本文に移動

[ハンギョレ21 2010.06.18第815号] "魚雷爆発物質はない"

イ・スンホン バージニア大教授 実験結果 船体・魚雷 吸着物質 信憑性失う…(3984字)
爆発の時‘アルミニウム100% 酸化’不可能

ハ・オヨン

‘天安艦報告書の決定的証拠は捏造された?’
天安艦、民・軍合同調査団(以下 合調団)が発表した‘魚雷の爆発による沈没’の科学的証拠の一つは天安艦船体と魚雷プロペラに吸着した物質に対する分析結果であった。しかし、この分析結果に‘科学的疑問’を提起する実験結果が現れ注目される。

魚雷のアルミニウム成分が吸着した?

←"魚雷爆発物質はない" . コンピュータグラフィック/チャン・グァンソク

合調団の発表内容を再検討する実験を進めてきたイ・スンホン米国バージニア大教授(物理学)は6月10日<ハンギョレ21>取材陣と会い「合調団が出した吸着物質を爆発の結果とは見られない」という結論に至ったとし、自身の実験結果を公開した。イ教授は現在、日本,東京大に招へい教授として来ており、固体物理学分野で活発な活動をしている。彼は「現在の意見と事実が絡まった天安艦事件で、真実を明らかにすることのできる最も普遍的な検証方式は実験とその結果のデータ」とし合調団の資料と学界で公認された実験を通じ天安艦沈没原因に対する科学的な検討がなされなければなければならないと強調した。

イ教授の実験結果を理解するためには先に合調団の発表内容からじっくり立ち帰って見る必要がある。合調団は去る5月20日の調査結果発表で3種類の吸着物質に対する分析データを魚雷の爆発があったという証拠として提示した。すなわち△艦首・艦尾・煙突など天安艦船体から発見された吸着物質(以下‘船体物質’) △決定的証拠物だと合調団自ら表現する魚雷部品の吸着物質(以下‘魚雷物質’) △自らの水中爆発実験後に検出された物質(以下‘実験物質’)の3種類を合調団内部でエネルギー分光器とエックス線回折機で分析した結果に対する説明を通じて、爆発物の存在を糾明することがその核心だった。特に重要なのはアルミニウムの存在だ。衝撃波とバブルジェットの効果を作り出す現存するすべての魚雷にはアルミニウムが入っているためだ。魚雷爆発の際に飛び散ったアルミニウム成分が船体と魚雷部品に吸着し、水中爆発実験でも同じ現象が確認されたということだ。当時、合調団が公開したエネルギー分光器分析グラフ(下図① グラフ参照)には全てアルミニウム成分が表示されている。

だが、もう少し精密な分析が可能なエックス線回折機による分析結果はエネルギー分光器とは異なっていた。アルミニウム成分が‘船体物質’と‘魚雷物質’からは検出されず、‘実験物質’からだけ出てきた(下図② グラフ参照)。これに対し当時、合調団は「爆発前後にのみ起きるアルミニウムの溶解と急冷却で(アルミニウムが酸化し)非結晶質アルミニウム酸化物ができたために起きる現象」として「むしろこれが船体と魚雷から出た物質が同一だということであり、魚雷が爆発したという決定的証拠」と強調した。

←①合調団エネルギー分光器分析結果②合調団エックス線回折機分析結果③イ・スンホン教授エックス線回折機分析結果(※クリックすればさらに大きく見ることができます。)

 "吸着物質 砂と塩しかありません"

どういうことだろうか? エネルギー分光器ではアルミニウムを構成成分としさえすれば、アルミニウムでもアルミニウム酸化物でも非結晶質アルミニウム酸化物でも全てアルミニウムとして測定されるが、エックス線回折機では非結晶質アルミニウム酸化物はアルミニウムとして現れない。合調団の説明は、魚雷の爆発によってアルミニウム成分が全て非結晶質アルミニウム酸化物に変わったためにエックス線回折機ではアルミニウムが検出されないのがむしろ当然だということだ。(この時、エックス線回折機による分析結果‘実験物質’ではなぜアルミニウムが検出されたかという疑問がおこるが、これについては箱記事(点線下)参照)

イ教授は以上のような合調団のデータと説明、そしてここから出てくる疑問点などを土台に実験を進めた。

まず合調団の話のとおり、爆発に伴なう高熱によって溶解と急冷却が行われる場合、アルミニウムが全て非結晶質アルミニウム酸化物に変わるかを確認するため次のような実験をした。下写真のように99.99%純度のアルミニウム試料を高熱にも溶けない試験管に入れた後、高熱に耐える針金に連結し電気炉(Furnace)に入れた。熱はアルミニウムの溶点である660度よりはるかに高い1100度まで上げた。1100度で40分程 維持した。そして針金を引き2秒以内に常温の冷水に入れ急速に冷やした後、エネルギー分光器とエックス線回折機分析を行った。ここで用いたエネルギー分光器とエックス線回折機は大慨の物理学研究所なら保有している汎用性を持った装備だ。

