原文入力:2011/10/07 10:01(4141字)
朴露子(バク・ノジャ、Vladimir Tikhonov)ノルウェー、オスロ国立大教授・韓国学
読者の皆様は覚えていらっしゃると思いますが、3年前、民主労働党の分党事態に際し韓国の左翼陣営の主な話題は「左翼ナショナリズムをいかに捉えるか」ということでした。左翼ナショナリスト、すなわち1980年代末のNLの後裔たちの覇権的な態度とやや非現実的で没階級的な北朝鮮観に対する抗拒の意味で複雑多様な「非NL」党員たちが立ち上がり、袂を分かったわけでした。3年が経過した今は、当時の抗拒の主役たちであった魯会燦(ノ・フェチャン)、沈相奵(シム・サンジョン)元議員や趙承洙(チョ・スンス)議員たちは本人たちが主導して作った進歩新党を離れ、「進歩勢力の統合」という名の下で事実上民主労働党の主流勢力である左翼ナショナリストたちとの「関係回復」を図っているようです。左翼ナショナリストたちとの関係を改善しなければ本人たちの慣れ親しんだ議会政治をすることは極めて困難であろうという切実な覚悟があったからこそ、進歩政治陣営から批判されかねない行動(組職の民主的な決定への不服従と離党)をしたのではないでしょうか。その行動に対する価値判断は各自で行うべきでしょうが、一つだけは確かです。議会政治に必要な「進歩側の票獲得」には、国内で左翼ナショナリストたちがほとんど主導的な役割を果たしているということです。彼らは運動社会の主流であるため、彼らとの関係を設定しない限り、運動社会を足場にする議会政治などを行うのは極めて難しいということです。議会政治をしなければ、場外の労働者、青年、貧民たちの組織者としての茨の道を歩まざるを得ないのですが、これは既に議会政治に染まってしまった人間にとっては極めて難しいことなのかもしれません。
では、このような運動社会における左翼ナショナリストたちの覇権、すなわち非常に強い影響力は果して韓国だけの特徴でしょうか。また如何なる理由によって形成される特徴でしょうか。この質問に答えるために、私は先日訪れたロシアの経験を紹介してみたいと思います。今日のロシアにおいて実質的な「戦闘的反政権活動」の中心に立っているのは、既に非合法化された、すなわちプーチン独裁によって禁止され地下に潜っている民族ボルシェビキ党()です。この政党の党名を見ただけでもそのアイデンティティが如何なるものなのか少しはお分かりだろうと思います。一方の「民族」とは、「世界帝国主義と資本主義、買弁勢力の捕虜になり様々な侮辱や権利の侵害にさらされ次第に消滅しつつある」ロシア連邦の人民たちを意味しており、もう一方の「ボルシェビキ」は1917年の偉大なる階級的革命への継承の意志を表しています。「民族」と「階級」が一つに重ねられているわけです。党は1992年に設立されましたが、その初期のイデオローグである「ユーラシア主義者」アレクサンドル・ドゥーギン(http://www.arctogaia.com/public/eng/)のやや国家主義的な傾向に従っていたため、当初はソ連に代わる「新しいロシア帝国」の建設を綱領に盛り込んでいるなど、むしろ極右的色彩を多少帯びていました。ところが、ドゥーギンが離党しプーチン陣営に合流してからは、党は左寄りになり、今は韓国や南米、中米の左翼ナショナリズムの原型に近づいているわけです。党首である有名作家エドゥアルド・リモノフの大統領選出馬宣言を見れば、その核心的な公約は一切のエネルギー関連企業の国有化、建設業の国有化、国家による低価住宅建設、農民への肥料・エネルギーなどの支援(http://nazbol.ru/rubr23/3840.html)、そして資本の国外流出の禁止と物価凍結、累進課税の導入(http://nazbol.ru/rubr23/3842.html)等々です。これらは左翼的な議題に他なりません。ところが、この左翼的な議題は「民族的」な議題とかなり有機的に結合しています。たとえば、リモノフは既に西側に流出されたロシアの大資本家たちのお金を安保機関などが捜し出し、再びロシアに戻さなければならないと主張しているのですが、ここには「西側勢力」と「買弁資本主義勢力」の反対側にまさにロシア人とロシア国家とその安保機関が存在するのです。リモノフがプーチン独裁に抗する理由は、金持ちたちによる独裁であるためですが、と同時にそれが根源的には親西側的な、すなわち表皮的には反米ジェスチャーをしているにもかかわらず真の反米抗争には出られない「反民族・親外勢」の政権であるためなのです。韓国のNLの世界観に似ているという印象は受けませんか。
