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[市民編集者の目]“FTA”に対する兪吉濬(ユ・ギルチュン)と 朴珪壽(パク・キュス)の答え

登録:2011-12-01 09:01

原文入力:2011/11/29 20:17(3224字)


鎖国論は相手の主張を歪曲し自己の立地強化せんとする扇動
我が国の実情に合わない米国の社会・経済体制導入阻止せねば


「論争で勝つ方法は相手の論理を破るところにあるのではなく、それを歪曲するところにある。」何かのコミュニケーション理論に基づいてのことではない。韓国社会でなされている論争の観察から得られる結論だ。 韓-米自由貿易協定(FTA)を巡る攻防戦で、イ・ミョンバク政権は協定の問題点を指摘する人々を旧韓末の鎖国論者や北朝鮮の閉鎖経済支持者くらいに扱った。
チョン・モンジュン前ハンナラ党代表は「今鎖国政策をとろうと言うのか」として「FTA反対論者はノ・ムヒョン前大統領を売国奴と言うのと同じだ」と言った。 事実その協定に関する限り、ノ・ムヒョン大統領は最初のボタンを掛け間違えるという誤りを犯した。 彼もまた「鎖国しようと言うのか」と言って相手方を追い詰めたことがある。 しかし保守陣営が彼を引き込むならば不当だと思われる部分もある。 彼は2008年退任後、米国で金融危機が発生するとすぐに再協議を主張したが、イ・ミョンバク政権はかえって米国の要求をさらに反映した協定案に合意してしまった。

自由貿易協定は結局「開放か鎖国か」という論争に行ってしまったが、それは論争ではなかった。 平等な両国関係と経済主権の保障、開放の速度、何を解き何を守るべきかなどを議論すれば良いわけなのに“鎖国”云々するのは、相手方の主張を誇張・歪曲して自己の立地を強化しようとする中傷宣伝にほかならない。 『西遊見聞』を著した兪吉濬(ユ・ギルチュン:旧韓末の開化運動家)も「開化には行き過ぎた者の弊害の方が足りない者より深刻だ」として朝鮮の実情に合う自主的開化を主張したが、最近の“開化派”は全くはばかる所がない。


今回の協定の利害得失はどうなるだろうか? 比較方法は簡単だ。 片方では快哉を叫ぶのに他方では「よくやった」「その反対だ」と言って身内の争いが起きているとすれば、得失は明らかではないか。 米国の要求で始まった再協議が昨年12月妥結した時、米国の言論は「韓国側が驚くべき譲歩をした」と報道した。また、協定履行法案が米議会を通過した翌日の10月13日、イ・ミョンバク大統領は米議会演説で45回も拍手を受けた。 しかし韓国では催涙弾がさく烈する中で(訳注: ハンギョレ・サランバン 2011年11月24日 「庶民の生存権に対しテロを加えたハンナラ 無理にでも涙を絞らせたかった」を参照)通過した批准案が深刻な論議の的になっている。


協定を巡る報道をモニタリングしてみると、国内の保守・進歩言論は完全に相反するが、外国の言論はほとんどみな米国の利害関係が貫徹されたと見ていることが分かる。 <ウォールストリート ジャーナル>は韓国の対米黒字が減るだろうと言い、<BBC>は韓国などアジアに対する米国の輸出が100億ドルぐらい増えるだろうと報道した。


しかし要点は黒字が減るというところにあるのではない。 もっと大きな問題は、協定と共に米国の法律と国家モデルが韓国に強要されるというところにある。 米国は経済だけでなく医療・社会保障など社会システムまでだめになってしまったことが判明して久しいが、それを私たちが踏襲しようというのか? カール・ポラーニの言う「社会的関係が経済システムの中に含まれる」事態が到来したのだ。


韓-米協定は不平等でもある。 韓国側は協定に抵触する国内法を大挙改正したが、米国は履行法102条で韓-米協定の内容で米国法に抵触するものは無効と規定しておいた。 韓国の憲法は条約に国内法と同じ効力を付与していて特別法である協定が優先だが、米国はそれを排除しているわけだ。


