原文入力:2011/09/18 19:22(3524字)
←キム・スヘン聖公会(ソンゴンフェ)大客員教授
政府が失業者を救済するために財政支出拡大政策を行おうとすれば金融資本が反対し、金融資本が好む緊縮・耐乏政策を実施すれば失業はより一層増加し大衆の闘争は激化する。先進国政府と資本家階級はジレンマに陥っている。
2007年8月に始まった現在の世界大恐慌は資本の世界化に見合う民族国家間の協力体系不足により世界資本主義自体を崩壊の道に追い込んでいる。貧富格差、失業者、貿易・為替レート葛藤、武力衝突などをなくすことができる代案体制が登場しないならば人類は科学技術の巨大な発展が約束するバラ色の未来の前で挫折してしまうだろう。
借入償還能力もない人々にあらゆるえさを投げ住宅担保貸出を開始した金融企業、この非優良モーゲージ貸出を根拠にあらゆるでたらめ証券を作り高価で販売した金融企業、そして このでたらめ証券を購入したり保証してくれた金融企業が破産したことで大恐慌が爆発したのだ。初めは政府が緊急救済金融を提供し金融企業の破産だけを防げば恐慌が解消されるだろうと信じたが、破産をまぬがれた金融企業が恩を仇で返すように政府の債務増加と国債償還の困難性を問題視し国家信用等級を引き下げ緊縮・耐乏政策を実施するよう強要した。緊急救済金融のために増加した予算赤字と国家債務を国民の生活水準と社会サービスの犠牲を通じて埋めろという金融資本の要求に対抗してギリシャ・ポルトガル・アイルランド・スペイン・英国・フランスなどの国民は2010年5月から継続的にデモを行っている。2011年1月からは中東とアフリカの国民が数十年間の抑圧と収奪に対抗し外勢依存的で新自由主義的な独裁政権をアルジェリアとエジプトで打倒し、この革命はリビア・シリア・イエメン・バーレーンなどに広がっている。2月からは米国の各州政府が予算赤字を埋めるために公務員の解雇と賃金カット、学校・保健所・図書館・消防署・公園の閉鎖と縮小、そして老人・低所得層に対する支援削減を始めると国民は州政府庁舎を占拠し始めた。そして8月には英国、ロンドンの中心地で大規模暴動が起き、この暴動は全国に広がった。
今は金融的・財政的混乱の上に社会的・政治的危機が重なり、この総体的危機を打開するのがかなり難しくなった。政府が失業者を救済するために財政支出拡大政策を行おうとすれば金融資本が赤字財政を問題視して反対し、他方で金融資本が好む緊縮・耐乏政策を実施すれば失業はより一層増加し大衆の闘争はより一層激化し経済成長率は減少し財政赤字はむしろより一層増加することになる。今、先進国の政府と資本家階級は進退両難のジレンマに陥っている。かくして彼らはイスラム嫌悪主義、移民抑制、不法移民者追放など極右団体を支援し総体的危機の原因を曖昧にさせ、安保危機を強調し人権を抑圧する措置を取っている。さらに彼らは‘隣人を窮乏させ’自分ひとりが大恐慌から脱出しようと貿易・為替レート戦争と武力的な侵略戦争を繰り広げているため、世界経済はより一層縮小している。今、ヨーロッパ連合とヨーロッパ中央銀行およびユーロ貨幣はギリシャの国債償還不履行問題のために事実上 存廃の危機に直面し、米国は量的緩和を通じてドル貨幣を大量発行しドル貨幣の通貨切下げを試みているが、日本とスイスは自国通貨の平価切上げを防ぐためドルとユーロに対する最低為替レートを設定し、リビアのカダフィ一家と支持者に無慈悲に爆撃と射撃を加えた列強は石油利権分配を巡り対立しており、世界の二つの経済大国 米国と中国はことごとに衝突している。
国際的災難と家計破産、および大衆の暴動を避けながら世界大恐慌から脱出する最も良い方法は失業者に適切な働き口を提供することだ。米国の自由主義的経済政策研究所(EPI)の最近の推計によれば、米国では2007年12月から今まで恐慌をたどりながら失われた働き口が690万ヶであり、この期間に労働人口増加で必要になった働き口が430万ヶなので、現在 働き口は1120万ヶが不足している。この働き口不足を今後5年間で埋めようとするなら毎月28万ヶの働き口を創り出さなければならない(月平均10万人の労働人口増加分含む)。ところで2011年6~8月の3ヶ月間の月平均働き口創出は3万5000ヶに過ぎなかったが、こういう速度で行くならば15年かかって恐慌以前の失業率4%に到達できるということだ。
