本文に移動
全体  > 文化

天安艦 異議提起すれば口止め…これが民主主義か?

原文入力:2010-06-28午前08:35:10(6500字)
[ハンギョレが会った人]‘合調団結論に反論’ソ・ジェジョン ジョーンズホプキンス大教授

ハン・スンドン記者,キム・ミョンジン記者

←ソ・ジェジョン教授はイ・スンホン教授とともに天安艦沈没に関する自分たちの調査報告書を国連に送る予定だ。イ教授はすでにパン・ギムン国連事務総長に要約報告書を送り、去る18日には国連安保理にも提出したという。最近訪韓した彼は「天安艦事態より天安艦事態から表出された韓国民主主義の危機と南北関係悪化がより重大な問題でありうる」と話した。 キム・ミョンジン記者 littleprince@hani.co.kr

ソ・ジェジョン(50)ジョーンズホプキンス大教授(国際政治学)は、イ・スンホン バージニア大教授(物理学)とともに最近の天安艦沈没が北韓の所業だとし合同調査団が提示した‘決定的な証拠’らの信頼性に疑問を投げかける実験結果を発表するなど、天安艦事態に関する政府側発表に異議を提起した。国際的活動領域を持ったこれらの問題提起は国内外で微妙な波紋を呼び起こし、天安艦事態真相究明に少なからぬ影響を与えるものと見られる。

訪韓中のソ教授は、参与連帯が国連に送った書簡の問題提起に概して同意した。特に‘1番’という文字が書かれている魚雷推進体残骸が、天安艦撃沈北韓製魚雷(CHT-02D)部品であることを立証する最も明らかな証拠として提示されたアルミニウム吸着物の成分分析実験結果とバブルジェット効果などに根本的な疑問を表わした。

こういう活動のためか、周囲の人々が自身の身辺の心配をしてくれているとし、ソ教授は最近韓国の民主主義と良心・良識が揺れていると話した。韓国にしばしば出入りする彼は、この頃のように韓国市民社会が萎縮しているのを見たことがないとしつつ、もしかすると天安艦事態より天安艦事態から表出された韓国民主主義の危機と南北関係悪化がより重大な問題かもしれないと話した。

-自信があるならば総理が逆に保守団体などにおとなしくするよう叱りながら、‘誰でも意見を言うことができるのが民主主義ではないか、かえって反対に根拠がないことを見せる良い機会’と言ってこそ正しいのではないか?

 "政府の対応姿勢は本当に残念だ。参与連帯に対しては政府がむしろ称賛しなければならない。国連という国際舞台に市民団体が異見を提示したことは、韓国民主主義の成熟性を示すことであり、国の品格を高める上で途方もない寄与をしたと見る。韓国の民主化がすでに国際的に重要な研究対象となっているが、韓国市民社会が国際舞台で政府とは異なる独自の声をきちんと出したのは私が知る限り今回が初めてではないかといえる。これは韓国民主主義にとって一つの転換点になりうる。国際政治学者たちも注目するだろう。今後、さらに活発になったら良いだろう。保守団体も他の意見があるならば同じように発言すれば良い。"

-天安艦事態自体も重大な懸案だが、それを扱う我が国の社会の方式、特に執権勢力と保守言論の姿勢がさらに深刻な問題という話もある。

 "事実その問題がより重要なのかもしれない。天安艦事態を契機に潜伏していた問題が一挙にあらわれた感がある。韓国民主主義の途方もない退行だ。民主主義を支える最も重要な要素は、報道機関と表現の自由だ。ところが今、韓国ではこの自由が深刻に脅威を受けている。政府見解に異議を提起すれば、告訴・告発にあうことになり、インターネットにあげた文等に対する捜査まで行う。米国市民権を持った私が言論に寄稿した文を巡り、私の周辺の人々が身辺の心配をしてくれる状況であり、他の人々については言うまでもないのではないか。"

