本文に移動

[ハンギョレ21 2009.04.13第756号]特ダネ! 狂牛病 PD 結婚します

[人と社会]文化放送キム・ボスルPDが同じ時事教養局 チョ・ジュンムクPDと ‘花のように笑う日’

◇アン・スチャン記者

←4月19日結婚式を挙げるキム・ボスルPD(左側)とチョ・ジュンムクPDが汝矣島の文化放送社屋前庭に並んで立っている。 <ハンギョレ21>パク・スンファ記者

特ダネだ。ソウル中央地検刑事6部の捜査進展に決定的に役立つだろう。後からインタビュー原本を要求したりせず記事の文章一つ一つをありのままに読んでくれて良い。
名誉毀損疑惑で告発されたキム・ボスル文化放送PDが4月19日昼12時30分、ソウル K区C洞Cウェディンホールで結婚する。新郎は同じ放送会社のチョ・ジュンムクPDだ。文化放送時事教養局の初めての夫婦PDになるわけだが、このことは捜査に特段役に立たないので気を使わなくていい。

結婚式を延期するか、しないか、文化放送社屋で式を上げるか、やめるか、色々な推測があったが、新郎・新婦は予定した日に平凡なウェディンホールで百年佳約をとり結ぶことに最終決定したことを独占確認した。もし終盤に変更された場合、ソウル中央地検は「変わるりうることを知っていながら、結婚すると虚偽報道した」として<ハンギョレ21>の責任を問いたくなる筈だが、現時点で彼らのの結婚式場がCウェディンホールと報道するほどに明確な根拠があるという点には変わることがない。どうせならウェディングホールの名前をそのまま明らかにするようにと願うだろうが、いくら言論の自由に対する理解が不足した検察としても不適切な広告効果は避けるのが言論倫理という程度は知っていることと信じてみよう。正式ホール名がどうしても知りたければ記者の電子メールを検索する方法もあることを耳打ちしておく。

検察捜査のおかげで新婚旅行をあきらめたので、空港で待機する苦労をなさる必要はない。新婦に対する逮捕令状さえあれば捜索令状がなくても新郎の家を検索してもかまわないと考える奇妙な融通性をもう一度発揮するならば(検察は去る3月キムPDに対する逮捕令状だけ持ってチョPDの家を捜索した)、結婚式場で堂々と新婦を逮捕して行くはずだ。

参考にソウル,永登浦区,汝矣島洞31番地,文化放送社屋ロビーには夫妻の将来を応援する次のような横断幕が懸かっているが、新郎と新婦は毎晩この文章を読んでは結婚式強行意思を確かめ合っているという。“検察、お前らを歴史が審判するだろう。”

多数の見る目の合理性を裏切る結婚

“なぜ出てこないんだ?”足で蹴飛ばした。両手はズボンの中に入れていた。また蹴った。かっと怒鳴った。終盤の編集作業が進まないので頭にくるのは分かるけど、それでも飲み物が出てこないからと自販機を足で蹴飛ばすとは。新入PDキム・ボスルは考えた。‘あの先輩、一癖あるんだな’  8年上の先輩の彼は忌避対象だった。そうした人と結婚をすることになるほどに人生は幽玄だ。それでも疑問は去らなかった。なぜこの程度の(写真を参照)キム・ボスルPDが、こういう状態の(写真を参照)チョ・ジュンムクPDとあえて結婚しなければならないかということだ。いろいろと聞きただしたが、新婦はついに新郎の悪口を言わなかった。

「仕事をして馴染んだのでしょうね。このおじさんの性格は全部分かってます。見ること見ないこと全部見ましたよ。一緒にプログラムを作ってひどい目にあって泣いたこともあります。それでも放送が終われば ‘正常な人’ に戻ります。放送の仕事をしている時を除けば ‘人’ のように振舞ったりもします。」虐待を受けた日々は思い出せないという表情で新婦は新郎を眺める。恋愛は、そして結婚は多くの見る目の合理性を裏切る。ものさびしい二人だけの真実だ。新郎は北極でその真実の一抹を発見した。