私たちの憲法はいわゆる“経済民主化条項”があって米国よりは先進的な憲法だ。 国家を凌駕する一部の大財閥の力のために死文化した側面はあるが、経済主体間の調和を通じた経済民主化のために経済に関する規制と調整ができることになっている。 中小商人を保護するための「流通法」や中小企業-大企業の協力のための「共生法」がやっとのことで設けられたが、自由貿易協定はそれを無力化する力を持っている。


もはや民営医療保険規制も難しくなり、公共サービスの民営化も元に戻すことが出来ない趨勢になるものと見られる。 財閥規制は言うまでもない。 三星(サムスン)など一部の大財閥が系列経済研究所と報道機関等を通して粘り強く主張してきた懸案を、米国の力を借りて一挙に解決した結果となった。 大企業中心の“雇用なき成長”は続くだろうし両極化はより一層深刻化するだろう。
このように大々的な社会変化をもたらす協定批准案が可決された翌日<ハンギョレ>が1面トップ記事で「通商主権、闇討ちに遭う」とタイトルをつけたのは、視野がちょっと狭く思われる。 通商だけが問題になるのではなく“経済主権”を奪われたのであり、米国式経済・社会体制が導入されて私たちの憲法精神が侵害されたのだ。 イ・サンドク議員がバーシュボウ駐韓米大使に耳打ちしたという表現を借りるならば“骨の髄まで親米”であるイ大統領と行政府が立法権と司法権まで侵害する行為を犯したのだ。


問題の多い協定がそのまま批准に至ったのには反対側の主張を歪曲・誇張した保守陣営の談論が相当効力を発した面もあるが、野党と進歩言論が対応を誤ったせいもある。 民主党は当初「投資家-国家訴訟制」(ISD)さえ再交渉するならば批准に同意するという意向をほのめかすことによりあたかも他の部門には別に問題がないという印象を与えたが、<ハンギョレ>も民主党のフレームについて行った側面がなくはない。 <ハンギョレ>はまた、批准案処理が「12月に持ち越す可能性もある」という解説記事(11月18日付)を出し、本意ではないにしろ22日の奇襲処理の“煙幕弾”となった。
 

←イ・ボンス市民編集者、世明(セミョン)大ジャーナリズムスクール大学院長


さらに、ノ・ムヒョン政権時代の経済官僚が主軸の民主党交渉派は戦力分散に決定的役割を果たした。 アン・ヒジョンとソン・ヨンギルのような当時の参謀級はノ・ムヒョン参与政府の誤りを反省するどころか保守陣営に利用される“内部の敵”になってしまった。 もちろん<ハンギョレ>は韓-米協定の問題点を一貫して暴いてきたし16・17日にも再交渉が米国と韓国政府のリップサービスであることを指摘するなど、それなりに大きな役割を果たした。


しかし保守陣営によって<ハンギョレ>があたかも開放自体に反対であるかのように罵倒された点は今後の議題活動の波及効果のためにも一度振り返ってみた方が良い。先進国が資本と商品の移動は自由という名で後発国に強要しながら後発国の持つ労働の移動は秩序という名で制限することが世界化の矛盾ならば、進歩談論はあたかも交易拡大を憂慮するような印象を与えるより労働の自由な移動を主張して真っ向から対立するのが効果的でありうる。


批准案奇襲処理の時、パク・ヒテ国会議長は(国会本会議を副議長に任せ)旧韓末開化派であるパク・キュス(朴珪壽)の墓を訪ねて参拝した。 “先覚者の苦悩”を見せたかったのかも知れないが、パク・キュスは実は自主的開化派だった。彼は平壌監司の時、不法に大同江(テドンガン)を遡って入ってきた米国商船ゼネラル シャーマン号に火をつけた張本人でもあった。


イ・ボンス市民編集者、世明大ジャーナリズムスクール大学院長


原文: https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/507746.html 訳A.K