原文入力:2012/02/17 08:00(2128字)
朴露子(パク・ノジャ、Vladimir Tikhonov)ノルウェー、オスロ国立大教授・韓国学
私はこの文を真夜中のモスクワで書いています。ここで3日間学会に参加していたため、死ぬほど疲れており、夜が明けたらオスロに戻らなければなりません。それで、今、眠れない夜、ホテルの一室でここで見聞きしたことをごく簡単にまとめてみたいと思います。
少数の中産層とその若い子供たちはやや異なる世界観を持っているとはいえ、私の接した多くの平民、特にソ連時代をよく覚えている40代以上の平民たちの精神的状態を一言でいえば「絶望」に近いものと見なければなりません。ソ連崩壊後約20年の間、消えつつあるのは精密機械の生産能力や先端科学だけではありません。周辺部型資本主義体制下の殺人的な競争の中で「人間」そのものが利潤追求に走るだけの一種のロボットに変わっていきます。致命的な疾患を抱えた90歳のお婆さんが救急車を呼び出したのですが、以前にもしばしば救急病院へ運ばれたことのある彼女が遂に死んでしまいました。彼女を治療する手間を省きたいばかりに、わざと彼女を3~4時間も待たせ、結局は死なせる「医者」のことを何と呼べばいいのでしょうか。そんな人間を「医者」というなら、アウシュビッツでホロコーストを主導した医学者かつ人類学博士のヨーゼフ・メンゲレ(Josef Mengele、1911~1979)も「医者」だったと言わなければなりません。「医者」たちだけがそうなんでしょうか。多様な資本家たちは特に何の権利もない中央アジア系移民労働者たちに年中無休、一日12時間ずつの殺人的な労働を強い、プーチン系列の政権強盗たちが彼らの指揮により(ロシア保安機関の主な儲け口である)麻薬密輸に資産家が関わろうとしない場合は、何とかして「濡れ衣」を着せ、財産を掠奪し本人を監獄に送る国では、その権力ピラミッド内には正常な人間は存在できません。1970年代の南韓で大朴正煕の下で多くの小朴正煕たちが出現し、職場ごとにその部下たちの生活を地獄のように変えたのと同様に、一人の大プーチンは多くの小プーチン、すなわち権力型犯罪者たちを育てているのです。ソ連の人民たちが70年間血の汗を流して築いたあらゆる国富を、たった今この強盗的な徒党は組織的に掠奪しているのです。
しかし上で述べた絶望の片隅に一つの希望もあります。1917年10月革命を控えた帝政ロシアもそうだったように、最近のロシアの問題も単なる制度的な「民主化」、すなわちプーチンの強盗的な徒党の除去や「公明選挙」の実施などでとうてい解決できそうにありません。ロシアの勤労人口の約53%は韓貨約60万ウォン以下の所得しかない貧困層であり、特にその最下位の約17%は餓死の臨界点を往来しているのです。すなわち、いつ食べられなくなるかわからない極貧者たちです。工業の衰退などによる失業問題、年金生活者たちの大規模な窮乏問題などに基づくこの貧困の問題を、果たして「公明選挙」で選出されたブルジョア的な議会は解決できるでしょうか。解決しようとすれば、ブルジョアたちのいわゆる「財産権」を無視し、彼らが約20年間掠奪してきた企業などを先ず速やかに無償没収して再共有化し、労働者たちの管理委員会の統制下置かなければならないはずですが、それだけの急進的な改革をいかなる議会も推進することは難しいでしょう。政治資金の提供などのいくつもの通路で有産層と繋がっている国会議員たちがそのような法律を通すはずがありません。同様に、今のような約13%の一律課税の廃止と高率の富裕税を含む累進税の導入なしには教育と科学を復活させる大々的な知識インフラの投資も国家はできないはずですが、いかなる議会も富裕層に対するこのような「赤衛軍的な攻撃」はできないでしょう。つまり、今日のロシアのような場合は、形式的な「民主化」は一つの中間段階にはなりえても、窮極的には多数の絶望を解決することはできないでしょう。
解決方法はたった一つ、それはまさに革命、すなわち(少なくとも農業用の土地と大規模・中規模の企業及びすべての銀行に限り)私有制の廃止と議会民主主義ではない労働者中心の直接民主主義に基づく新しいソビエト式民主主義の導入でしょう。「民主化」ではない急進的な変革が「ロシア問題」の解決の中心になっているということは希望といえば希望です。このような革命をもたらす大衆的な運動がロシアでいつ起きるか今は予測できないものの、一度起きるようになったら、もしかすると大韓民国よりロシアで勝利する可能性は高いかもしれません。遠からぬ過去に高速成長を経験した大韓民国にとり資本主義とは大衆意識の中でまだ「成功」と結び付いているのですが、ロシアの資本主義はただ無惨な失敗作にすぎません。今回のロシア旅行でこの事実を再び確認したことは大切な収穫でした。
原文: http://blog.hani.co.kr/gategateparagate/41246 訳J.S