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すべての責任はロシアにある?

登録:2022-02-19 10:42 修正:2022-02-20 08:37
西側とロシアにそれぞれ異なるものさし 
「ロシア嫌悪症」をもたらした西欧 
オリエンタリズム・イスラムフォビアに類似 
片方だけ悪魔化する二分法の危険性 
 
[レビュー]『ルソフォビア―ロシア嫌悪の国際政治と西欧の偽善』
ギー・メタン著、キム・チャンジン、カン・ソンヒ訳、カウレアチム刊
ウクライナの兵士たちが今月16日(現地時間)、ウクライナのオデッサで整列している様子=オデッサ/AP・聯合ニュース
『ルソフォビア―ロシア嫌悪の国際政治と西欧の偽善』ギー・メタン著、キム・チャンジン、カン・ソンヒ訳、カウレアチム刊//ハンギョレ新聞社

 ウクライナ危機の核心の争点は、ウクライナの領土と主権の保全だ。2014年以降ロシアに合併されたクリミア半島、内戦が起こっている東部のドンバス地域などロシア系住民が多数を占める地域は、ウクライナの主権が適用される領土として残るべきだと西側は主張する。第2次世界大戦後、欧州で領土保全原則は1975年に締結されたヘルシンキ条約で「従来の国境の不可侵性」と確認された。当時、ソ連は人権条項を受け入れる代わりに、第2次世界大戦時に進駐した東欧地域の国境線を公式に認められた。領土保全は不変の原則ではなく、問題は選択的な適用だった。

 1991年のソ連解体で、東欧と旧ソ連地域の国境線が大々的に変更された。1990年代初め、ユーゴ連邦の解体で所属共和国が独立し、特にボスニアは内戦で事実上3つの地域に分割された。1993年、チェコスロバキアからスロバキアも分離独立した。2008年、セルビアからのコソボ独立もやはり認められた。このような分離独立と国境線の変更は、該当する地域の民族と住民の自決権に基づいた正当な主権獲得であると国際社会が認めた。

 では、ウクライナのロシア系住民の地域はどうなるべきか。1991年1月21日、ウクライナ当局が合法的に実施したクリミア半島の住民投票では、80%以上の投票率で94%がクリミア共和国の復元に賛成したが、クリミアの分離はなされなかった。2013年末のユーロマイダンデモによって成立したウクライナの親西欧政権が、国民の20%が母国語として使用するロシア語の公用語の地位を廃止すると、ロシアはクリミアを併合した。2014年3月16日に行われた住民投票では95%が併合に賛成した。米国など西側は、この住民投票はウクライナ憲法と国際法違反だとして、ロシアのクリミア併合を認めていない。

 新冷戦秩序の契機とされる2008年のロシアのジョージア戦争も、ジョージア内の少数民族地域である南オセチアとアブハジアの分離独立問題によって触発された。当時、西側諸国は一斉に、ロシアがジョージアにまず武力を行使し、主権を侵害したと非難した。2009年9月に発表された欧州連合(EU)の独立的調査委の報告書は、戦争は南オセチア自治州を占領しようとするジョージア側の武力行使で始まったことを明らかにした。南オセチアとアブハジアの分離独立はまだ公認されていない。

 セルビアからのコソボ独立の際、西側は軍事介入し、ロシアもクリミアとジョージアに軍事介入した。西側の軍事介入はコソボの独立とその住民の自由と人権のためのものであり、クリミアとジョージアに対するロシアの軍事介入は膨張主義の野心にすぎないのだろうか。ウクライナとジョージアは領土保全が保証され、親ロシアのセルビアはなぜ除外されるのか。

 スイスのジャーナリスト、ギー・メタンの『ルソフォビア(Creating Russophobia: From the Great Religious Schism to Anti-Putin Hysteria)』は、西側が歴史的に増幅してきたロシアに対する嫌悪と恐怖を暴く。「ルソフォビア」は、ロシア恐怖症またはロシア嫌悪症と訳される。ロシアは外では膨張主義、内では専制主義であり、プーチンに象徴されるロシア独裁者の対外政策は国際秩序を破壊し独裁と抑圧を広めるという言説は、歴史的に進化してきたと著者は主張する。ロシアに関するすべての事案はロシアの責任だと西側は主張しているというのだ。

 その歴史的な根源を、中世のローマ・カトリックとコンスタンティノープル東方正教会への分離につながる反目という点から探っている。コンスタンティノープルの東ローマ帝国は依然として「ローマ」という国号を使っていたが、1557年にドイツの歴史学者ヒエロニュムス・ウルフが「ビザンチン」という名称を付けてからは「専制的で、残忍で、未開の」東方帝国と規定した。東ローマの継承者を自任するロシアが、17世紀以降に欧州列強として登場すると、フランス・ドイツ・英国・米国などの西側列強がルソフォビアを本格的に生産したと著者は指摘する。ロシアのインド洋への進出を述べたことでロシア膨張主義の教本とされるピョートル大帝の遺書は、フランスの外交官らによって虚偽捏造されたことが、米国の歴史学者マーティン・マリアらによって明らかになっている。

 英国は19世紀にユーラシア大陸の覇権をめぐってロシアと激突したグレートゲームの際、ロシアのインド攻撃の可能性を理由にアフガンに侵攻した。現在まで続くアフガン戦争の起源だ。当時、ロシアはインドからは砂漠と山岳によって隔離された2千キロメートル先にあった。インドを攻撃する能力と意図は現実的になかった。第2次世界大戦後、米国の冷戦政策の主軸である対ソ連封鎖の哲学的根拠は、ジョージ・ケナンが主張したロシアの歴史的膨張主義だった。当時トルーマン米大統領は、捏造されたピョートル大帝の遺書を根拠に挙げた。ロシアは中世のモンゴル侵略の時に欧州の防波堤となり、ナポレオンとヒトラーを敗退させて欧州を守ったが、単に「もっと悪い悪党」と考えられている。

 ギー・メタンは、ロシアの正当性を擁護してはいない。彼は「ロシア帝国がキャビアを売ったり優しくふるまったりすることで築かれたものではないことは確かだ」と前置きしている。ただ、西側の列強もロシアも同じように帝国主義的な膨張をし、彼らの対外政策は国益に基づいた善と悪のすべての要素があると指摘する。しかし、特に米国などの西側の政策は自由と人権に立脚した善であり、ロシアは膨張主義と専制主義を貫徹しようとする悪だという言説で彩られてきたと批判する。

 ギー・メタンは、このルソフォビアがアジアに対する偏見と嫌悪であるオリエンタリズム、反ユダヤ主義、イスラムフォビアと軌を一にしていると指摘する。「ロシア人を弁護するためではなく、彼らも我々と同じだということを、より悪くも、より良くもないということを知り、ロシア人の行動を状況に合わせて理解」することが必要だ。ソ連封鎖政策の哲学的根拠を提示したジョージ・ケナンでさえも、最近は「西欧は、プーチンの政策が安保だという明白で合理的な考慮で明確に説明されうるということを否定する」と述べ「西欧は自分たちの行き過ぎた攻撃性に対抗しようとしているということでロシアを罰するだろう」と批判した。

 ウクライナの危機は、NATOをめぐり自国の勢力圏を拡張しようとする米国とロシアの国益衝突から生じる。米国とロシアの両方に善と悪の側面がある。どちらかが一方的に善であり悪であるという二分法は、ウクライナと似た地政学的位置にある韓国を似たような運命に追い込むだろう。そのことを直視しなければならないと『ルソフォビア』は指摘する。

チョン・ウィギル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/1031619.html韓国語原文入力:2022-02-18 09:46
訳C.M

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