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外国言論が絶賛した韓国経済学者の著書

原文入力:2010-10-30午前09:22:54(4839字)
金融資産家のためのインフレ抑制策
‘経済安定・成長手段’にわい曲

ハン・スンドン記者

米国経営者らが労働者平均賃金の300~400倍にもなる給料を受け取るのは、彼らの生産性がそれだけ高かったり企業利益に対する寄与度がそれだけ大きいためなのか? 違う。良い暮らしをする国の人々が高い賃金を受けるのは、それだけ生産性が高いためなのか? 違う。 教育をより多くさせれば それだけさらに良く暮らせるようになるのだろうか? 必ずしもそうでない。資本には本当に国籍がないのか? 違う。私たちは脱産業知識経済社会に住んでいるのか? 違う。 インターネットが本当に世の中を完全に変えているのか? どうかな、洗濯機や電報の発明の方が与えた衝撃ははるかに大きかったようだ。 自由市場だけが解決法なのか? 嘘だ。 自由市場というのは初めから存在したこともない。GMに良いことは常に米国にも良いことか? 違う。 破産したGMを見れば分かることではないのか。それでは三星に良いことは常に韓国にも良いのだろうか?
初めから最後まで違う、違うで一貫する英国ケンブリッジ大学チャン・ハジュン教授の<彼らが語らぬ23項>(23 Things They Don’t Tell You About Capitalism)がねらう不正の対象は、よく新自由主義と称されてきた自由市場資本主義とそのイデオロギーだ。チャン教授の本を読んできた人々には、こういう話はすでに見慣れたものかもしれない。

だが<彼らが語らない23項>は2009年に出た本で、<はしごを蹴る>が2002年、<国家の役割>が2003年、そして<悪いサマリア人たち>が2007年に出版されたという事実に注目する必要がある。題名の通り、去る30余年間の資本主義世界を支配してきた新自由主義教義を23の命題に圧縮し、一つ一つその神話を破っていくこの本が1929年の大恐慌以後 最悪であったという2008年ウォールストリート発金融危機とその波紋を見守りながら書かれたという点が重要だ。2008年金融危機は、ミュルダール賞とレオンティエフ賞を受けた一連の著作で新自由主義の盲点と偽り、それが呼び起こす危険を鋭く指摘してきたチャン教授の主張が正しかったことを再度立証した。だからなのか<彼らが話さない23項>はより一層、確信にみちていて、彼の本が読まれるようにさせるもう一つの要素である多様で的確な比喩と事例比較はさらに豊富で軽快だった。

豊富な事例で主流経済学批判‘世界経済再建8つの提言’出し

彼が‘違う’と否定するのは資本主義ではなく‘ワシントン コンセンサス’が象徴する自由市場資本主義だ。そうした点で彼の不正は‘他の資本主義’ ‘より良い世の中’の可能性を説明する強力な肯定だ。彼の話は死んだ話ではなく、今現実に適用されるうる生きている話だ。英国日刊紙<ガーディアン>が9月29日付社説でチャン・ハジュンに賛辞を送りながら、より一層大衆親和的なこの本で扱う23項がさらに多くの読者らはもちろん、新しいアイディアを探す政治家たちにも読まれるだけのことはあるとし、最近 英国労働党の新代表になったエドゥ ミリバンドにチャン教授と昼食を一緒にしてみるよう薦めたのもそのためだろう。

←英国ケンブリッジ大学チャン・ハジュン教授

米国最大・最高の企業で、世界自動車市場の帝王だったGMはなぜ破産したのか? GMは株主価値極大化戦略により、絶えず構造調整、解雇、非正規職化などを武器にダウンサイジングをし投資を忌避した。こういう短期戦略中心の経営が持つ問題点は、すでに1980年代後半から明らかになっていたがGMは2009年に破産する時まで戦略を変えなかった。短期戦略のおかげで、さらに多くの配当を受けた株主たちは経営者が持ち去った天文学的な年俸も喜んで受け入れた。GE経営者ジャック・ウェルチが、後ほど "世の中で最もバカなアイディア" と告白したという株主価値優先と運営者自身も本当に問題が何かも分からなかったという(明らかに分かりながらも、そうしたという話の方がさらに説得力があるように見えるが)破滅的な派生金融商品が象徴する金融規制緩和が米国製造業を完全に壊した。株主らはそのようにして企業が滅びれば、株式を処分し立ち去ればそれで終いだ。

1970年代まで米国の非金融企業が所有した金融資産は非金融資産の40%程度だったが、2000年代以後 米国を代表する製造業者さえ金融収益に依存する事実上の金融業体に変身した。2003年GEグループ利潤の45%がGEキャピタルで創出され、2004年GMグループは利潤の80%を金融子会社GMACが上げ、2001~2003年フォードグループのすべての利潤はフォードファイナンスが稼いだものだった。ウォールストリートを否定した投機収益に酔った狂乱状態に追い込んだサブプライムモーゲージ(非優良住宅担保貸し出し)派生金融商品を「大量金融殺傷武器」(Weapons of Financial Mass Destruction)と呼んだ投資家ウォーレン・バフェットの予言は2008年金融危機で実現された。金融ハブを夢見たアイスランド、アイルランド、ラトビアなどが直撃弾を受けた。

チャン教授が見るには、新自由主義強者らが叫ぶ財政安定等を通じたインフレ抑制と自由な資本移動、労働柔軟性(雇用不安定を隠す美辞麗句)も、結局は金融資産家らの投機収益を極大化するための戦略に過ぎない。インフレーションを否定的にだけ見るなというチャン教授は、インフレ抑制政策を「長期的安定と経済成長、そして人類の幸福を犠牲にし金融資産保有者らに有利な政策を推進させる人々が大衆を怖がらせるために使ってきた‘恐ろしい麻袋じいさん’のようなもの」といった。