結果は上の②、③グラフで見るように、合調団の爆発実験から出た‘実験物質’のグラフとほとんど同様に現れた。アルミニウムが相当部分検出されたのだ。イ教授はこの結果について「高熱処理と急速冷却過程でアルミニウムは部分的にのみ酸化されることを示している」と話した。こういう結果は合調団の発表内容と真っ向から食い違う。イ教授は「合調団の発表のとおり、アルミニウムが100%酸化される確率は0%に近く、その酸化されたアルミニウムが全て非結晶質になる確率もまた、0%に近い」とし「合調団が発表したとおり全てのアルミニウムが100%非結晶質アルミニウム酸化物になる確率はないと見ても差し支えない」と話した。
 それでは合調団のエックス線回折機分析結果の値が意味することは何だろうか?

イ教授は話した。「砂と塩しかないです。爆発とは関係ない物質でしょう。」合調団が出したエックス線回折機分析結果を論理的に確かめてみれば、アルミニウム成分が当初から存在せず、爆発も起きなかったということに帰結されるほかはないという話だ。上で調べたように、アルミニウムが爆発を通じて100%酸化され非結晶質に変わることは不可能だという科学的根拠に基づく。グラフ上にはSiO2,NaClなどの成分だけが出てきたが、これは砂や塩からも検出される物質だということだ。

←天安艦の吸着物質と比較するためイ・スンホン教授が行った実験。アルミニウムを溶解と急速冷却過程を経てエネルギー分光器(⑥)とエックス線回折機(⑦)で分析結果を出した。

エネルギー分光器だけで検出された理由‘説明不能’

再び最初の質問に戻ろう。合調団のエネルギー分光器とエックス線回折機分析結果はなぜ互いに矛盾するのだろうか? イ教授の実験結果を土台に見れば、エネルギー分光器でアルミニウムが検出されればエックス線回折機でもアルミニウムが出てこなければならず、逆にエックス線回折機でアルミニウムが現れなかったとすればエネルギー分光器でもアルミニウムは検出されるべきでない。こういう矛盾に対しイ教授は「捏造の他には別に説明する方法がない。また、私が合調団の肩を持ち、もし捏造せずに合調団のデータが導き出されたと言おうとするなら0.0000001%のような不可能性を意味する確率で答える他はない」と話した。

イ教授は自身の実験結果を論文にして米国コーネル大が主管する科学論文交流サイト(www.arxiv.org)に載せた。

-----------------------------------------
合調団分析結果の矛盾

エネルギー分光-エックス線回折 結果がなぜ異なるか

天安艦 民・軍合同調査団(以下 合調団)は船体と魚雷から採取した吸着物質と自らの実験結果から出た吸着物質など3種類を分析し魚雷爆発があったことを立証しようとした。しかしこの3種類の吸着物質に対するエネルギー分光器分析とエックス線回折機の分析結果が互いに矛盾する状況に陥った。

エネルギー分光器分析では3種類の吸着物質全てからアルミニウム成分が検出されたが、エックス線回折機分析では船体と魚雷吸着物質からはアルミニウムが出てこずに爆発実験を通じて得られた吸着物質のみからアルミニウムが検出されたのだ。

国防部はこれについてエックス線回折機分析ではアルミニウム成分が出てこないことが正常だとし、爆発実験に誤りがあったと説明した。「15gの少量爆薬実験を通じて微量の吸着物だけが獲得された。付着した吸着物が少量である関係で、吸着物質だけを別に取り出しエックス線回折検査が不可解アルミニウム板材に付着した状態で検査した。(実験物質から出たアルミニウム成分は)その時に出てきたアルミニウム板材の結晶質だ。」(国防部 6月7日 報道資料)

イ・スンホン教授はこういう国防部の説明に疑問を抱く。「エックス線回折機検査を知らない誰かが出した答弁でしょう。エックス線回折機に入る物質は例外なしにガラス台の上に載せられるが(写真)アルミニウム板材が入るということ自体が話になりません。」イ教授は「もちろん合調団の立場で失言をしたと認めても、合調団の当初前提が否定されて爆発の論拠にならないことは同じこと」と話した。

国防部の説明が真実であっても‘常識外の実験’をしたことで、自らデータに対する信頼を失ってしまったという点は依然として論難の種として残る。

東京(日本)=ハ・オヨン記者 haha@hani.co.kr

原文: http://h21.hani.co.kr/arti/cover/cover_general/27543.html 訳J.S