‘魚雷爆発’政府結論に科学的欠陥 提起
"吸着物質 分析結果、誤った実験の産物
衝撃波の痕跡なくて‘1番’も非論理的 証拠"

-政府当局側が原因提供をしておきながら、市民団体が問題を提起するやこれを非難しているが。

“政府側報告書自体が不十分で信頼性に相当な疑問が提起され、疑惑がまともに糾明されなかった不確かな状態で国際舞台へ持っていったことが問題だ。そして分断という特殊性を持った南北間のこと、言うなれば民族問題はまず民族内部で解消しようとする努力が必要だ。そのような努力をせずに生半可に国際問題化したのも問題だ。今回の事態は李明博政権登場以後の南北関係悪化がその背景として作用した。”

-天安艦が魚雷襲撃により沈没したとすれば、衝撃波と破片のためにずたずたに裂けたはずとして、バブルジェット効果に焦点を合わせた合調団発表に同意しなかった。

“造船工学や爆発物研究者にとってそれは常識だ。破壊力は衝撃波がバブルジェットの6倍以上だ。当然、衝撃波から調べなければならない。国防部発表資料にもこういう一節がある。‘水中で爆発が起きれば一番最初に爆発自らの衝撃波が起きる。音速あるいは音速よりさらに速い速度で広がる衝撃波は、総爆発エネルギーの54%を占めるほどに威力が非常に強い。たとえ衝撃が持続する時間が短くとも、爆発距離が近い場合には船体構造に致命的な打撃を与える。空気とは異なり、水は密度が高く衝撃を伝達する力が非常に強いためだ。’それでも合調団は衝撃波に対しては特別な言及も調査も行わずバブルジェットに集中した。これは基本的に誤った調査方法だ。ところで合調団が公開した写真を見ても天安艦が魚雷爆発で沈没した痕跡を探すことはできない。衝撃波の跡が全く見られない。簡単に計算しても250㎏の爆薬が水中6~9m、天安艦中央左側3m付近で爆発すれば少なくとも5000psi(psi・pounds per square inch. 1psiは1インチ平方当たりに加えられる1ポンドの圧力)の圧力が発生する。その程度ならば船体が完全に崩壊する筈だ。ところが、写真を見れば天安艦の切断面は比較的きれいだ。それは絶対に衝撃波による破損ではない。天安艦の場合、そのように強力な爆発物がすぐそばで爆発したというのに乗務員、計器盤、電線などが比較的完全であり、さらに弾薬庫2ヶ所の写真を見れば弾薬が整頓された状態そのままに置かれていた。これは有り得ないことだ。”

-破片もほとんど捜し出すことができなかった。

“5000psiの爆発ならば数多くの破片が飛び、船体に打ち込まれただろう。そのような跡が無数に発見されなければならない。TOD(熱像監視装備)映像もちびりちびりとやむをえず出したし、それも何故か天安艦が分離する決定的な瞬間の映像はないといった。真相は分からないが、韓国海軍は甘い存在ではない。卓越した技術を持っていると理解している。TODもいろいろな所に設置し死角地帯なしに交差撮影することができるようにされているものなので当然その瞬間を撮った映像を持っていると見る。万一それがないならば、それはより重大なことではないか。接敵地域の海岸線のどこかが無防備に開いているという話だから。”

船体などに吸着したアルミニウム酸化物が果たして魚雷爆発の痕跡かという疑問と関連して、合調団は天安艦船体から捜し出した吸着物(A),北韓製という魚雷部品の吸着物(B),そして自らの模擬実験で回収した吸着物(C)に対するエネルギー分光器(EDS)およびエックス線回折機分析結果を発表し、それが問題の魚雷部品が天安艦を撃沈させた北韓製魚雷部品であることを立証する最も科学的で決定的な物証だと主張した。AとBの成分が爆発実験をした結果から得られたCの成分と同じならば、Aが吸着した天安艦はBが吸着した問題の魚雷爆発によって撃沈された事実が立証されるというのが合調団の主張だ。合調団の分析結果、エネルギー分光器分析ではA,B,C全てからアルミニウム成分を発見した。しかしエックス線回折機分析ではCのみからアルミニウム成分が発見された。エックス線回折機分析では非結晶質アルミニウム酸化物は検出されない。