そしてさらに多くの教育がより良い暮らしを保障するということにも、それは虚構だと論駁する。新自由主義が誘発した雇用不安に、成績の高い学生たちが職業的安全性の高い医大や法大側に集中し、学歴インフレが猛威を振るう韓国の例をあげながら、彼は大学教育の半分程度は生産性とは特別関係ないことに浪費されているとし、学歴インフレの弊害を利己的映画鑑賞に比喩した。「(前のほうの観覧席で)ひとりが立ち始めれば、その後の人も合わせて立つことになり、そうするうちに一定比率以上の人々が経てば、結局 皆が立って映画を見なくてはいけない状況になるという話だ。映画館にいる人々はもう画面をさらによく見ることもできないのに、座ってみることもできない不便を甘受しなければならない。」本にはこういうあきれた比喩と比較が真に適切に、そして豊富に入っていて説得力を高める。 <ガーディアン>が英国主流経済学の狭い見解を恨み、19世紀ドイツと21世紀中国など全世界すべての時代の具体的統計数値らを自由自在に駆使するチャン教授を持ち上げたのには、それだけの理由がある。

彼が結論として出した世界経済再建のための8種の提言は以下の通りだ。1.資本主義をまともに回っていくようにしようとするなら規制が必要だ。 2.人間の情報処理能力(合理性)には限界があるということを認めなさい。 3.利己心が人間行動の唯一の動機ではなく、社会的責任・公益も重要だ。 4.機会の平等だけでなく結果の平等もある程度以上に保障しなさい。 5.製造業は相変らず‘決定的に’重要だ。 6.金融部門と実物部門間に適切な均衡を回復しなさい。 7.より大きくさらに積極的な政府が必要だ。 8.開発途上国を‘不公平’だという声を聞くほどに優待しなさい。

ハン・スンドン先任記者 sdhan@hani.co.kr

■著者とともに|チャン・ハジュン教授

“新自由主義、ありのままに信じるな”

28日、ソウルで開かれたチャン・ハジュン教授の<彼らが語らぬ23項>出版関連記者懇談会。2007年に出した<悪いサマリア人たち>を‘不穏書籍’にしてしまった国防部の禁書措置が合憲だという憲法裁判所決定が出されたので、新刊も同じ運命になるのではないかと記者が尋ねた。チャン教授は「不穏書籍にしてくれれば本を売る上では役に立つ。前回もおかげをちょっと見たが…」としながらも「複雑で息苦しい」と言った。新自由主義の盲点を痛烈に指摘してきたチャン教授の本は、実状 過去の韓国の経済発展戦略を最も成功的な事例の一つに選んでいる。国防部式‘愛国心’基準でも彼の本はとうてい‘不穏’になることはできない。

だからだろうか、以前の本に比べて「先進国らの問題まで含めてさらに広範囲な問題を扱った」という今回の本を通じて伝えたい核心メッセージもこのように圧縮した。「すべての問題を批判的に、多面的にみるべきだということだ。事実だと堅く信じたものなども、もう少し詳しく見れば砂の城のようなものでありうる。 聞いたとおりには信じないということだ。」懇談会の冒頭発言でもそう言った。「経済学というのは決して難しくない。一番難しいことは、あれこれ皆知らなければならない民主市民になることだ。よく分からない教授が、新聞が言うのだから合っているだろうと思ってはならない。派生金融商品が危険なことであり、規制しなければならないということ程度は知って話すべきだ。」

チャン教授は韓-米自由貿易協定と関連して「米国が再交渉しようという時、最初から(FTA自体を)しないことにしてしまったら良いだろう」とした。「水準が似た国々どうしがすれば得になる。水準に差があれば長期的には後進国が損をする。私たちはまだ欧米に追いつくことが多いのに、協定を結んでしまえば追いつくことはできない。5等の子供を1等班に入れれば追いつくかも知れないが、15等の子供を入れればさらに落ちる。製造業生産性が欧米の40~50%にしかならない我が国はまだまだだ。電子や造船などで1等だからすごいようだが、外側から見るにはまだ違う。」繰り返し製造業の重要性を強調した彼は「現政権でも去る政権でも同じだが、製造業を捨てて金融業側に行って簡単に金を儲けようとする考えを度々することが一番心配だ」とした。

新自由主義という反動が始まった1970年代中盤以前、ケインズ主義側に帰ろうということか、自身の経済学的地位をどの地点に設定しているのかとの質問に「私を制度学派という人々もいるが、私は何の学派にも属しない。世の中は多面的で複雑でマクロかミクロか、ケインズかそうでないかなどと分けて、その中の一つを選択しては問題を解くことはできない」とした。「ケインズが一番良いとしても、技術革新などの分野へ行けばリストナー シュムペータ、カルドを見なければならない。マルクス、レーニンから、結論には同意できなかったがハイエクまでみな読んでみた。それぞれみな取るべき点がある。どんな社会に行くだろうか? 私はユートピアはないと考える。政策懸案ごとに判断するしかない。新自由主義は誤ったものだと結果が生まれた。原則的な面では1970年代中盤以前に帰るべきだと見る。その時代(1950~60年代)が正しいものが多い。資本(金融)市場を規制するべきで、短期収益戦略中心に行ってしまった新自由主義を捨て長期投資へまた切り替えなければならない。だが、時代が変わったので(戦術も)同じであることはない。今回の本はひとまず新自由主義がどれほど誤ったことなのかを知らせるのが急だという考えで書いた。代案はそれからだ。”」
ハン・スンドン先任記者

原文: https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/446260.html 訳J.S