誤解しないでいただきたいことが一つあります。リモノフとその同志たちの抗拒が「民族的」だからと言って、私はその真正性をまったく否定していません。むしろ今日のロシアにおける多くの反独裁民主化運動勢力の中ではリモノフの勢力こそが最も大衆的で庶民的で情熱的で自己犠牲的だと思います。リモノフ自身は2001~2003年に独裁の捕虜になった政治犯の一人として投獄される痛苦を経験しており、現在この政党の少なくとも10人の党員たちは様々な(多くはでっち上げられた)嫌疑で投獄されているのです。少なくとも3人以上の党員たちは警察の殺人的な拷問と暗殺の犠牲となり、既にこの世を去りました。少なくとも一例(「黒竜江周辺の遊撃隊」事件: http://ru.wikipedia.org/wiki/%D0%9F%D1%80%D0%B8%D0%BC%D0%BE%D1%80%D1%81%D0%BA%D0%B8%D0%B5_%D0%BF%D0%B0%D1%80%D1%82%D0%B8%D0%B7%D0%B0%D0%BD%D1%8B)では民族ボルシェビキ党出身がプーチン政権の警察官を処断するなど、武装「遊撃隊闘争」に積極的に加わりその闘争を主導しました。現在 武装闘争が話題になるほど闘争は激化しており、このような闘争への参加は実際に命をかける行為に他なりません。民族ボルシェビキ党の党員になるということは、逮捕や拷問、誰にも気付かれないまま殺害されることを覚悟することを意味します。それにもかかわらず数百、数千の若い闘士たちが躊躇せずにこのような道を選ぶ理由は何でしょうか。彼らの多くは低賃金労働者家庭の出身であり、貧富の格差が最早ブラジルを上回っている資本主義的なロシアでは彼らに如何なる未来もないという覚悟が闘争の主な動機になっているようです。他には、警察や保安機関の想像を絶する不正腐敗と不法拷問、民衆デモへの超強硬鎮圧に対する義憤、独裁と癒着して強盗的な手段で資本の増殖を図る新興富裕層に対する憎悪などの要因も彼らをして様々なデモや占拠篭城などをするように仕向けているのです。搾取、不正腐敗、無法天下、拷問と抑圧に対する憤り……。「民族/民衆/民主」陣営に合流した嘗ての運動圏学生たちの心象風景とあまり変わらないでしょう。それでは、彼らの抗拒がかなりの階級的(反資本的、反政権的)性格を帯びているにもかかわらず、何故これほどまでに「民族」の思惟と修辞に包まれているのでしょうか。
一言で言えば、世界体制の周辺部/準周辺部としてのある普遍的な現象ではないかと思われます。韓国でもロシアでも闘争に出る「熱血分子」たちにとっては支配層の世界資本/アメリカ/日本への従属は恥であると同時に民衆本位の社会建設の主な障害として認識されています。もちろんこの認識自体は必ずしも間違ってはいないものの、その重要な欠陥は世界体制の中心と周辺部を網羅する階級的な連帯への観点の不足です。このような連帯が実行されない限り、この序列的な世界体制全体を倒すことは極めて難しいでしょう。階級本位の、階級連帯的な観点が足りず、「国家と民族」に対する批判意識が欠けているため、この左翼ナショナリストたちは自分たちの「民族」が抑圧の主体になる場合(ロシア帝国主義者たちのチェチェン独立運動の抹殺、韓国資本による外国人労働者の殺人的な搾取等々)への反省をまったく欠いたりします。このように階級意識がまだ成長していない状態で「民族」意識に代替されたりすることは、客観的に労働運動の沈滞や経済主義的な限界などとも直接的な関連があります。今の韓国やロシアのように、労働組合が守勢に回り当面の経済闘争に没頭し、かなり官僚化して戦闘性を欠いているような場合には、急進的な青年知識人たちが労働運動に基き階級意識を発展させることはそれほど容易くありません。労働者たちが政治ストを続け、示威運動で常に前衛に立つギリシャやイタリア、スペイン、ポルトガルの場合は運動陣営においていくら反米意識などが強くても常に「階級」が優先されるため、国境を越える連帯に取り組もうとする意志も極めて強いのです。ところが、多数の労働者が個別的な経済利益を越えた汎人民的、反資本的な抵抗に出ていない韓国やロシアの場合は、結局「民族左翼」という奇形が生じてしまいました。残念ではあるものの、ある種の不可避性は認めざるを得ません。
「左翼ナショナリズム」という病を治す唯一の妙薬は労働運動の急進化と階級政党の成長です。今や階級政党としての体制を整え始めた進歩新党がありとあらゆる逆境をくぐり抜けきっちりと成長すれば、少なくとも一部の「民族左翼」らが「民族矛盾を優先」させる認識の虚偽性を見抜いて合流するかもしれません。しかし、これは決して容易いことではありません。ロシアと同じく韓国でも最早「民族左翼」は一つの「伝統」になっていますが、このような「伝統」は一度固着してしまえば、変えることは簡単ではありません。極めて難しいのです。