0.3%、2024年には2.1%とプラス成長に転ずると分析している。
ブルームバーグ経済研究所の1月の分析によれば、ロシアはウラル産原油の価格が50ドル以下に下落せず「3年間は戦争を無難に遂行できるもの」と見通された。ロシアは西側の金融制裁でドル・ユーロ建て国外資産が全面凍結されたが、制裁から自由な3100億中国人民元(450億ドル)や、金などの1200億ドルの保有高がある。ブルームバーグは、ウラル産原油の価格が輸出上限価格である1バレル当たり60ドルを維持すれば、ロシアの人民元保有高はむしろ増えると予測する。
■ 大攻勢後、交渉は始まるのか
昨年末以降、交渉の必要性を強調してきた米国のマーク・ミリー統合参謀本部議長は16日のフィナンシャル・タイムズとの会見で、「ロシアが軍事的手段によって政治的目的を達成することはほとんど不可能であり、ウクライナを倒すこともできないだろう」としつつ、「ウクライナも今年中にロシア軍をすべての占領地から追い出すことは非常に難しい」と述べた。同氏は、外交の時間は過ぎ去ったのかと問われ、「春が始まるまでに数週間が残っているが、その窓は開いたり閉じたりする。適切な時期に機会がある」と述べた。両者とも相手を完全に倒すことはできないため妥協が必要だ、という主張だ。
だが同氏は、双方とも「自らの目的に非常に執着しているため」交渉に積極的ではないと述べた。米国の著名なジャーナリストのデイビッド・イグネイシャス氏も、1月23日に「ワシントン・ポスト」のコラムで、米国のトニー・ブリンケン国務長官の終戦構想を具体的に示した。すなわち、ウクライナはNATOへの加盟ではなく国防力の強化によって安全保障を達成するとともに、ロシアのクリミア半島領有権を認めるべきだという案だ。
ゼレンスキー大統領の顧問を務めたオレクシー・アレストビッチ氏は、現地メディア「ストラナ」との6日の会見で、「状況を反転させ占領地を取り戻すには、NATOの兵器で武装した約40万人の訓練された兵士が必要だ」とし、それを「近いうちに準備することはできない」と述べた。同氏は代案として「南北朝鮮式シナリオ」に言及しつつ、「安全保障を受けた『韓国(韓国式ウクライナ)』を樹立すること」が目標となりうると述べた。厳しい現実を認めて領土分断を受け入れたうえで、残った地域で韓国のように米国の安保の傘の下に入る強い国を作るという「現実論」だ。
ロシア国家安全保障会議のドミトリー・メドベージェフ副議長は7日、自身のテレグラムのメッセージで「『韓国式シナリオ』は(西側の)希望であることは明白だ」としつつも「これは現場で展開される諸現実を認める第一歩」だと語った。しかしゼレンスキー大統領は、16日の英BBCとのインタビューで、領土をかけた妥協の可能性を改めて否定した。
結局のところ、近いうちに始まるであろう大攻勢の結果が、双方の現実認識に決定的な影響を及ぼすものとみられる。それでも両者が現実を受け入れなければ、この戦争は今よりさらに長い長期戦を経て「凍結された戦争」へと帰結するだろう。その結果はウクライナの「事実上の分断」であり、最悪の場合は停戦合意なき「不安な紛争の持続」となる恐れがある。