本文に移動

民主主義を破壊するトランプ大統領…「けん制と均衡」も崩れつつある

登録:2026-09-17 06:49 修正:2026-09-17 08:12
ベネズエラのマドゥロ前大統領夫妻が1月5日、米国ニューヨーク・マンハッタンのヘリコプター発着場の近くで米連邦麻薬取締局(DEA)の武装要員に取り囲まれ、連邦地方裁判所へ連行されている=ニューヨーク/EPA・聯合ニュース

トランプの野望、帝国の本性//ハンギョレ新聞社
 「帝国の首都」と呼ばれる米国ワシントンの中心部を歩いていると、古代ローマの神殿や広場が思い起こされる。ホワイトハウスや議会議事堂、最高裁判所など、権力の中枢をなす建物の様式は、そのほとんどがローマ風だ。建国の立役者の一人であるトーマス・ジェファーソンが、議会議事堂とホワイトハウスを建設する際、ローマをモデルにした結果だ。議会議事堂が位置する「キャピトル・ヒル」という名称も、ローマの神殿があるカピトリーノの丘に由来している。主権在民と自由という建国世代が追求した政治的理想を体現しようとする意図が込められていた。しかし、ローマが残した遺産には、共和政の理想だけがあるのではない。権力が一人の人物に集中し、共和政が崩壊していった歴史もある。

 第47代大統領ドナルド・トランプは昨年1月20日、議事堂のロタンダ・ホールで憲法遵守を厳粛に宣誓した。しかし、トランプ大統領はその憲法の精神に背き、共和国を事実上の一人支配体制へと追いやっている。欧州で専制政治の弊害を経験し、新大陸に渡った建国の世代は、まさにそのような事態を防ぐため、けん制と均衡を共和国維持の中心的な仕組みとして設計した。権力が一人の人物に集中すれば、その野心と貪欲だけで共和政が崩壊し得ることを知っていたからだ。建国の立役者の一人であるベンジャミン・フランクリンは、憲法制定の過程で「帝王的な大統領」の危険性を警告し、「大胆で暴力的な者たち、荒々しい欲望と尽きることのない私利私欲に駆られる者たち」による権力闘争が起こることを懸念した。フランクリンは「そのような者たちの目前に、名誉の座であると同時に利益の座でもある官職を提示すれば、彼らはそれを手に入れるために全世界を揺るがすだろう」と述べた。1776年のアメリカ独立宣言からちょうど250年となる今年、250年にわたる民主主義の歴史が、稀代の扇動家一人を前に、最大の危機に直面している。

■ルビコン川を渡るトランプ大統領

 紀元前49年、ローマの属州であるガリアの総督ユリウス・カエサルは、軍団を率いてローマ直轄地との境界にあるルビコン川を渡った。属州総督が軍を率いて直轄地に入ることは禁じられていたため、これはローマに対する宣戦布告も同然だった。カエサルは内戦で勝利した後、終身独裁官に就任して共和政の命脈を断ち切り、ローマは帝政に移行した。カエサルは川を渡りながら「賽は投げられた」と言ったが、トランプ政権の2期目を迎えた米国は、まさにその瞬間に差しかかっているといえる。トランプ大統領は行政権を濫用し、司法の独立を揺るがし、選挙結果に不服を唱えようとしており、メディア・大学・市民社会の反対の声を攻撃している。民主主義の最後の守護者であるべき議会さえも無力だ。トランプ大統領によるソーシャルメディアへの1行の投稿で連邦下院議長候補が失脚し、現職の上下両院議員が予備選で敗れる光景を目の当たりにした後、議員たちは息をひそめた。ウォール・ストリート・ジャーナルは、ホワイトハウスの高官たちが「鉄拳統治」で議会を掌握していると冗談を交わし、トランプ大統領の側近であるスティーブ・バノン氏が、議会をロシアの形式的な議会であるドゥーマに例えたと報じた。共和政の基本原理が内側から崩れたのだ。

 米国の元安全保障・情報当局者の集まりである「ザ・ステディ・ステート(The Steady State)」は、この問題に情報分析の手法を適用した。中央情報局(CIA)・連邦捜査局(FBI)・国務省などの出身者約400人が参加する団体だ。彼らは昨年10月の報告書で、「米国は伝統的な独裁体制への直接的な移行というよりは、民主主義の後退という明確な兆候を示しており、実際にますます専制主義的な方向へと変化しつつある」と診断した。生涯にわたり外国の情勢を分析してきた彼らが、自国の政治を公式に評価したのは初めてのことだ。彼らは、行政措置、司法の判決、議会の活動、選挙管理、メディア・市民社会の状況など、観察可能な指標を根拠とした。

 報告書が「高い確信度」とした判断は3つある。第一に、行政府の権力の強固化、けん制と均衡の原則の侵害、公務員の保護制度や監察の仕組みの意図的な弱体化により、民主主義の後退が加速している。第二に、行政府が政敵と名指しした人物を処罰し、側近や友好勢力を保護するために、司法省や情報機関を積極的に武器化している。第三に、根拠のない不正選挙陰謀論やメディアへの攻撃、批判勢力の正当性を奪おうとする試みが繰り返されるにつれ、民主的制度に対する社会的な信頼が低下している。報告書は、これによって一部の人々の間で、権威主義的な国政運営を容認する傾向が強まる恐れがあると警告した。同団体は、米国が選挙や裁判所といった民主的制度の外形は維持しつつも、行政府の統制権を固めるためにシステムを組織的に操作する体制、すなわち「競争的権威主義」の道に入りつつあるという結論を下した。