「ドキュメンタリーを製作すると昨年北極に行ってきました。そこでは何の音もしないのです。ざぁーっと言う風の音だけです。世界中が白いですね。一日中ソリに乗って走ってもたどり着かない山が目前にあります。声なき風の音を聞いて、目の前にあるのに辿りつけない山を見ながら万年雪の上に糞をしました。世の中のすべてのことが粗雑に感じられましたよ。人生は本当に空しいと感じました。 はやく結婚して子供でも作らないとと思いました。」

彼が北極から帰ってきた昨年11月、キムPDは放送会社で座り込みをしていた。韓-米牛肉交渉と狂牛病に関する<PD手帳>報道で名誉をき損されたとしてチョン・ウンチョン前農林部長官などが検察に捜査を依頼した直後だった。粗雑な世間のことに巻きこまれた後輩PDを見て、煩瑣な人生を熟知してしまった先輩PDは‘二心’を抱いた。その時の感情について新郎は「哀れでならなく見えたよ」と表現した。誰かをかわいそうに思う心がすなわち愛であることを北極に行ってきて分かった。求婚も北極方式だった。「俺たち、こうだから結婚しなきゃ」

結婚は10日後だが、準備はきちんとできなかった。エジプトへ新婚旅行に行こうと数日間スケジュールを組んだものの、結局違約金100万ウォンを払って取り消した。新居暮らしを始める家も準備できなかった。結婚式が終われば確実に行く所がない。恐らく放送会社にまた戻るだろう。新婦は検察捜査に対する反論資料を準備するために会議室に篭るだろうし、新郎は検察の押収捜索を防ぐためにロビーを守るだろう。

「今朝誰かが私を揺さぶって起こしました。検察が来ると言ったのです。むくっと起きて顔を洗い服を着替えたけれど、実際どこにいなければならないか分からなかったんですよ。そのまま事務室に座っていました。捕えられる状況になれば淡々とされなければならないと考えましたよ。」その頃、新郎は文化放送労組員300人余りと共に社屋正門前にいた。4月8日午前9時50分頃、ソウル中央地検の検事たちが捜査官15人を連れて文化放送を訪ねてきた。<PD手帳>製作陣逮捕と報道原本資料押収捜索を試みた。放送センター前で1時間余り労組員と対峙して手ぶらで帰った。

←4月8日午前、文化放送社屋に対する押収捜索に出た検察職員らと全国言論労組文化放送本部組合員が対峙している。 <ハンギョレ21>リュ・ウジョン記者



“なぜ度々政治的ゲームをするのでしょう?”

去る20年間報道機関に対する押収捜索企図は1989年<ハンギョレ>,2003年SBS,2007年<東亜日報>等、計3回あったが事前連絡という‘政治的姿’さえ省略し報道機関に押しかけたのは今回が初めてだ。報道原本テープを出せと言う検察の要求も世界言論史上類例がない。

「率直に言って、私は検察では黙秘権を行使するものの法廷では真実を争ってみようという側です。ところで検察は度々政治的ゲームをします。一発打って、また打って、継続して打つんです。完全にひざまずかせる状態になるまでやるという態度です。このようになれば私のように考える余地はさらに減ります。いいぞ、戦い続けてやる、こういう考えだけが残ります。押収捜索がなかったかのようにひざまずいて出頭しろと? そうはできませんよ。」

恐らく新郎と新婦は‘妥協策’に対して何度も相談したことだろう。粗雑な世の中をまっすぐ生きることが疲れることを彼らも知っているだろう。それでもこのままでは出て行けないという考えを固めるまで政府,検察そして保守言論の役割が大きかった。<PD手帳>に対する検察などの論理は簡単だ。狂牛病患者と疑われる事例として登場したアレーサ・ビンスンの死亡原因が ‘人間狂牛病ではないことを知っていながら、これをわい曲して報道したということだ。