こういう食い違いに対し、合調団はエックス線回折機分析結果は「爆発前後にのみ生じるアルミニウムの溶解と急冷却とで(アルミニウムが酸化し)非結晶質アルミニウム酸化物ができたために起きる現象」として「むしろこれが船体と魚雷から出た物質(AとB)が同一だということであり、魚雷が爆発したという決定的証拠」と主張した。

天安艦を扱う政府・保守陣営の態度が問題
“参与連帯書簡は民主主義成熟性の断面
告訴・告発し捜査するのは表現の自由の威嚇”

-合調団のこういう主張に対しイ・スンホン バージニア大教授とともに問題提起し、国連にも文書を送ったと理解している。これこそ最も核心的な異議申し出と考えるが。

“エネルギー分光器分析は吸着物質の原子状態を調べるもので、エックス線回折機分析はその原子が結合しどんな結晶構造を作っているかを調べるものだ。2つの分析結果、吸着物A,B,Cが同じ物質という事実が確認されれば問題は解決されるというのが合調団の主張だ。ところがエネルギー分光器分析ではA,B,C3種類の全てからアルミニウム成分が検出されたが、エックス線回折機分析ではCのみから検出された。結局A,BとCは結晶構造が異なるという話であり、従ってA,Bが爆発の副産物ではないという話だ。だから天安艦を沈没させたのは問題の魚雷だと主張できない。そのような問題が生ずるので、合調団は魚雷爆発のような高熱溶解と急冷却ではアルミニウムが酸化しながら非結晶構造に変わるとし、A,Bのエックス線回折機分析でアルミニウム成分が検出されないのは、それが非結晶質に変わったためだと言った。Cのエックス線回折分析のみからアルミニウム成分が現れたということは、魚雷爆発と同じ程度の高熱溶解と急冷却をしなかった実験上の誤りのために、アルミニウム結晶質が生成された結果という話だ。それなら誤った模擬実験を持ってA,B,C3つの成分比較分析をしたこと自体が無意味なのだ。そして魚雷爆発程度の高熱溶解と急冷却状態ではアルミニウム酸化物が本当に全て非結晶質に変わるのだろうか?”

イ・スンホン教授は実験で魚雷爆発の時よりさらに高い高熱溶解と急冷却条件を作ってみたが、アルミニウムは部分的にのみ非結晶質に変わっただけで、大部分は相変らず結晶質として残った。それによれば「合調団の発表のようにアルミニウムが100%酸化される確率は0%に近く、その酸化されたアルミニウムが全て非結晶質になる確率もまた0%に近い」ということだ。問題の魚雷が天安艦を沈没させたとすれば、合調団発表のようにA,Bのエックス線回折機分析でアルミニウム成分が検出されない確率が事実上ないという話だ。それでもエックス線回折機分析でアルミニウム成分がCのみから検出されたという合調団発表は実験を誤ったか操作した結果、または、両方の組合わせである可能性が高い。

合調団は後日、アルミニウムは高熱溶解と急冷却の際も結晶質と非結晶質酸化物が共に発見されるとし当初発表内容を修正しながら、A,Bのエックス線回折機の最初分析でアルミニウム酸化物が検出されなかったと言ったのはそれが極少量なのでそこまで発見できなかったためだと解明した。当初主張に根拠がなかったことを自認したわけだ。そしてソ教授は「たとえA,B,Cのエネルギー分光器およびエックス線回折分析結果の全てが合調団が望みどおりに出てきたとしても、それですぐに問題の部品を持った魚雷が天安艦を打撃したことを自動立証するわけではない」と話した。「論理的に厳密に言えば、そのようにして合調団が立証できることは模擬実験から出た吸着物CとA,Bが同じ成分ということで、それは結局 天安艦も模擬実験と同じ条件で沈没したというだけのことだ。」

-2人の主張は国際的に信頼性を検証を受けることができるということなのか?

