原文入力:2012.04.20 20:31修正:2012.04.20 20:31(2749字)
←米国の医療保険体制を批判した映画<シッコ>の一場面。医師キム・ジョンミョン氏は著書『医療保険 絶対に加入するな』で、営利的な民間医療保険が国民健康保険を脅かす段階に達したとして、危うい均衡がこわれる前に健康保険を拡大・強化することを主張する。 <ハンギョレ>資料写真
『医療保険 絶対に加入するな』 キム・ジョンミョン著 / イアソ発行 ・ 1万3000ウォン
医師が資料を漁ってセコい手を暴露
支給率・更新時の引上げ幅厳密検討
「加入者だまして大金もうけ」の実態解明
この本は民間医療保険のセコい手を暴露する告発状だ。 同時に民間医療保険が国民健康保険を脅かすほど図体が大きくなった現実に対する警告だ。 著者は京畿(キョンギ)道立医療院ポチョン病院に勤める現職の医師で、<国民健康保険一つで 市民会議>の運営委員、人道主義実践医師協議会政策委員、<私が作る福 祉国家>の医療チーム長としても活動している。
著者は民間医療保険に入るよりは、いっそのこと貯蓄する方がましだと話す。 民間医療保険は消費者をそそのかし時には脅して保険料を取り、居ながらにして大金を儲ける手段にほかならないという。
2010年現在、韓国人の56%が癌保険に加入している。 その姑息なやり方は、支給率すなわち保険会社が加入者からかき集めたお金と保険金として支給するお金の比率を見れば露わになると分析する。
例えば、ある生命保険会社の保障型癌保険商品。 40才男性基準10年の間月1万6200ウォンを納めれば、加入期間中に癌にかかった場合4000万ウォンを支給するという内容だ。 国立癌センターの癌登録資料でこの商品の支給率を計算してみよう。 統計資料は、40代の1000人中10年以内の発病者は19.1人だ. 保険料収入は「1万6200ウォン×12ヶ月×10年×1000人」だから19億4400万ウォン。 ところが支給保険金は「4000万ウォン×19.1人」で7億6000万ウォンだ。 19億ウォン余りをかき集めて7億ウォン余りを支給するので、支給率は39.3%に過ぎない。 残りの60.7%は保険会社の取り分だ。
保障型は元金が消滅するから保険料がもったいない面がある。 そのように考える人々を狙って出された商品が満期払い戻し型だ。 満期になれば払った保険料を返してくれるというのだ。 保障型より有利な商品だと感じやすいけれども、全くそうではございませんという。 物価上昇率と定期預金に入れた場合の収益率を考慮すれば、保険支給率は純粋保障型と同様40%水準だ。 保険料が保障の2倍以上なのだから、保険会社にとっては 花見コウだ。 参考までに、米国はオバマ政府になって支給率下限ラインを80~85%と規定した。
姑息なやり方は、時に頭隠して尻隠さず式だ。 癌保険の広告を見れば「更新時保険料が引き上げられることがあります」という一言が付いているものが多い。 更新保険という意味だ。 「10年満期10年納入更新型」ならば10年保障された後、継続するには契約を更新しなければならないということだ。 この時、保険料は引き上げられることもあるのではなく、必ず引き上げられる。 男性の場合、引上げ率はほとんど100%だ。 これは年齢にともなう癌発病率の急騰によるものだ。 40代前半の発病率を1とすれば50代前半は3倍、60代前半は7.2倍、70代前半では13.6倍だ。 保険会社はこの商品を発病率の低い30~40代に集中的に売り込み、本来保険が必要な50~60代には売らない。 売っても加入できない。 保険料が月20万~30万ウォンに達するからだ。
実損保険も同じだ。 健康保険が保障してくれない本人負担金を保障する商品で、本格発売後5年にもならずに加入者が2600万人に達した。 多くは3年ごとに更新するようになっているが、そのたびに44%引き上げられる。 40代の男性が加入時には8194ウォンを出すが、引退時点である61才には7万3000ウォン、70才には21万8000ウォン、82才には90万ウォンを越える。健康な老後を保障するという言葉は嘘だ。
問題は民間保険加入規模が33兆ウォンで、健康保険の30兆ウォンを超えている現実だ。 国民は1人当り国民健康保険料として月平均2万7000ウォン、民間医療保険で5万5000ウォンを払っている。 現在の健康保険は総医療費のうち60%だけを保障するのだが、40%の不足分を埋めるために60%を保障する健康保険料の2倍を支出しているわけだ。
著者は民間医療保険と健康保険の共存が危険な状況に達していると言う。 民間保険会社が市場を拡大しようと健康保険領域を狙っており、イ・ミョンバク政府は健康保険拡大よりは健康保険の不十分な部分を民間保険で解決するようにする政策をとってきたという。 当然指定制(訳注:基本的にすべての医療機関に健康保険の適用が義務付けられている制度)の廃止、営利病院導入など医療民営化政策がそれだが、これは民間医療保険が大手を振って歩けるようにお膳立てしたことになる。
著者は韓-米自由貿易協定(FTA)発効で医療保険市場もまた米国のように変わることを憂慮している。 米国には全国民対象の健康保険制度がない。 65才以上のための健康保険であるメディケア、低所得層対象の医療給付であるメディケイドがあるだけだ。 大半は民間医療保険を利用している。 これに2009年基準で年間1世帯1万3375ドル(1500万ウォン)、1人4824ドル(550万ウォン)がかかる。 そのため国民の15%が無保険者だ。
米国の医療費は韓国と比べて10倍程度高い。 盲腸手術は保険がなければ1万~3万5000ドル程度かかる。 米国人が破産する最大の理由は医療費だ。 2007年の個人破産申請者の62%に達する。その 医療費破産者のうち78%は何らかの医療保険を持っており、とりわけ60%は民間医療保険に入っていた。
イム・ジョンオプ先任記者 blitz@hani.co.kr
原文: https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/529323.html 訳A.K