「卑劣で幼稚で拙劣な攻撃です。アレーサ・ビンスンは人間狂牛病が疑われる患者であり、そのために解剖検査まで受けました。あえて誤りがあったとすれば(人間狂牛病に) ‘かかったかも分らない’を‘かかった’としました。誤訳でしょう。それが全てです。それでもそれはやはりファクト(事実)に対する問題だから正確に伝達することが出来なかった部分に対しては放送を通じて正し謝罪もしました。これを知っている検察が言論プレーをしています。誤訳をわい曲に、更に扇動に追いやっています。事実を操作してわい曲したPDだと烙印を捺しています。私の良心に照らして決して彼らが言うわい曲・操作などをしていません。」

キム・ボスルPDは2003年に入社した。2005年 ‘ファン・ウソク神話の卵子疑惑’ に対する<PD手帳>報道を当時 ハン・ハクスPDとともに引っ張った。‘米国産牛肉、果たして狂牛病から安全なのか’ を製作し昨年には韓国PD協会が与える ‘今年のPD賞’ を受けた。フリーランサーで仕事をしていた2年余りを加えれば、すでに8年間 時事プログラムだけを作っている。文化放送時事教養局で長い鍛練を経た。言論界の評判を検察はよく知らない様子だが、文化放送時事教養局は中央日刊紙記者たちが妬むほど調査報道の新しい地平を粘り強く切り開いてきた。

「放送3時間前に台本を直したことを操作の証拠として差し出したが、放送がされる間にも私たちは台本を直します。最後の瞬間まで台本と字幕を直し編集するのが放送でPDの仕事でしょう。字幕でいたずらをしたとの主張もしていたが、英語がスワヒリ語か何かですか。韓国語にダビングもしていないし英語インタビューをそのまま送出しました。分かる火となら即座に誤訳を識別するはずなのに、それを意図的にわい曲したって? そういえば大統領府報道官は皆がわかる英語も変に翻訳して韓-米首脳会談内容をとんでもなくブリーフィングしました。時事教養PDたちは放送をそんな風に作りません。」

‘嘘放送’? 名誉毀損に値する

新郎と新婦はこの頃、‘名誉毀損’に対して色々考えている。国務総理が国会で “嘘放送” と言った。文化放送と該当PDに対する明白な名誉毀損だと二人は考える。大統領は昨年ロウソクのあかり政局の時、韓-米牛肉交渉結果の誤りを認め2度も対国民謝罪をしました。チョン・ウンチョン前長官が名誉毀損で告発する人がいるとすれば<PD手帳>ではなく大統領だと二人は考える。政府の誤りを問い詰める報道を名誉毀損だとして政府が告発する奇想天外なことは韓国民主主義に対する名誉毀損でもある。

両家の両親は強いて問い詰めて尋ねない。とても心配しているだけだ。新婦の父親は肺癌と戦っている。母親は参鶏湯を放送会社に持ってきて、娘と婿に食べさせる。携帯用バーナーで汁を沸かして「はやく解決されればいいのに」独り言のように言う。新郎の父親は亡くなった。一人身になられた母親は検察捜査官らが押しかけてきても息子に電話しなかった。‘状況がこの有り様ならばジュンムクが、ポスルが連れて逃亡中なんだ’と心に堅く決めて一人で持ちこたえられた。

←4月19日結婚式を挙げるキム・ボスルPDとチョ・ジュンムクPDは招待状を作ったが発送はできなかった。<ハンギョレ21>パク・スンファ記者

‘花のように笑う日.’ 招待状の一番前にそのように記されている。2家族の両親たちが祝いの客に送ろうと以前に作っておいた。作ったもののそのまま積んでいるだけだった。4月の新婦と新郎はお互いを見てそれとなく笑うが、まだ花のようにパッとは笑えない。汝矣島の桜の花はそんなことも知らず、自分一人で自然に咲き誇っている。

文アン・スチャン記者ahn@hani.co.kr

http://h21.hani.co.kr/arti/society/society_general/24742.html