[イシュー追跡] 白血病で亡くなったパク・ジヨン氏の遺族たちに労災認定放棄の代価として数億ウォン提案(4186字)
治療費借金に悩んだ家族たちを誘惑
ホ・ジェヒョン
三星電子が半導体工場と液晶表示装置(LCD)工場などで仕事をし白血病などの疾患に罹り、労働災害認定手続きを踏んだ労働者たちに巨額の合意金を条件に労災放棄を説得しているという主張が相次いでいる。病により亡くなった労働者の遺族や闘病中の労働者と家族たちは 「三星が数億ウォンの金額を提示し労災申請を放棄し市民団体と接触するなと懐柔した」と証言した。
←故パク・ジヨン氏は三星電子半導体工場労働者たちの労働災害疑惑を世の中に知らせた象徴的な人物だった。彼女の葬儀場で嗚咽する母親。三星電子名義で4億ウォンが入金された通帳(小さい写真)。<ハンギョレ21>リュ・ウジョン記者
パク・ジヨン氏 亡くなる直前に合意提案
三星電子半導体工場で仕事をし2007年に白血病に罹り、去る3月31日に亡くなったパク・ジヨン氏の母親 ファン・某氏は7月5日、記者と会い「4月初めに三星から4億ウォン余りの合意金を受け取り、去る5月中旬に労災認定訴訟をあきらめた」 と打ち明けた。ファン氏は「三星が民主労総などと接触せず市民団体関係者が訪ねてこないよう引っ越せと言った」 と付け加えた( "遺骨 撒く直前に入金された" 記事参照)。
パク氏の家族の話を総合すれば、三星電子はパク・ジヨン氏が息をひきとる直前、パク氏の家族に秘密裏に合意提案をしてきた。 パク氏は2009年に勤労福祉公団が労災不承認判定を下した後、行政訴訟を進行中だった。「三星電子が提示した合意金は4億ウォン余りの水準だった。純粋合意金3億8千万ウォン(保険金5千万ウォン含む)と葬儀費用2千万余ウォンを合わせた金額だ。三星は合意条件として ‘散在訴訟を放棄し市民団体と接触するな’ と要求した。」
パク氏の家族は深い苦悶に陥った。パク氏の2年9ヶ月にわたる治療費だけで1億ウォンを越え、5千万ウォンも借金をした状態だった。パク氏家族は結局、三星電子の金を受け取り労災訴訟を取り下げることに決めた。お金は4月2日、パク氏の遺骨が束草近海にまかれる1時間前に母親 ファン氏の農協口座に入ってきた。通帳差出人欄には ‘三星電子’ と鮮明に打たれていた。
パク・ジヨン氏の死は消えかかっていた三星電子半導体工場白血病論難に再度、油を注いだ。パク氏死亡の便りに世論は煮え立った。 三星半導体工場で危険な化学物質を使い、化学物質露出事故も頻繁だったという三星電子元職員たちの暴露も相次いだ。三星電子は4月15日、異例的に工場内部を公開し鎮火に出たが、もどってきたものはヨーロッパと米国機関投資家らの集団真相究明要求だった(<ハンギョレ21> 812号 イシュー追跡 ‘外国投資家ら三星半導体白血病真相究明要求’ 参照)。
ファン氏は、三星電子から金を受け取ったことを後になって後悔した。驚きと恐れの中で合意をした後、訴訟を取り下げ報道機関と接触も絶ったが「(治療費でできた)借金をすべて返したら空しくて、ジヨンに申し訳ない思いを振り切ることができなかったため」 だった。ファン氏は「うちの娘の死を土に埋めてしまおうとして金を与えるのです。三星電子が道義的な責任を負うならば、慰労金を払うのは当然だが、なぜ労災訴訟を取り下げさせ市民団体との接触を出来ないようにするのですか。貧しい人々の弱点を金で買収し真実を隠そうとするものです。三星に利用されました。」
三星電子がパク氏の家族ばかりでなく、闘病中の労働者と遺族を対象に労災申請を放棄するように説得したという証言も相次いでいる。脳腫瘍で闘病中のハン・ヘギョン(31・三星電子LCD工場勤務)氏と2009年に縱隔洞癌で亡くなったヨン・チェウク(三星電子LCD工場勤務)氏の家族は取材陣にこういう事実を具体的に証言した。
三星電子半導体温陽工場で仕事をして急性白血病を病んでいるキム・オクイ(35)氏も三星電子から似た懐柔を受けたと分かった。
金で労働災害を覆い隠す三星?