“イ・スンホン教授はエックス線回折機分析では世界が認める専門家だ。彼はシミュレーション、実験などを土台にした関連論文をインターネット科学専門ウェブサイトに上げ、全世界の誰でも検証することができるようにしておいた。私たちが国連に送ろうとするのは、この間に分析整理した要約報告書だ。イ教授はその論文をすでにパン・ギムン国連事務総長に送ったし、国連安保理には今日(6月18日)送る予定だ。”

-政府側から反応があったか?

“なかった。その前に政府が天安艦事態を国連舞台に持っていってしまった。したがって私たちも学者として当然に国際的に論文を提出して公開する義務がある。 政府が問題を国際舞台に持って行かなかったとすれば、私たちも持って行かなかっただろう。私たちがそのように対処したことは学者としての生命とも関連する問題だ。”

-問題の魚雷部品に書かれている‘1番’というマジックインキ文字がそのような爆発後にもあれほど鮮明に残っていることについても話が多い。

“それは科学的に非論理的だ。問題の部品にいっぱい錆がついているのはペイントがみな焼けてしまったためだ。マジックインキとペイントの構成物質は沸騰点を見ればペイント側がはるかに高い。ペイントがみな焼けてしまったとすれば、近くびあったマジックインキ文字も焼ける筈だ。高熱にも耐える日本製特殊インクがあるにはある。だが、常識的に考えれば魚雷部品の機能作動と何の関係もない何らかの単純表示のために書いたその‘1番’という文字をあえて購入も容易でない特殊インクで書き、魚雷爆発以後まで残るようにしなければならない理由があるだろうか。”

-監査院監査結果も北の所業であることを前提に、軍がきちんと対処できなかったという側に焦点を合わせたが。

“重要な点だ。最も緊急な問題は沈没原因を明らかにすることだ。それでも監査院監査は天安艦沈没が北の所業ということを前提に、その後の対応不良に焦点を合わせ、それさえ解決されれば良いという形だ。原因薄め効果とでも言うか。”

-オバマ政府はなぜイ・ミョンバク政府の処理方式を支持するのか?

“私も米国がなぜそうなのか理解し難い。おそらく当事者である同盟国の意向を最大限尊重するということを基調としているのではないか。米国が天安艦事態の実体的真実に対し、どれくらい知っているかは分からないが(おそらく相当に知っているだろう)その部分がまだ不確かな状況ではそのようにすることが米国国家利益の確保に有利だと見たのだろう。”

インタビュー/ハン・スンドン先任記者 sdhan@hani.co.kr

■ソ・ジェジョンは誰

←ソ・ジェジョン ジョーンズホプキンス大教授

1960年生まれ、ソウル大物理学科2学年の時の1981年、米国に移民しシカゴ大学物理学科に編入した。ペンシルバニア大で国際政治学 修・博士学位を受けた。昨年7月に出版された<韓米同盟は永久化するか>(イ・ジョンサム訳、ハンウル)は博士学位論文に手入れしたものだ。コーネル大で7年間、国際政治学と米国の外交安保政策などを教え、2007年からワシントンのジョーンズホプキンス大国際大学院で韓国学研究所所長として在職しながら国際政治学理論とアジア国際関係論などを講義している。物理学を学び、政治学に専攻を変えたのは科学史の勉強をして見たら社会経済的基盤や社会的パラダイムが重要だと考えることになり、科学と社会の関係に注目することになったためだと語った。この頃は東北アジア地域の秩序に関心を持っていて、国際安保から人間安保へ関心領域を広げている。今回のソウル滞留もこれに関する研究と著述のためだ。

原文: https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/427669.html 訳J.S