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[特派員コラム]‘在日同胞’は悲しい/チョン・ナムグ

原文入力:2012/05/31 19:15(1579字)

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 ソ連の独裁者スターリンがある日、大切にしていた金時計が無くなったと言って警備責任者を呼び泥棒を捕まえろと指示した。 ところがいくらも経たないうちに洗面台で時計を見つけた。 スターリンが‘もういい’と言うと、警備責任者が言った。「もう手遅れです。30人を捕まえ、すでに29人が自白しました。」この作り話はスターリンの言葉で終わる。「なんだと? まだ自白をしない奴はどういう奴だ。」 悲しいことにそれは遠い国、他人の話だけではなかった。 先日、東京で韓国系企業の幹部である一人の在日同胞に会って過去の話を聞いた。 ソウルに留学していた1980年代初めのある日、彼はわけも分からないまま捜査機関に連行された。 捜査官がいきなりこのように尋ねた。

"いつ戻ってきたのか?"

 びくっと凍りついた彼が「どこへですか」と問い直すと捜査官は 「この××、ちょっと痛い目を見なければならないようだ」と言って無慈悲に暴行し始めた。 北韓へいつ行ってきたのかという質問だった。

 幸い彼は獄苦を体験せずに解放された。 しかし多くの在日同胞留学生が捜査機関に捕えられひどい拷問にあった後、スパイであることを認めて長く獄中生活を送った。 民族意識が強く、軍事独裁政権に否定的な考えを持った人が多数犠牲になった。 日本にいる間、総連系の人に会いでもしたとすれば罠から抜け出す方法がなかった。 彼らの中にはからだが完全に壊れてしまった人々も少なくない。

 もちろんスパイ罪で有罪判決を受けた在日同胞の中には、実際に北韓に行ってスパイ教育を受けてきたり、スパイ行為をした人もいるだろう。 しかし本人がそのような容疑を否認していて、調査される時や裁判初期の自白以外には何の証拠もない人にまで、その時期の有罪判決を突きつけて‘口を開くな’というることは行き過ぎだ。 それは‘お前一人殺しても何の問題もない’としてにたりとした拷問技術者に‘どうかひとおもいに殺してほしい’と絶叫した人々の魂をもう一度踏みにじることであろう。

 幸いわが国の裁判所が無念な罰を受けた人々の恨みをはらしている。 拷問を受けて行った自白が唯一の証拠となって有罪判決を受けた人々に裁判所が再審の機会を与えたのだ。 去る24日、最高裁はキム・ドンフィ(1975年学院浸透スパイ事件拘束)氏など2人に無罪を宣告した。 これで今までに‘在日同胞スパイ’の中で無罪が確定した人が6人に増えた。 4人は高裁で無罪判決を受けた。 再審が受け入れられたり再審を申請した人も10人ほどになる。

 最近のカン・ジョンホン氏に対する無差別‘スパイ’攻勢は彼らを再び恐怖に突き落としている。 彼が去る総選挙で統合進歩党比例代表18番を配分されて、予想外に国会議員になるところだったのが事態の発端だった。 カン氏はソウル大医大に留学中だった1975年に拘束されてスパイ罪で死刑宣告を受けた人物だ。 しかし過去史整理委員会は彼の事件を‘拷問による捏造’と2010年に結論付けた。 裁判所も再審を受け入れた。 それなら、裁判結果を待つ程度の雅量は示しても良いのではないだろうか?

 スパイ罪を着せられた在日同胞が今望むことはただ一つだ。一度だけでも公正な裁判を受けられるようにしてほしいということだ。 こういうことでは独裁の威勢に屈服し法廷まで正義にそっぽを向いた過去史が繰り返されるのではないだろうか、彼らは震えている。

チョン・ナムグ東京特派員 jeje@hani.co.kr

原文: https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/535550.html 訳J.S