9月8日、オバマ大統領が上下院合同会議で発表した‘働き口法案’はルーズベルトのニューディールとは全く性質が違う。ルーズベルトは公共事業、失業給付、社会保障を通じて政府主導で失業を解消しようとし、所得税率を大幅に引き上げ、特に最高税率を25%から80%に引き上げた。 反面、オバマはブッシュの金持ち減税(最高税率を39.6%から35%に引き下げ)をそのまま据え置き働き口拡大のための資金は社会プログラム(老人と低所得層のための公共医療保険、退職後生活保障など)の削減を通じて調達し、民間企業に恩恵を与え失業者を雇用させるようにするという。結局、オバマ政策は企業が失業者を安い価格で雇用し、より一層絞り取るよう政府が補助金を与える格好になってしまい、社会プログラムの削減は国民の購買力を削減し却って経済成長率を低下させ財政赤字を拡大させるだろう。
1人当り国民所得が2万ドル(約2000万ウォン)の韓国ではすべての国民が豊かに良い暮らしをすることができる財源はあるわけだ。なぜなら昨年使った工場・機械・原料を補充した後、すべての国民に1年に2000万ウォンを分け与えることができるためだ。4人家族が1年に8000万ウォンを使うならば、すべての家庭でお金のために心配し自殺する事件は完全になくなるだろう。ところで現実はそうではない。何が問題か?
政治的独裁を打倒し全ての国民に自由を与えることが民主主義ならば、大規模な失業をなくすことも民主主義を確立する道だ。企業の経営目標を利潤追求でなく国民の必要充足に置くならば失業者は自然になくなることになる。
民主主義が主権を持つ国民が自ら自分を統治することを意味するならば、少数の権力者が自由を一人占めし国民大多数を抑圧することや、少数の財力家が富を一人占めし国民大多数を飢餓線上に置くことは決して民主主義ではない。政治的独裁を打倒し、全ての国民に自由を与えることが民主主義ならば、大規模失業をなくすことも民主主義を確立する道だ。失業は求職者のスペックが足りないからでなく、企業家が利潤を得るために就業者数を縮小するから生じるのであるから、企業の運営目標を企業家の利潤追求に置くのではなく国民の必要充足に置くならば失業者は自然に消えることになる。例えば、巨大な金融企業と産業企業を国民が所有する公益事業に転換させ、民主主義的に統制すれば金融企業と産業企業は利潤獲得ではなく国民に働き口を提供しながら資金が必要な国民に安い利子で資金を貸付け国民経済の調和がとれた発展を図ることになるだろう。そして労働者の労働時間を減らし作業を分け合うならば、働き口を増加させるだけでなく労働者に家族生活と工場と社会を改善する新しい構想をする時間を与えることになるだろう。住宅・教育・医療・年金分野でも公共性を強化して規模の経済を実現することにより費用を節約すれば、国民は心配しないで生活できるようになり、この分野で働き口がたくさん創出されるだろう。福祉政策が働き口を創り出しながら所得を産み、経済成長を促進することになるのであり、福祉と成長の間の矛盾は無用な悪口になるだろう。 国防費は完全に非生産的な支出なので、相手方の国家と平和な関係を継続維持することにより大幅に削減することになるだろうし、自分の専攻分野に専心没頭しなければならない青年を行きたくもない軍隊に引っ張っていき自殺までさせる徴集制度は当然に修正されるだろう。さらに1930年代のように国家間に貿易戦争・為替レート戦争が深刻化され、武力戦争がさく烈する可能性がある世界大恐慌では海外市場よりは国内市場を切り開く方法を重視しなければならないだろう。 そのためには福祉制度の拡大が特に必要で、米国政府と資本に従属しやすい韓-米自由貿易協定(FTA)は締結しないことが正しいだろう。
原文: https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/496655.html 訳J.S