原文入力:2011-02-27 午前10:45:37(1890字)
犯人はまさに脳だ [原題:Tatort Gehirn…訳注]
ハンス・マルコビッチ、ベルナー・ジーファー作
キム・ヒョンジョン訳
アルマ/1万3000ウォン
[キム・ミョンナムの科学本散歩]
最近、犯罪捜査ドラマを見ると、このような話が退屈せぬよう登場する。無慈悲な犯罪が行われる。警察が絶妙の捜査で犯人を捜し出す。全員一致で最高刑が求刑されようとした途端、犯人の脳に異常があることが明らかになる。脳に腫瘍が生じていたとか、うつ病治療薬のセロトニン再吸収抑制剤を服用した副作用や、胎児アルコール影響による発達障害とか、虐待や中毒による判断力喪失など。たとえば腫瘍だとしよう。腫瘍を除去すれば犯人の暴力性や逸脱的性欲が消える。それでも彼に服役を命じなければならないだろうか? 責任能力喪失状態の被告人は処罰でない治療対象という原則により、手術の後、釈放せねばならないのだろうか?
ドラマでは解決が可能だ。本当でなければ、法廷攻防中に被告人が死ぬことで終えれば良い。だが現実は違う。そのような便法を使うことはできない。最近、米国では、脳映像資料を法廷に持ち込む訴訟が年間約900件になり、これがドラマの話でなく、現実で接する問題になる日は遠くなくなった。
『犯人はまさに脳だ』は、これに対して明快な立場を取る。題名だけ読んでもわかる。脳の問題が犯罪を起こすということだ。ドイツの心理生理学教授と科学著述家である著者たちは、「社会規範から大きく逸脱した犯罪者らの脳では一般的に非正常性が発見される」と断言する。非正常性の形態は色々なものだ。思考と計画をつかさどる前頭葉が損傷した人は、道徳的判断力と自制力を失うことになりえる。後天的にいわゆる「反社会的人格障害(ソシオパス)」になるのだ。初めから社会化が不可能なサイコパスの中にも、先天的に前頭葉に病変がある人が多い。一方、扁桃体に異常があると、感情統制が難しく、衝動的に暴力性を噴出することが起こりえる。てんかん患者の中には、発作する時にだけ暴力性を示す事例もある。セロトニンやアドレナリンのような神経伝達物質濃度が正常ではない場合でもそうだ。うつ病治療剤のような薬品が原因で異常が生じる場合もあるが、遺伝的にホルモン分泌が正常でない場合もある。
←キム・ミョンナム
著者は環境の影響を無視しているのではない。だが、不利な要因と悪い環境が会った場合に、ほとんど100%犯罪が発生するしかないと主張することにより、むしろ決定論をより強調する。著者は、個人というのは、すなわちその者の脳(に加え、若干の社会化)と規定し、誤った脳を持った犯罪者に、犯罪を犯さない自由意志というのはないと見なす。したがって、現在、犯罪者に心理鑑定をするように、今後は磁気共鳴映像で脳鑑定を行わねばならないと主張する。残念なことに、脳の異常はまだ治療が難しい。ならば予防が重要だ。そこで、現在、子供たちに歯検査を義務づけるように、これからは脳検査を実施するのが自然なのかもしれない。
これは、人権、プライバシー、費用などの色々な面で論議になる問題だ。そのため、必ず、彼らのように断固たる解釈を広げる人だけでなく、他の多くの学者がこの神経倫理学、神経法学のテーマに関心を傾ける。『倫理的脳』[原題:The Ethical Brain…訳注]を書いたマイケル・ガッザニガ(Michael S. Gazzaniga)のように、神経科学の重要性を強調しながらも、倫理は脳とは違う次元とし、不明瞭な妥協を望む学者もいて、『脳の中の人間、人間の中の脳」や『新しい脳科学』の論文著者たちのように、一生懸命に議論はするものの、現時点では私たちに分からないことがより多いことを認める学者もいる。
嘘発見器が初めて開発された1911年、ニューヨーク・タイムズに次のような文言が載せられたという。「遠からず私たちは、陪審員も、刑事も、目撃者も、告訴も、相互告訴も、弁護士も必要でなくなるだろう。国家が科学的道具を使ってすべての容疑者を一度に検証するだろう」。今日、嘘発見器は法執行に有用な一手段として使われるだけで、法体系の代わりはしない。脳科学の発見もそのように取り込まれるのか、でなければ全く新しい法体系を作り出すのか、とにかく興味深いテーマだ。
キム・ミョンナム 科学本翻訳家
原文: https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/465370.html 訳M.S