「挑発的な言葉より真摯で包容的な態度でよく知られる人気グループの悪意のない発言と見られた …ところが、中国の一部ネットユーザーは朝鮮戦争の犠牲者に対する防弾少年団(BTS)の追悼を侮辱と捉えた」
米ニューヨークタイムズ紙は12日付(現地時間)の電子版でこう報じた。BTSの発言に対する中国のネットユーザーらの集団反発と、中国に進出した一部国内企業の対応が物議を醸しており、関連報道が相次いでいる。これには二つの軸がある。日増しに激しくなる中国の愛国主義と、巨大な中国市場を逃したくない企業の打算だ。
今回の事件の発端は、米「コリア・ソサエティ」が授与するヴァン・フリート賞を受賞したBTSのリーダー、キム・ナムジュン(RM)さんが7日に開かれたオンライン授賞式で行った発言だ。彼は朝鮮戦争について言及し、「両国(韓米)が共有した苦痛の歴史と数多くの犠牲を記憶する」と述べた。
朝鮮戦争を停止した停戦協定の締結当事者でもある中国も、当時多くの犠牲を払った。先週末の間、一部の中国のネットユーザーが、中国版ツイッターに当たる微博(Weibo)などを通じて、BTSを非難する書き込みを始めた。「BTSは好きだが、自分が中国人だという点も忘れてはいない」という穏健な反応から、「中国でお金を稼ぎながら中国人の感情を逆なでした。中国市場から追い出さなければならない」という激昂した反応までさまざまだった。
民族主義をあおる「環球時報」まで論議に加わり、事態が大きくなり始めた。ついにBTSがモデルを務める韓国企業に対する不買運動まで取りざたされるようになった。高高度防衛ミサイル(THAAD)配備問題の苦い教訓を思い出す必要もなかった。中国に進出した外国企業なら当然知っている「愛国主義リスク」を避けなければならなかった。
サムスンは、攻撃の的となったスマートフォン(ギャラクシーS20プラス)やイヤホン(ギャラクシーバーズプラス)のBTS限定版関連掲示物を、自社のホームページや中国のオンラインショッピングモールから削除した。これらの製品はすでに7月初めに発売され、販売はほぼ終わっていた。中国消費者の“感情”を考慮し、先手を打ったわけだ。現代自動車とスポーツ衣類ブランドのフィラなども似たような措置を取った。
中国のネットユーザーの突然のBTS非難と中国に進出した韓国企業の対応は見慣れた風景だ。中国の経済力が大きくなるにつれて、若者層を中心に愛国主義も盛り上がっている。特にチベットやウイグル、台湾、香港問題など、中国が「主権」と「内政」に属すると主張する問題に対しては対応がさらに激しくなる。最近の事例を見るとこれがよく分かる。
「あらゆる角度から状況をみれば、もっと開放的になるだろう」
2018年2月初め、ドイツの自動車メーカー「メルセデス・ベンツ」は、海岸を背景に立っている白い乗用車と共に、こんな文字が書かれた写真をソーシャルメディア「インスタグラム」に掲載した。ところが、予想外の地域で、予想外の反応が出た。インスタグラムが遮断された中国で、ネットユーザーを中心に不買運動の兆しが見え始めた。引用した内容がチベット亡命政府を率いるダライ・ラマの言葉だったからだ。
「できるだけ迅速に当該掲示物を削除したが、中国人の感情を傷つけた点について心からお詫び申し上げたい」。ベンツは直ちに微博に謝罪文を掲載した。親会社であるダイムラーの世界売上で中国市場が占める割合が、すでに10%を超えた時点だった。
香港で国家安全維持法反対デモが激しかった昨年も同様の事件が相次いだ。スポーツブランド「ナイキ」は昨年6月、日本デザイナーの高橋盾が制作した限定版ブランド「UNDERCOVER(アンダーカバー)」の販売を突然中止した。高橋氏が「中国送還反対」というスローガンが書かれた香港デモ隊の写真をソーシャルメディアに掲載し、中国ネットユーザーが不買運動に乗り出すと圧力をかけたためだ。
同年7月にはファッションブランド「ベルサーチ」が新発売のTシャツの販売を急遽中止し、謝罪文を掲示した。香港とマカオを独立国家のように表記したTシャツのデザインが問題だった。ドルチェ・アンド・ガッバーナをはじめ、コーチ、ジバンシーなども類似した理由で謝罪文を発表した。これに先立ち、米国のアパレルメーカーのギャップも2018年5月、Tシャツのデザインで使用した中国地図に台湾やチベット、南シナ海などがきちんと表記されていなかったという抗議を受け、公式謝罪を行った。
標的になるのは“商品”だけではない。JYPの人気ガールズグループ、TWICEの台湾人メンバーのツウィは2016年、あるバラエティー番組で太極旗と台湾国旗を一緒に振った。その直後、中国人が特に敏感な「一つの中国」に触れたという理由でツウィが出演する広告の製品不買運動など、激しい非難にさらされた。結局、JYPを率いるパク・ジニョン代表プロデューサーが謝罪文を発表し、ツウィがユーチューブに「中国人であることをいつも誇りに思う」という謝罪映像を掲載しなければならなかった。先日、歌手イ・ヒョリもバラエティー番組で毛沢東を連想させる「マオ」を言及し、中国人から悪質なコメントが殺到した。
大衆文化だけでなく、スポーツも中国のファンを意識せざるを得なくなっている。バスケットボールファンが6億人をはるかに越える中国で、米プロバスケットボール(NBA)の人気は想像を絶するものだ。米プロバスケットボールチームのユニフォームを着た若者たちを街でよく見かけるほどだ。しかし、中国中央放送(CCTV)は昨年10月、米プロバスケットボール開幕試合の生中継をしなかった。ヒューストン・ロケッツのダリル・モリ団長が同月初め、「香港のデモを支持する」とツイッターに書き込んだのが問題になった。ヒューストン・ロケッツと米プロバスケットボール協会は中国側に謝罪をしたが、今度は米国国内の非難世論に悩まされるようになった。
専門家らは若者層を中心にした中国の愛国主義の起源として1989年を挙げる。同年6月、天安門民主化デモが鎮圧され、ソ連が解体し、冷戦も幕を閉じた。改革・開放10年目を迎えた中国指導部としては、歴史と思想に基づいた「愛国教育」を強調すべき時期だった。今の中国の20~30代は強化された愛国教育を受けた世代だ。
成長の背景も考える必要がある。愛国主義の主役である中国の10代と20代はそれぞれ1990年代と2000年代に生まれ、成長した。経済的困難もなく比較的豊かな環境で成長したこれらの世代は、以前の世代よりも自国に対する自負心と排他的民族主義の性向が強い。特に、彼らの学生時代は習近平主席政権後、愛国教育が一層強化された時期と重なる。
いわゆる「防火長城」で外部世界と断絶したインターネット環境も状況に油を注いでいる。王亞秋ヒューマン・ライツ・ウォッチ中国担当研究員は先月1日、「ポリティコ」に寄稿した文で「インターネット環境には慣れているが、VPNなしには主要外国サイトにアクセスできない現実が中国の若者層の極端な愛国主義性向を煽っている」と指摘した。