生きて放置、死んで懐柔
故ヨン・チェウク氏の家族を三星電子関係者が訪ねてきたのは、勤労福祉公団で産業災害不承認が決定された去る3月中旬頃であった。ヨン氏の家族は ‘半導体労働者の健康と人権守り 四捨五入’(以下 四捨五入) と共に勤労福祉公団に再び審査請求をし労災認定の戦いを継続する予定だった。ところが三星電子環境安全グループ関係者が訪ねてきて、労災認定を助けると提案した。1億2千万ウォンという合意金も提示した。しかしヨン氏の家族は「四捨五入と共に審査請求をする」として断った。訪ねてきた三星電子関係者も「四捨五入と共にやるなら、お金を渡すことはできない」と言い切った。
ヨン氏の弟(妹)、ヨン・ミジョン(27)氏は、当時、三星電子関係者との対話を思い起こして「今、考えても情けない」と舌打ちした。「三星電子関係者に ‘なぜ突然お金をくれようとするのか’ と尋ねたところ、‘三星は超一流企業だから誠意の表示をしようと思う’ と言ったのです。あきれてその時から三星電子関係者の電話は最初から受けませんでした。”
ハン・ヘギョン氏の母親 キム・シニョ(54)氏も、6月初めに同様な提案を受けた。名前も知らない三星電子人事課職員が電話をかけてきて合意を提案した。キム氏は生活状況が非常に苦しい。脳腫瘍闘病中の娘 ハン氏の治療費を用意するために、先日、1700万ウォンの貸切住宅から500万ウォンの家賃部屋に引っ越した。小さな食堂も処分した。今は収入がない。三星の合意提案は甘い誘惑だった。だが、キム氏は三星の提案を断った。キム氏は「危険な作業環境に私の娘を放置しておいて、社会的に問題になると、これをお金で覆い隠そうとする三星の誤った慣行を正さなければならない」と話した。
←三星電子側が ‘四捨五入’ のような市民団体と連帯しないことを合意金の条件として提示したと遺族たちは明らかにした。2008年3月、三星電子半導体工場で仕事をし亡くなったファン・ユミ氏の1周期追慕写真等がソウル、瑞草洞の三星本館前にかかっている。ハンギョレ パク・ジョンシク記者
三星電子は最近あふれているこうした主張を否認している。故パク・ジヨン氏の母親 ファン氏と接触した人事チーム関係者は<ハンギョレ>のインタビュー要請に 「困る」 として拒否した。代わりに三星電子広報室は<ハンギョレ>に送った電子メールの回答で “闘病中であるとか、亡くなった患者の家族に会ったことは事実だが、生計費支援を議論しただけで労災申請を放棄しろという話しはしなかったし、最近重症疾患者の支援基準を確立し追加支援を行っている」と説明した。
三星側 “生計費支援だけ議論した”
だが、三星電子関係者に会った遺族の考えは違う。ファン氏は「私が訴訟取り下げを迷うとすぐに、三星は一ヶ月余りの間しつこく電話をしてきた」とし「三星が嘘をついている」と繰り返し主張した。ヨン・チェウク氏の弟(妹)ミジョン氏はこのように話す。「三星が労災申請をしてはいけないと直接言いはしないです。だが、市民団体を通じて労災申請をすれば慰労金を上げられないと話すことが何を意味しますか?」
記者は三星関係者が被害者らに会って、どんな話を交わすのかある事例を直接調べた。三星電子で10年間余りエンジニアとして仕事をし稀貴病であるウェゲナー肉芽腫に罹り、5月初めに退職したキム・ギヨン前三星電子課長は、4月1日会社人事課のイ・某課長らに会った。キム氏は京畿,龍仁市の自宅に訪ねてきたイ課長に労災申請に協力してくれるようお願いした。しかし反応は好意的ではなかった。この日、キム氏と三星関係者が交わした対話が録音された資料を聞いてみれば、三星関係者はキム氏に希望退職を薦めた後 「慰労金を受け取る条件として民・刑事・行政訴訟をするな」と話した。 キム氏はこれに対し「労災が認められても病気に対する会社の責任をこれ以上 問わないということは不当な要求」と批判した。
勝訴確率による命の値段?
遺族の証言と種々の状況を調べれば、三星電子が被害者と家族を金で買収し労災申請や訴訟を直間接的に統制しようとしたという非難は避け難く見える。三星電子が労働者の労災認定可否に神経を尖らせる理由は何だろうか?
四捨五入は三星が産業災害を隠すために ‘姑息な手’ を弄していると判断している。イ・ジョンナン労務士は「三星が表面では工場の安全性を確信していると話しながらも、背後から合意を勧めるのは産業災害を隠すための試み」と話した。キム・ウンギ民主労総労働安全局長も故パク・ジヨン氏の行政訴訟を取り下げさせたことは三星電子の緻密な戦略だと指摘する。2009年5月、労災不認定判定を受けた6人中、パク・ジヨン氏は3対2の意見で不認定判定を受けた。このためにパク氏が行政訴訟で勝つ確率が最も高かったし、三星電子がパク氏の訴訟を取り下げることに一層の精魂を込めたという推定が可能だということだ。キム局長は「パク氏が労災を認められることになれば他の被害労働者たちの労災認定にも影響を及ぼすことを三星が考慮したのだろう」と話した。
現在、三星電子工場で仕事をして白血病などの癌に罹った後、四捨五入と共に労災認定手続きを踏んでいる労働者は計12人だ。この内、4人とパク・ジヨン氏の家族が三星の懐柔を受けたと四捨五入は把握している。四捨五入は7月12日、ソウル、大林洞の公共輸送労組事務室で三星から労災放棄提案を受けた被害者家族たちと記者会見を行い、白血病論難と関連した公開討論会を三星電子に提案する計画だ。
ホ・ジェヒョン記者,ハンギョレ報道映像チーム catalunia@hani.co.kr
原文: http://h21.hani.co.kr/arti/special/special_general/27712.html 訳J.S