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梨泰院惨事を扱ったドキュメンタリー『クラッシュ』、韓国で見られない理由は

登録:2023-10-24 00:52 修正:2023-10-24 08:48
パラマウントプラスが米国で17日に公開 
制作会社「米国以外の国との公開交渉はまだ」
『クラッシュ』予告編=ユーチューブより//ハンギョレ新聞社

 昨年10月29日に発生した梨泰院(イテウォン)での雑踏事故の惨事を扱った2部からなるドキュメンタリー『クラッシュ』が、オンライン動画サービス(OTT)のパラマウントプラスを通じて米国で17日に公開された。米国の地上波放送局CBSの関連会社「シー・イット・ナウ・スタジオ」が制作し、2017年に起きたラスベガス銃乱射事件を扱ったドキュメンタリー『11分』(2022)を演出したジェフ・ジンバリスト監督が制作者として参加している。タイトル『クラッシュ』は狭い場所に集まった多くの群衆を意味する「クラウド・クラッシュ」から取ったもの。

 韓国で起きた惨事を扱っているが、23日現在、韓国では見られない。これは著作権の問題で、制作会社が映像供給契約を結んだのが米国のパラマウントプラスだけだからだ。韓国のパラマウントプラス担当者は21日のハンギョレの電話取材に対し、「『クラッシュ』は制作会社とOTTが企画段階から共に作業するオリジナルコンテンツではなく、制作会社が作品を作ってからパラマウントプラス米国に販売したもの」だとし、「制作会社は現在のところ、米国以外の国とコンテンツ提供について議論していない」と話した。著作権問題のせいで、韓国から米国のパラマウントプラスのウェブサイトにアクセスしても、予告編すら見られない。韓国の視聴者たちは、仮想私設網(VPN)で迂回接続するという方法でこのドキュメンタリーを視聴している。

『クラッシュ』予告編=ユーチューブより//ハンギョレ新聞社

 韓国での公開をめぐって物議を醸すほど、このドキュメンタリーは昨年10月29日の梨泰院の夜を辛辣に描いている、との評価を受けている。ナレーションはなく、現場にいた人々の証言、生存者の携帯電話や監視カメラ(CCTV)の映像、記者会見を含めた280の出典から選んだ1500時間にのぼる映像を使って編集された。ユーチューブに公開された3分の予告編と外国メディアのレビューを総合すると、ドキュメンタリーは生々しく、それだけに痛々しく迫ってくる。新型コロナウイルス禍後の解放感を味わっていた若者たちは、たちまち前に進むことも後戻りもできない状況に陥り、死の恐怖に包まれる。「助けて」という叫びがあちこちから聞こえ、救急隊員は「諦めるべき人は諦めて、まず助けられる人を助けなければならない」と語る。緊迫した瞬間がそのまま伝わってくる。友人を失ったある米国人の生存者は、「あの日以降、人の多い場所が怖く感じるなど、トラウマにさいなまれている」と語る。

 このドキュメンタリーが注目したのは惨事後の過程だ。ドキュメンタリーは問う。頻繁なデモで群衆を扱うシステムが整っている大都市のど真ん中で、どうしてこのような惨事が起きたのか。通報が11件もあり、内容も具体的なのに、警察と関連機関はなぜ動かなかったのか。事故への対処とその後の政府の対応を指摘しつつ、あの日の悲劇は韓国社会の世代の違いと政治の問題に起因していると語る。制作者のジンバリスト氏は英国ガーディアンとのオンラインインタビューで「一般的に言って、若者のための歓楽の場として認識されている地域に対し、群衆を統制するために多くの資源と権限を割くというのは、政治と関係している」とし、「大規模な群衆を扱う経験の多い韓国において、2014年のセウォル号惨事と昨年の梨泰院惨事はなぜ例外だったのかを問うべきだ。この2つの大規模な悲劇は、関係者と犠牲者の大多数が若い世代だったという共通点がある」と述べる。また、韓国政府の若者文化と若い市民に対する評価は低いとの意見を述べつつ、この悲劇が世代の違いをあらわにしたとも指摘する。共同プロデューサーのジョシュ・ゲイナーはガーディアンとのインタビューで、「彼ら(犠牲者の家族)は愛する人々がどこで、いつ死んだのかの答えを聞く資格がある」と指摘する。

 米誌「ローリングストーン」ネット版のレビューでは、「このドキュメンタリーは政府の責任の不足を現場報道と事後分析によって詳細に指摘し、社会現象も深掘りしている」と評価されている。

 『クラッシュ』が韓国で見られないのも残念だが、梨泰院惨事から1年を迎えるにもかかわらず韓国国内のOTTが作ったドキュメンタリーがないことを指摘すべきだ、との声もあがっている。あるフリーのドキュメンタリー監督は、「グローバルOTTやテレビ番組などの大衆的なメディアがこの惨事のドキュメンタリーを作らないのは残念だ」と話した。

ナム・ジウン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/culture_general/1113221.html韓国語原文入力:2023-10-23 14:35
訳D.K

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