 さらに踏み込んで、ファシズムに言及する声もある。ブルッキングス研究所のジョナサン・ラウチ上級研究員は1月、月刊誌「アトランティック」に寄稿した「そう、それはファシズムだ(Yes, It's Fascism)」と題する記事で、トランプ大統領の統治は政府を個人の所有物のように扱うレベルを超え、イデオロギーや実践のあり方においてファシズム的な性格を示していると主張した。ラウチ研究員が注目しているのは、無制限の権力の主張、司法制度の政治化、暴力の誇示、移民の非人間化、選挙の公正性に対する攻撃、白人・キリスト教ナショナリズム、指導者崇拝などが結合する様相だ。ラウチ研究員は、トランプ政権1期目については対外膨張への関心が低かったため、ファシズムと位置づけることを控えていたが、領土的野心や軍事的脅威、国際法への軽蔑が重なった第2期には、ファシズムが横行した1930年代の影を見出すと述べた。ただし、ラウチ研究員は、裁判所や州政府、メディアの独立性が残っている点を挙げ、トランプ大統領の試みが米国全体をファシズム国家に変えるまでには至らないとみている。

■トランプ大統領の覇権維持の「鉄の法則」とは

 より大きな問題は、世界を舞台にしたトランプ大統領の野心と貪欲さを、誰もけん制できない点にある。トランプ大統領は今年1月のニューヨーク・タイムズのインタビューで、自身が世界で行使する権限にはどのような制約があるのかという質問に対し、「一つある。それは私自身の道徳性、私自身の心だ。私を止めることができるのはそれだけだ」と答えた。トランプ大統領は国際法は必要ないとも述べた。自らを「丘の上の輝く」国と呼び、自由と民主主義を世界に広めることを自らの使命としてきた米国が、いまや抑圧と極右的独裁主義の伝道者へと転じつつある。

 ベネズエラへの介入は、米国の帝国主義的な本性を露骨に示した事例だ。トランプ大統領は今年1月、マドゥロ大統領を逮捕し、米国の刑務所に収監した。そして、記者会見で次のように述べた。「未来は、国家安全保障の中核である貿易と領土、資源を保護する能力にかかっている。これが世界覇権を決定づけてきた『鉄の法則』であり、われわれは今後もそれを維持していく」。トランプ大統領は先月28日、世界最大の原油埋蔵国であるベネズエラの原油埋蔵量の5分の1に対する支配権を確保したと発表した。1月の発言が単なるレトリックではなく本心だったことを示している。ニューヨーク・タイムズは翌日、「新たな形の米国植民地主義(A New Form of U.S. Colonialism)」という見出しの記事で、資源の支配権が米国に移ることに反発するベネズエラ国民の声を取り上げた。

1934年6月10日付のニューヨーク・タイムズに掲載された「われわれの帝国主義の時代は終わりに近づいている」と題する記事//ハンギョレ新聞社

 同紙が92年前に掲載した見出しと比較すると、歴史の逆説が鮮明になる。同紙は1934年6月10日、「われわれの帝国主義の時代は終わりに近づいている(Our Era of 'Imperialism' Nears Its End)」と題する記事で、「明白なる運命(マニフェスト・デスティニー)」という旧来の教義が、他国を対等な相手として扱う新たな政策にその座を譲りつつあると報じた。当時、フランクリン・ルーズベルト政権は「善隣政策」を掲げ、中南米への武力介入から距離を置こうとしていた。米国は1933年、他国の内政や利権に介入する権利はないと宣言し、翌年にはキューバに対する介入権を保障していた条約を破棄した。同紙は、米国が1898年のスペインとの戦争での勝利をきっかけに、プエルトリコ、フィリピン、グアム、キューバ、パナマ運河、ドミニカ共和国、ハイチなどへと勢力を拡大していったと記した。しかし、獲得した領土は資産ではなく重荷となり、米国はその後、経済的浸透という方式に切り替えたものの、これさえも対象国の経済を破綻させたり、米国製品の市場へと転落させたりしたにすぎないと批判した。そのうえで同紙は、「われわれは今や、たとえ意図がどれほど良いものだとしても、完全に異なる歴史と遺産を持つ隣国の人々に、われわれの政治・経済・社会制度を上から植えつけたり、強要したりしようとする試みが通用しないという事実を理解し始めた」と述べた。米国はトランプ時代を迎え、1世紀前の過ちを繰り返している。

■結局、米国市民の手に

 現在、米国はファシスト的な指導者と自由主義勢力との正面衝突に向かう岐路に立っている。最初の対決は11月の中間選挙、決定的な勝負は2028年の大統領選となるだろう。その間に何が起こるかは予測不能だ。民主党が下院の過半数を占めれば、弾劾手続きに入るのは明らかなだけに、トランプ大統領は中間選挙で敗北しても不正選挙だと主張し、選挙の有効性を法廷で争う可能性も排除できない。米国が「丘の上の輝く国」であり続けるか、あるいは、衰退する帝国の運命をたどるかは、最終的には米国市民の手にかかっている。250年前、ジェファーソンがローマの柱に刻もうとしたのも、皇帝の権威ではなく、市民の主権だった。

パク・ヒョン論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/international_general/1278008.html韓国語原文入力:2026-09-16 07:41
訳M.S

関連記事